ネタキャラがメインヒロインになりそうなので全力で阻止します!
たけのこ
プロローグ
「ネタキャラがメインヒロインになりそうなので全力で阻止します、だと!?なんてもんをタイトルにしやがるんだコイツは!」
いきなり何を言ってるんだこいつは。
放課後、ある女生徒に空き教室へ連れて来られたかと思えば、突然、教室前方にタイトルロゴが出現し、それをその女が一人、叫び怒りながら殴り続けている。
状況が理解できない。
「ええ、ええ、わかりますよ。メインヒロインになろうとする、いや、もう既にメインヒロインに半身浴してる私を、主人公であるアンタがそこら辺の女に粉をかけていき、別ルートを模索し拒む物語なんでしょう。このヤリ○ンが!」
なんて酷い言われようだ。
「わけわからん。なに?メインヒロイン?何の話だ」
「そんなことはいいから、主人公らしくさっさと地の文で自己紹介と私の紹介をしなさいよ、このバカ!」
「いや、そんなことって、お前が言い出したことだろ。それに、主人公ってなんだよ」
「この世界に生きる誰もが、自分の人生の主人公なのです。皆にそれぞれのストーリーがあり、それぞれの生き方がある。あれ、私が主人公?はい、自己紹介します」
「ブレるからやめてくれ。わかったよ、俺がやればいいんだろ」
教室の窓辺に近づき、空気椅子をしながら空気机に頬杖をつきアンニュイな顔で夕焼けを眺める。
俺の名前は
強いて言えば、優秀すぎるが故の孤独を抱えている部分が欠点かな。
そして、俺の前にいる頭のおかしい女の名前は岡椎奈である。おかしいな、である。
常套句ではあるが、黙っていれば猿くらいは寄ってくる見た目をしている。
「嘘をつくな!お前は成績も運動神経も中の中、前髪で目が隠れて男性視聴者も感情移入しやすい、容姿が普通と言いながら普通にイケメンな主人公にピッタリの人間じゃろがい!あっ、私の名前は白鳥麗奈、華も恥じらう十七歳、好きな血液型はエビ型、チャームポイントは泣きぼくろの右下に生える産毛ですっ!みんな、よろしくね!」
「センスが古いな。あと、ナチュラルに俺の頭の中を読むな」
ああ、どうしてこんなことになってしまったのだろう。
そう、始まりは二年に進級したばかりの今日、彼女と同じクラスになり席が隣同士になったことがきっかけだった。
「うーん、回想している間、私はどうすればいい?」
「黙っててくれ」
「へい」
ぽわぽわぽわ~ん。
―――この学校には頭がおかしい生徒がいる。
その噂は耳にしていたが、まさか、左隣に座る彼女がそうだとは思いもよらなかった。
新学期になり心機一転、新しいクラスで春を迎え一年の頃のボッチ生活におさらばだと、意気込み浮かれていた俺は盲目だった。
髪型をモヒカンにするなり危険人物の看板を引っ提げるなりしてくれたらよかったのに、タチの悪いことに岡椎奈はその時、普通の生徒を装っていた。
いや、今思い返せば会話の節々に怪しさが垣間見え危険信号が発信されていたが、それに気づかないほど俺はワクワクしていた。
そして。
出会ったばかりで親しげに話しかけてくる女には気をつけろ、と子供の頃から父に注意されていたのに、本当に、隣の彼女は見た目だけはまともだったので、話しかけられた時、調子に乗って返事をしてしまったのだ。
「ねぇ、放課後になったら、三階の空き教室に来てもらっていい?」
朝礼が終わった瞬間、彼女はそう言った。
登校後にほんの少しだけ雑談を交わしただけの仲だというのに、唐突に前置きもなくこんなことを抜かす奴は明らかに腹に一物を抱えているだろう。
それなのに、女性に耐性がなく舞い上がった俺は、まんまとその罠にはまってしまったのである。
そして放課後。
これが現実。
正体を現した彼女は何を言っているか、何をしているのか理解できない別の星の住人だった。
