第10話 お願いがあるんだけど
役立たずになったかつらは、鞄の中につっこんでおく。
私とアウレウスは、先導してくれる学園長たちの後ろを並んでついて歩いた。
「もうよろしいんですか? 今朝はあんなにこだわってらしたのに」
顔を近づけて、こそ、と小さな声でアウレウスが聞いてきた。確かに、出る前に「かつらはやめた方がよろしいのでは?」って言ってたっけ。
「うん、もういいんだ……役立たずになっちゃったし」
「ふふ、そうですか」
顔を近づけたままのアウレウスを、押しのけておく。媚びるのを止めたらしいけど、距離感は近いんだよな、この人。見習いとはいえ神官様を押しのけるとか、本当はバチ当たりなんだろうけど、そうでもしないとずっと距離が近いから仕方がない。
「では、少し整えませんとね」
私の髪をアウレウスがするりと指に絡めてとかしてくる。
「えっ変になってた!? 自分でやるよ!」
ボサボサになっていたらしい髪を自分で整えると、アウレウスは私の髪を一筋すくって口づける。
「お綺麗ですよ」
「ひぇ……」
この人、愛妾はやめるとか言ってたけど、本当は諦めていないんじゃないの? 私は自分の髪をひっぱって取り戻し、アウレウスの顔をとりあえず押しのけておいた。
しかし、かつらという秘策をもってしても、バシレイオスとのフラグが回避できなかったのはショックだなあ。今後最大限避けようとしても、他の攻略対象との最初の出会いとかのイベントは発生してしまう可能性があるもん。
逆ハーレムルートがノーマルエンドのゲームに即してるとすれば、バシレイオスが私にアプローチしてきたとしても、多分他の攻略対象もそんなの関係なく私にアプローチをしてくるはず……。我ながら「自分がイケメンに口説かれる前提」っていうのを考えてると、本当に私の妄想なんじゃないか、頭おかしいのではと思ってしまう。
……うっ。自分で突っ込んでいて辛い。でも他の女の子から彼氏を略奪した上に、邪魔な女の子を抹殺するって、絶対後味悪いじゃん、そんな未来はいやだあ。
バシレイオス以外の攻略対象は、あと二人……極力、接触を減らしたいけどどうしたらいいのかな……。あっ、そうだ。
「ねえねえ」
つん、とアウレウスの服の袖を引っ張ると、「いかがなさいました?」と顔を近づけてきた。秘密の話するからいいけど、デフォルトでその距離はやっぱりおかしいでしょ。
「お願いがあるんだけど」
「何なりと」
「できるだけいつでも、私と一緒に居てもらうのってできるかな」
私の言葉を聞いたアウレウスは、きょとんとした顔をする。
「私があなたの側を離れないのは、当たり前のことですが?」
「えっでも、一緒に学園に通うからって、四六時中一緒に居てくれる訳じゃないでしょ?」
私がそう言えば、アウレウスは怪訝そうな顔をした。
「私をなんだと思っているのです。補佐ですよ。もちろん、ご自宅を出られてから学園にいらっしゃる間はもちろん、ご自宅に帰られるまでずっとお側におりますよ」
何を当然のことを、と言わんばかりの顔である。マジか。ちょっとしたストーカーじゃん。いや補佐だけど。いや補佐ってそういうものなの……?
「そ、そうなんだ……。じゃあ、お願いします……?」
「お任せください」
にこりと微笑んで、アウレウスは顔を離した。補佐のため補佐のため、っていうけど、この人が何を考えてるかよくわかんないなあ、腹黒なのは判るんだけど……。
とか考えてたら、不意に後ろからクスクスと笑い声が聞こえて驚く。
「えっ」
「ごめんなさい」
振り返ると、テレンシア嬢が口に手をあてて笑っていた。バシレイオスが前にいるから油断してた、テレンシア嬢後ろに居たわ。つまりさっきまでのやりとりを全部見られてたね……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます