第3話 俺がSランクに勝てる筈が…?

「”エアストシュート”!!」


 無属性の塊をドラゴンに放つ。


 最初から全力、様子見はしない。

 白い塊が真っ直ぐドラゴンへと飛んでいき、ウロコに包まれた肌に直撃した。


 これで少しでも動きを止めてくれれば……と、やや過剰に期待していたのだが。


「グギャアアアアアアアア!!」


「え?」


 悲痛な咆哮と共に、ドラゴンの身体が大きくのけぞった。

 効いている……?

 まさかSランク相当のモンスターに、俺の攻撃が通じるとは思っていなかった。 


 一体なぜ……その時、瀕死の美少女二人の姿が視界に映る。 


「……まてよ、こいつさっきの戦闘で消耗してるんじゃないのか?」


 やられているとはいえ、何かしらの戦闘は行ったはず。


 恐らくその時にダメージやデバフを食らっているのだろう。

 普通に考えて、落ちこぼれの俺がSランクモンスターにダメージを与えられるわけがない。


 畳み掛けるなら今がチャンス。

 一瞬で高火力を叩き出し、ヤツを動けなくさせれば、あの二人を逃がす事ができる!!


「はっ……!!」


「グォア!!」


 ドラゴンの火炎放射を紙一重でかわす。

 開幕の一撃が相当頭に来ているのだろうか。


 ブレスだけでなく突進や尻尾の薙ぎ払いなど、多様な攻撃を駆使して俺に襲いかかってくる。


「ほ、ふっ、はっ!!」


 だがかわすことができた。


 弱っているおかげで動きが鈍くなっているのだろう。

 俺は攻撃をかわしながら、右手に力を集中させ、大技の準備をする。


「いくぞ……」


 この技で少しでも動きを封じ込めたい。

 流石に倒すなんてことは不可能だろうから、一秒でも多く時間を稼ぐ事に集中する。


 かわしながら魔法で美少女二人がいる場所から、さらに遠くの場所へと吹き飛ばす……

 

 攻防を繰り広げながら、俺とドラゴンはダンジョン内を大きく移動する。

 そしてチャンスが来たばかりに、俺はため込んだ魔力を一気に放出した。


「エアストブラスト!!」


 ズオオオオッ!!っと渦のように回転した無属性魔法がドラゴンに襲いかかる。

 見た目は派手だし大きいが、実は見かけ倒し。

 吹き飛ばし力が高いだけでダメージ自体はそんなにない、ハズ。


 だが二人を逃すという目的には持ってこいの技だ。

 

「グオオオオオオ!!」


 渦がドラゴンを包み込む。

 さあ今のうちだ。

 急いで二人のところに戻ってダンジョン外へ脱出しないと……ん?


「オ……オオ……」


「え?」


 信じられない光景が広がっている。


 あのドラゴンの体がズタズタに引き裂かれていたのだ。

 硬そうなトゲトゲした鱗はほとんどが抜け落ち、全身には深い生傷をいくつも負っている。

 

 嘘だろ?

 あの攻撃でダメージを食らうのか?

 

「あ」


 ズズーン……


 ダメージを負っただけじゃない。

 普通に倒されてる。

 ドラゴンが地面に倒れ、動かなくなったかと思えば魔石と素材に変化したのだ。


「……」


 一体どういうことだ?

 あいつはSランク相当のモンスター……だと思ったんだが。


「見間違えだったのかな?」


 うん、そうに違いない。

 俺がSランクモンスターなんて倒せるわけないし。


 きっとSっぽいAランクモンスターだったんだろう。


「っといけない!! 早くあの二人を助けないと」


 ドラゴンを倒せた、という事実に気を取られて当初の目的を忘れかけていた。

 俺は急いで2人の元へ駆け寄ると、まとめて抱えて急いでダンジョンから脱出した。

 ちなみに魔石と素材は回収済み。


「うぉ……すげぇ」


 金髪の悪魔をおんぶ、

 銀髪の天使を前で抱えて運んでいるのだが……

 

 女の子の柔らかさを全身で味わえてしまってヤバい。


 背中には胸という弾力のある柔らかさが。

 正面には太もものややしっかりした柔らかさが。

 あまりにも刺激的すぎる感触に心臓がバクバク鳴り続ける。



 うおお、まずいまずい!!

 不純な感情を払拭するように急いで走り出した。


 今後、関わる回数は数回程度だろうが、この出来事は忘れないよう胸の奥にそっとしまっておこう……


――――――――――――――


「あれ、あの人……」


「あぁ……もしかして」


「?」


 翌朝。いつものようにダンジョンに向かっていたのだが、通行人がなぜか俺の方をチラチラと見てくる。


 あれ、なんかしたっけ?

 昨日は二人を病院に送り届けた後、ダンジョン協会に報告して、そのまま家に帰って寝ただけ……


 まさか、あの二人って有名人だったりする?


 周りの探索者について興味ないし、そもそもパーティも組んでもらえない。

 だからダンジョン界隈の事について知らないんだよなぁ。


 SNSも始めた当初にクソザコ乙wwwと煽られてから、ムカついてやめちゃったし。

 妙な視線に頭を悩ましている中、目的地である岩松ダンジョン前に到着した。


「あっ、音梨さん!! 待っていました!!」


「え、俺?」


 ダンジョンの近くに作られたダンジョン協会に入ると、俺の姿を見た職員さんが急いで駆け寄ってきた。


「昨日報告したダンジョン内での異変について、何かわかったんですか?」


「風間ダンジョンの件ですね、その件についてはまだ調査中なのですが……」


「はぁ……」


「無名さんが助けた二人の探索者さんがぜひお礼を言いたいと」


「俺に? 律儀だなぁ」


 事後報告だけは済ませておきたかったし、ちょうどいい。

 昨日手に入れたドラゴンの素材も手元にあるから、ついでに渡してしまおう。


 助けたとはいえ、横取りみたいになっちゃったしね。


「わざわざありがとうございます」


「いえいえ!! よき探索者ライフをー!!」


 二人はまだ病院にいるとのことなので、俺はそちらに向かうことにした。

 相変わらず通行人からはチラチラ見られ続けているけど。


 一体何なんだろうなこれ。

 

◇◇◇


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