第11話 テレンシアって可愛いね

 全部小声で喋ってたから、会話の内容は聞かれてないと思いたいけど、何で笑われてるんだろう。


 テレンシアのにこ、っと笑った顔が美しい。心なしか、背景に真っ赤な薔薇まで見えてきそうな位に綺麗。さっきはバシレイオスに気をとられててあんまり見てなかったけど、テレンシアってめちゃくちゃな美少女だなあ。


 ゲームの中ではいつも顔半分が影になって隠されてて、最後は魔物になってたから容姿がよく判らなかったんだよね。バシレイオスと同じ赤い髪なのは判ってたけど、瞳も赤くてルビーの宝石みたいに綺麗だ。ぱっちり二重に長いまつげで、形の良い唇にはほんのりとだけ紅が乗っているけど、それがかえって彼女の美しさを引き立ててる。テレンシアは可愛い系というより美人顔寄りかな。プロポーションも良くて、これが私と同じ15歳だと言うんだから、びっくりだ。赤い髪はハーフアップにしているけど、おくれ毛が乱れてるなんてこと全然なくて、どこから見ても完璧なご令嬢って感じ。そりゃそうだよ、テレンシアはフォリーン侯爵家のお嬢様なんだもん、貴族の中の貴族って感じだよね。王子であるバシレイオスの婚約者な訳だし。


 そう、この凛とした美少女が後に闇落ちしてモンスター化してしまうのだ。


「クレア様とアウレウス様は仲がよろしいのね」


 テレンシアの言葉に、思わず首を傾げてしまう。


「仲がいい?」


 たかだか一週間ほど前に出会ったばかりのサポートキャラと、仲がいいとは。


「あっ、アウレウスの距離って近いですよね。だからそう見えるだけだと思いますよ」


 いや、さっきずっと一緒に居て欲しいってお願いしたのも、私とアウレウスが仲が良さそうでずっと一緒に居れば、攻略対象者が近づきにくいだろうなっていう計算な訳だから、親しそうに思われるならそれでいいのに、否定しちゃった。仕方ないか。


「まあ。そう、なのですか?」


 ちらりとアウレウスの方をうかがい見て、テレンシアは意外そうな声を出したが、次の瞬間には「そういうことにしておきましょう」と目を細めて微笑んだ。


 何だかよく判んないけど、笑った顔が妖艶で女の私ですらドキドキしちゃうな。美しいって罪。


「私も努力が足りないようなので頑張りますね」


 にこにこしているのに何故か剣呑なオーラを漂わせているアウレウスはスルーしておく。


「ところで、テレンシア様。私は子爵家なので、侯爵家のテレンシア様が敬語を使う必要はありませんよ」


「それをおっしゃったら、聖女であるクレア様こそ、わたくしに敬語を使う必要はございませんわ。貴女は誰よりも尊ばれる存在なのですから」


 そんな風に言われると畏れ多い。聖属性の魔力があるって言っても、私には今何にもできないのに。でも、せっかくそう言ってくれているなら、状況を利用しない手はないよね。


「……わかった。じゃあ、敬語はやめるね」


「はい」


 子爵家の小娘にため口きかれて、優雅な笑顔で返事する侯爵令嬢、控えめに言って天使なのでは?


「その変わり、テレンシア様も私に敬語禁止ね」


「えっ」


 私の要求に、テレンシアは驚いた声をあげる。


「図々しいかもしれないんだけど、友達になってくれたら、って思うんだけど……友達同士なら敬語なんて使わないし。そっちの方が仲良くなれると思うし……だめかな?」


 私がそう聞くと、テレンシアは硬直してしまった。馴れ馴れしすぎたかな、やっぱり……。でも、彼女を闇落ち回避させるためには、私もテレンシアと仲良くなった方がいいと思うんだよね。焦り過ぎたかな。


「お友達……ですか」


 俯き気味になったテレンシアはふるふると震えて、口に手を当てている。うーん、怒らせちゃったか、残念。


「ごめん、嫌だったら」


「いえ! い、嫌ではありませんわ!」


 ばっ、と顔を上げて、テレンシアが慌てたように言う。その顔がみるみる内に赤く染まった。


「その……、交流する方はいるのですが、お友達、というのは初めてですから、嬉しくて……」


 そっと目を伏せてテレンシアは恥じらうようにそう言う。


 な、なに……さっきまで凛とした美人お姉さんだったじゃん、何、この、可愛い女の子は……! 可愛すぎて胸が痛い!


「良かった! これからよろしくね!」


「はい……いえ、うん」


 頬を染めたまま、頷いたテレンシアが本当に可愛い。この子が一年以内に闇落ちしてモンスター化するの? 本当に? いやいやいや、こんな綺麗可愛い女の子を絶対に闇落ちなんかさせないからね!


「立ち止まってどうした?」


 決意を固めたところで、振り返ったバシレイオスが声をかけてきた。止まって話してたせいで、距離が離れてしまっている。


 案内されている途中だったの忘れてた。


「何でもございませんわ。クレア様、行きましょうか」


 咳払いをしてとりつくろうテレンシアに促されて、私は頷く。


「うん!」


 止まって待ってくれている学園長とバシレイオスに、私たち三人は早歩きで追いついた。

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