春の陽気に青春を期待したあの時の俺を殺したい。
「うむ、実に主人公らしいぼやきをありがとう。で、こうして放課後にキミを連れてきたのは他でもない。何が目的なのかと言うとだね」
「タイトル通り、メインヒロインになりたいんだろ?だから主人公の俺にちょっかいを出したわけだ」
「メタ発言、よくない」
「お前が言うな」
「はいはい、テンプレテンプレ」
しかし、どうしたものか。
出会ったばかりでここまでぶっちゃけて話す俺も俺だが、コイツの前ではツッコミを入れずにはいられない。
そして何より、いい加減にタイトルロゴを殴るのをやめてほしい。
「諦めろ。私と関わってしまった時点で、キミもこちら側の人間となったんだ」
「いや、明日からお前を無視すれば大丈夫だ」
「ま、なんてこと言うのかしらこの子は。こんなセンシティブな時代に!でも、好きな子ほどいじめたくなるって言いますよね。はぁ、湯豆腐食べたい」
なかなかに手強い相手、こうなればやけだ。
「ごめん、実は俺、もう彼女がいるんだ」
「あっ、それだとこの物語が成立しないんで駄目です」
「そんなことを言われても事実だから仕方ない。他を当たってくれ」
それだけ言い残し教室を去ろうとした所、岡椎奈が縋ってきた。
「ちょちょちょ待ちぃな、あんさんみたいに適度にツッコミを入れてくれる上にヤレヤレって言いながら付き合ってくれるような人材は貴重なの!こんな芸当、意志薄弱で主体性のない奴にしかできませんよ!」
「帰る」
「ヤダ~!灰色の人生を少しでも楽しくしたくはないの!?そんなんだから四十過ぎても童貞のままなのよぅ、このいくじなし!」
「ほっといてくれよ、男は三十過ぎてからモテ始めるんだ」
「アハハハハハ!ナイスジョーク!」
笑いどころがわからん。
このままでは埒があかないので、真剣に彼女の目を見て話す。
「いいか、ゲームやアニメの世界なら、お前と馬鹿をやるのも悪くない。ロード機能もあるからな。だがな、ここは現実で一度きりの人生なんだ。メインヒロインだの主人公だの、ここでは通用しないんだ」
「えぇ、さっきまであんなこと言ってたのに、それを言っちゃう?」
「と、とにかく、何を言われようと、お前と関わるつもりは一切ない!」
強めの発言をすると観念したのか彼女は俺から離れ立ち尽くした。
と思いきや、再び減らず口をたたく。
「見え~る見え~る、ぼっちで女友達もいないまま進級して心機一転、友達作りに精を出そうとするも、人付き合いの経験がなく人との距離感がわからないまま、気づけば独り寂しく卒業。そして、進学しようと就職しようと、誰とも親密になれず孤独に苛まれ四十代になって絶望し首を吊る。そんな結末を迎えるお前の姿がはっきりとぉ」
呪詛のようにぶつぶつ呟かれだその言葉は、確かに俺の胸に突き刺さった。
彼女も親友もいない、なあなあで過ごし決してボッチではないが誰かとつるむこともない、そんな中途半端な生き様。
まさか、コイツと出会ったことは俺の人生を変えるきっかけだというのだろうか。
ああ、それなら。
今こそ変わるべきなのだ。
コイツから逃げるためにも。
「もういい、わかった!そんなに言うなら、明日からバンバンと友達と彼女を作ってやろうじゃねぇか!」
「そんな話はしてないんですけどぉ。アンタが私の彼氏になる、それだけだ」
「いや、タイトル通りで癪だが、お前から逃げるために俺はリア充になってみせる!」
「そうして、彼はいろんな女生徒に手を出し、変態の名を冠するのでした」
「うるせぇ!」
こうして、悪い意味で胸が高鳴る新たな青春が始まるのであった。
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