無自覚で【無属性】持ちの俺は最強みたいです~外れスキルを3年間鍛え続けていたら、ダンジョン配信中の亜人姉妹に襲い掛かるS級モンスターを偶然倒してしまいました~

甘なつみ

第一章・無属性が覚醒しました

第1話 落ちこぼれの探索者

「それっ」


「グガアアアアア!!」


 ウルフ型のモンスターが真っ二つに切り裂かれる。

 血肉と化した死体が地面に落ちると、瞬く間に光の粒子となって魔石と素材に変化した。


 これで四体目……Bランクモンスターとの戦闘も慣れてきた。


「だけどまだまだ、ダンジョンにはもっと強いやつがいるらしいからな」


 現代にダンジョンが現れて五十年。

 初めは未知のモンスターや魔法という新たな概念に世界中が動揺していた。

 が、今では浸透している。


 それどころかダンジョンに潜って、魔石や素材を集めて売買するという新しい仕事まで生まれた。


 俺、音梨無名もその一人なのだが……実力はそこまでだ。


(もっといい潜在スキルがあればなぁ)


 思っても仕方ない後悔を抱いてしまう。


 潜在スキルとは、奥底に眠る潜在的なスキルのことだ。

 スキルにも強い弱いが存在し、ダンジョン協会で行える鑑定で、その潜在スキルが明らかとなる。

 SやAランクの探索者はこの潜在スキルが極めて高い傾向にある。

 

 なので俺も高い潜在スキルを期待して、三年前に鑑定を行ってもらったのだが……


「……」


 取り出したスキルカードに刻まれた、俺の潜在スキル


【無属性使い】


 推定ランクE

 つまり、最低のハズレスキルだ。

 で、そのスキルの内容というのが……


【無属性使い】

 無属性魔法の能力が少し上がる。


 これだけ。

 たったのこれだけ。

 ゲームのパッシブスキルでも、もう少しマシなものがあるだろ。

 と、思うくらいには酷い内容だった。

 

 無属性魔法というのは誰でも覚えられるが、他の属性魔法よりも弱い傾向にある。

 そんな無属性が少し強化されてどうなるんだって話だ。

 

「はああああああ……」


 今でも覚えてる。

 協会の職員が俺のスキルを見た瞬間、鼻で笑っていたことを。


『潜在スキルE……ぷくくっ』


 完全にバカにしてたろ。

 そんなに酷かったか俺のスキルは。

 まあ……過去を振り返ってもしょうがないんだけどね。


 事実は事実だし。


「けどまぁ、なんとかなってるよなぁ」


 最近はBランクのモンスターを安定して倒せるおかげで、普通の生活が送れるようになった。

 ダンジョンに入りたての頃は毎日もやし生活だったのにな……成長したぜ俺も。


 確か潜在スキルには覚醒?っていうのがあるんだっけ?

 それを信じて三年間ソロでダンジョンに戻り続けてきたけど、それっぽいのは実感できないなぁ。

 何か条件でもあるのだろうか?


 ま、成果が出なくてもいいけど。

 ダンジョンで生活し続けられるなら、俺は満足かな……


――――――――――――


「素材の買取をお願いしまーす」


「はーい」


 ダンジョン協会に戻り、買取課で素材を買い取ってもらう。

 今日の成果はまあまあ。

 豪華な料理……にはほど遠いが、デザートにプリンくらいなら付けられるだろう。

 

 なんて、査定が終了するまでの空き時間で晩御飯のことを考えてる時だ。

 突然、背中を思いっきり蹴り上げられた。


「お!! なんだなんだ、クソゴミカッスの音梨じゃねーか!!」


「ってぇ……番崎か」


 後ろを振り向けば、俺の倍はあるであろう巨体で大きく威圧してくる目つきの悪い男が一人。

 番崎琢磨。

 俺をよくいじめてくる奴だ。


「おいおい、Bランクの素材がたったこれだけ? ま、落ちこぼれにはこれが限界なんだろうけどな!!」


「あぁ……そうだよ」


「ギャハハ!! おい聞いたかお前ら!! こいつが泣き言をいう姿をよ!!」


 馬鹿でかい声をあげれば、周りの取り巻きたちもニタニタと笑い出す。


 何が面白いんだろうか。

 お前は十分強いはずなのに、未だに俺のような落ちこぼれをいじめて楽しんでいる。


「俺はお前と違って才能に恵まれてるからな。今日だってAランクモンスターを五体も倒したんだ。来月辺りにはSランクモンスターもぶっ飛ばしてやるよ!!」


「さっすが番崎さん!!」


「俺は一生あんたについていくぜ!!」


「ハハハハハ!! どーよ音梨!! これが落ちこぼれと天才の差だ!!」


 番崎は【炎帝】という推定Aランクの潜在スキルを保有している。

 炎を自由自在に操り、とてつもない高火力で相手を一瞬で焼き払ってしまう。

 そんな潜在スキルを持っていた番崎は、どんどん駆け上がっていった。


 今ではAランク探索者にまで成長し、Sランクも夢ではないと言われている。


「Eランクの潜在スキルじゃ、Bランクが限界だよなー」


「Bランクなんて俺でも倒せるぜー!!」


「さっさと諦めろよなー!!」


 一方、俺はBランクで必死に戦っている。

 生活の為、覚悟を決めてBランクに潜り続けているが、正直運がいいだけだ。

 

 Aランク以上と戦った事はないが、どうせボコボコにされて殺される。

 ここがEランクの限界だって俺は思う。


「お前に探索者の才能なんてないんだ。大人しく田舎でバイトでもしてればいいんだよ」


「……」


 頭を強く掴まれ、鋭い眼光と唾まじりの言葉を投げ付けてくる番崎。


 実力もあり、

 お金もあり、

 多くの人から従われる。


 俺とは真逆のスターロード。

 これが番崎との圧倒的の差だ。


「あ!! お前を雇ってくれる奴なんていねぇか!!」


「「「アハハハハハハハ!!」」」


 悔しかった。

 やり返したかった。

 でも……俺は番崎に勝てない。


『あ……が……』


『あれ、もう終わりかよ? お前弱すぎじゃねーの!! キャハハハハ!!』


 探索者を始めたての頃、番崎にムカついた俺が歯向かった時。

 手も足も出ずにボコボコにされた。

 小さな傷すら、俺は付けられなかった……


「そ、素材の鑑定が終わりました……」


「……ありがとう」


「おい逃げる気か!? 探索者の癖にだっせー!!」


「Aランクの番崎さんに勝てるわけないじゃないっすか!!」


「おうおうそれもそうか!! 俺が音梨をボコボコにする姿を見せつけたかったのによー!!」


 素早くお金とレシートを受け取り、足早にその場を去る。

 協会を出て番崎からだいぶ離れたのに、あいつのムカつく笑い声が脳裏から離れなかった。

 

 何故だ、何故俺はあいつに勝てない。

 これが才能の差なのか。

 生まれた時から俺はこうなる定めだったのか。


 どうしようもない怒りと屈辱感が、いつまでも俺の心に残り続ける。

 

 この日の晩御飯は殆ど味がしなかった。


◇◇◇


最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

よければ☆☆☆やブクマをしていただけると励みになりますので、よろしくお願いします!


※☆は目次やこのページ下部の「☆で称える」から行えます!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る