第2話 襲われる二人の美少女


「……もう朝か」


 カーテンの隙間から朝日が差し込む。時間は……八時か。

 探索者は会社員ではないので、起きる時間は割と自由でいい。

 

 十分な探索時間さえ確保出来れば、昼に起きたって構わない。


「ふあぁ……行くか」

 

 食パンをかじり、冷蔵庫からヨーグルトを一カップ取り出して口に入れる。

 一人暮らしを始めてから、朝に食べるものはほとんど変わっていない。


 これだけで昼まで持つのだから、不思議なものだ。


―――――――――― 


「風間ダンジョンか……空気がヒリついているな」


 今回は風間ダンジョンに潜っている。

 風間ダンジョンはB〜Aまでのモンスターが出現しやすく、かなりの高難易度で知られている。


 昨日の番崎の一件で若干ムキになり、ギリギリ行けそうなダンジョンに来てしまった。 


「グウウゥ……」


「出たな……」


 前方に狼型モンスターが一体。

 確かフォレストウルフだったかな……Bランクモンスターでもかなり上位の強敵だ。


 敵意をむき出しにして牙を向けるフォレストウルフに対し、俺は剣を取りだして戦闘態勢に入る。


「グウァ!!」


 早速フォレストウルフが飛び出してきた。

 その速度は凄まじく、一瞬で俺の目の前に接近するほどだった。


 フォレストウルフの異常な速さに、多くの中級探索者が葬られたらしい。

 でも、


「はっ……!!」


 俺は対応することができる。


 何も持っていない”ように見える”右手をフォレストウルフの前に突き出し、反撃の構えに出た。

 モンスターの鋭い牙と人間の腕とでは相性が悪すぎる。


 それを本能で分かっているフォレストウルフは動きを止めず、そのまま突き進んでくれる。

 

「グゥア!?」 


「もっと周りを見とけよな」


 その判断が甘えだと知らずに、だ。


 腕と服の隙間に仕込んだナイフが、フォレストウルフの顔面を貫いた。

 しかもご丁寧にステルス魔法までかけて、ナイフを見えなくさせる用意周到さ。

 

 思わぬ不意打ちにフォレストウルフは動きを止め、じたばたもがき始めたのだが、


「終わりだ」


 既にチャージが完了していた無属性魔法で一気にとどめを刺す。

 フォレストウルフは一瞬で粒子と化し、魔石と素材に変貌した。


「はぁ……こんなことでしか狩れない」


 うまくいったが所詮は不意打ちの組み合わせ。

 番崎なら真正面からぶっ倒せるんだろうなぁ。 


 劣等感に悩まされながら、魔石と素材を回収していた時だった。

 

 ゴゴゴゴゴ……


「ん?」


 急な地響きでダンジョン内が大きく揺れる。

 ダンジョンで起きる異変というのは、基本的にモンスターが絡んでることが多い。

 これは……上位モンスターでも出現したか?


「Aランクくらいか……? いずれにせよ警戒しておくに越したことはないな」


 率先して倒しに行きたいが、周囲から気配は感じ取れない。

 おそらく遠くの方で出現したのだろう。

 

 ダンジョンに潜っているのは俺一人ではない。勝手に乱入して素材泥棒なんて言われるのも嫌だしな。

 よっぽどのことがない限りはスルー安定でOK。


「さーて、もう少し探索するか」


 もう少し素材を手に入れておきたかったので、探索を再開する。

 しっかしどんなやつが出たんだろうなぁ。

 近くに現れたら戦ってみたかった。

 

 ダンジョン内の異変に警戒しつつ、俺はしばらく探索していたのだが、


「出ない……」


 モンスターが一匹もいない。


 なんで? どういうことだ?

 モンスターの存在どころか気配すら感じ取れない。


「うーむ……」

 

 考えられることは一つ。

 さっきの地響きで何かが起きた。

 その何かが、ダンジョン内のモンスターを追いやったということ。


 未知の脅威から逃げる事は生物としての本能だ。

 ここまで影響するとは想定外だったが……一体どんなやつがいたんだ。


「グギャアアアアアァァァァァ!!」


「!?」


 なんて考えていた時だった。

 突然近くの壁を突き破って、竜型のモンスターが出現したのだ。


「ちぃっ!!」

 

 竜の突進を見切り、右方向へと素早くかわす。

 不意打ちではあるが、動きは単調。

 だが、その速度は冷や汗をかいてしまうほどだった。


「グルルル……」


「こいつか……ダンジョン内の異変の原因は」


 全身をトゲトゲしたウロコで包み、威圧的なオーラを放ちながら俺を睨みつけるドラゴン。


 推定ランクA、いやSか?

 このダンジョンには最高でもAランクしか出現しないはずなのに。

 とんでもないのに巻き込まれたな……逃げ切れるか?


 と、自分の事を精一杯考えていた時だ。

 ドラゴンが突き破った壁の奥から、微かな気配を二つ感じ取った。


「あ……う……」


「くっ……う……」


「ん?」


 壁の奥を見れば、二人の美少女が地面に倒れ伏せていた。


 一人は悪魔のような角と尻尾を生やしており、もう一人は天使のような羽を背中から生やしている。

 珍しいな、亜人なんて……ってそんな悠長な事を考えている場合じゃない。


 あいつに襲われたのか。


 ということは……

 ここから逃げたらあの二人が危ない。


「……」


 どうする……

 才能のない俺が勝てる相手なのか?

 

 こんなやつとは戦ったことがない、正直実力は未知数。

 本来なら、もっと準備と対策を練ってから挑むべき相手だ。


 しかし、俺がこの場を離れてしまえば、今度はあの二人が狙われてしまう。


 ダンジョンの世界は過酷だ。

 いくつもの脅威が襲いかかり、時には仲間に見捨てられて命を落とすこともあるという。


 あの二人と俺は何の関係もない。

 見捨てたところで、俺に何かしらの罪に問われることはない。

 だけど……


「見捨てるわけにはいかねえよな……!!」


 美少女二人を置いて逃げるなんて、男としてかっこ悪いだろ。

 倒せなくても、十秒……いや、三秒くらいは時間を稼げるはずだ。 


 なけなしの金で買った剣を取り出し、俺はドラゴンと向き合い戦闘態勢へと入った。


 この時の俺は想像もできないだろう。 

 今、この光景がカメラを通じて全世界へと配信されており、まさかあんな事になるとは。


 運命が大きく動き出そうとしている。


◇◇◇


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