第3話 サポートキャラってめっちゃ喋るんだね?

 目が覚めるとそこは、知らない天井でした。


 ……何か、知らん部屋の知らんベッドに寝かせられてる。うーん、面倒臭い予感しかない。もう一回寝ようかな。寝て起きたら、聖属性に目覚めたなんてのも悪い夢だったことにならないだろうか。ならんだろうなあ……。


 私は頭の中を整理した。


 魔力に目覚めた影響なのか、急激に前世の記憶が色々と蘇ってくる。


 今の私は、ただの子爵家の末娘だ。子爵と言っても、私が生まれる前ごろに商売で一山あてた両親が爵位を賜ったというだけの領地もない名ばかりの成金一家。


 私が生まれる前に子爵になったから、私は一応貴族としての教育を受けている。だけど、私は他の貴族令嬢からは「変わってる」と言われて嫌われてた。それが、元平民の血筋だからだと思ってたんだけど、どうやらそうじゃなかったらしい。


 多分、前世の夢を見るのは初めてじゃない。ずっと夢を見ても忘れてたけど、刷り込みのように前世の記憶を見せられてて、前世の行動が知らない内に出ちゃってたんだろうなあ……。


 前世は多分、交通事故に遭って死んだんだと思う。やり始めたゲームは完全攻略する主義だったから、胸糞悪い乙女ゲームでも私は一通りのルートをクリアした。ノーマルエンドから、一人ずつだけと結ばれるルートも。納得できるエンドがどこかのルートにないかと思って周回したけど、なかったね。少なくとも私には見つけられなかった。


 で、その後クソだクソだ! って思いながら友達にソフト返しに行く途中でトラックに跳ねられちゃったんだよね……ソフト壊しちゃっただろうし、悪いことしちゃったなあ。


 ていうか、死ぬ時にあのゲーム持ってたから、この世界に転生しちゃったわけ? 信じらんない、どうせ転生するなら魔王討伐とかに行くRPGの方が絶対良かった!


 脱線しちゃった。


 とにかく、私は『はぁれむ・ちゃんす』が現実になってる世界に転生しちゃったわけだよね。しかも、私は乙女ゲームのヒロイン、だと……。


 いや、マジで勘弁して、私が他の女の子の好きな人を手当たり次第奪いつくすキャラだとか。しかも、聖女は存在するだけで世界に安寧をもたらす存在で、特に魔王討伐とかもないし、聖女の血筋を残すために重婚可能だから、逆ハーレムでも全然咎められないとか、ほんとご都合設定どうにかして!


 私にとって全然ご都合がよろしくないじゃんよ!


 あああ~無理ぃ。私、魔法に目覚めたら冒険者やってみたいな、とか思ってたし……いや普通に考えて、実家のための政略結婚とか必要だったんだろうけど、お父様もお母様もそんなの気にするタイプじゃないから、結婚なんてその内誰か一人と普通の恋に落ちてそのうち結婚みたいな流れだと思ってたよ。恋愛面なんて普通で良かったのに~! 大体逆ハーレム以前に、聖女とか絶対面倒臭い奴じゃん、やめろ~!


 ていうか、私、前世の記憶戻ったからってほぼほぼ人格変わらないな? これはあれか、前々から変だ変だって言われてたけど元からの性格か? 記憶なくても、前世と同じ性格ってどんだけ?


 目を閉じて頭の中整理すればするほど、いらいらで目が冴えてきちゃう。誰か助けて~!


「お目覚めですか?」


 一人でやきもきしてたら、部屋がノックされて、声をかけられた。やばい、今起きたフリしよ。


「……はい、どうぞお入りください」


 って、私の部屋じゃないことは明らかだから私が許可するのもおかしな話なんだけど、まあ一応ね。レディが寝てる部屋に立ち入らせる時は、ちゃんと言わないとね。


 身体を急いで起こす。


「失礼いたします」


 部屋に入ってきたのは、髪の長い神官だった。めちゃくちゃ整った顔だちで、女の人かと思うくらい綺麗だけど、男の人。青みがかった銀髪に、青い瞳の男性。うん、これ知ってるキャラだな…。


「アウレウス・ローズと申します。今後、聖女様の補佐を担当することになりました。以後おみしりおきください」

 はい、きた~。神官アウレウス。この人は攻略対象じゃなくて、サポートキャラ。友達が攻略できないって嘆いてた人だな。ゲームの中では学園入学の時には側にいたけど、魔力目覚めてすぐに出会うのね、なるほど。


「クレア・バートンです。よろしくお願いします」


「私に敬語など使われなくてよろしいのですよ。どうぞ、楽になさってください。お加減はいかがですか? 洗礼の途中でお倒れになられたので、失礼かとは思いましたが、教会のベッドにお運びしたのです。クレア様はお一人でいらっしゃったと聞いておりましたから、バートン家へ使いのものをやりました。そろそろ迎えの方がいらっしゃるでしょう」


 私が返事する前にマシンガンで話進めるじゃん。


「そうでしたか。ありがとうございます」


 部屋をちらっと見た限り、私の部屋よりかよっぽど豪華な部屋だ。多分、教会に賓客が来た時に使う部屋なんだろうなあ。


「ところで私の補佐って?」


 ゲーム攻略したから知ってるけど、一応知らないフリをしないとね。怪しまれちゃう。


「説明が足りず、申し訳ございませんでした。クレア・バートン様。貴女様は光属性の魔力に目覚められました。ご存知の通り、光属性の魔力を持つ人間は数十年に一度しか現れません。光属性を持つお方は全て聖女として丁重に扱われます。何故なら聖女が存在するだけで、世界中の魔物の勢力が弱められ、世界は安定するからです。先代の聖女が身罷られてから14年。ちょうど貴女様がお生まれになる直前ですね。クレア様は、次代の聖女としてお生まれになられ、この度光属性の魔力に目覚められたのです」


 うおお、めっちゃ喋るんだねアウレウス。サポートキャラだから何でも説明してくれるのかな。


「しかし、お目覚めになられてすぐの聖女は、力が不安定なため、魔法学園にて魔力操作を学んでいただき、魔力を安定させて頂く必要がございます。そこで魔法学園に通うサポートとして、私が補佐をさせていただくことになっているのです。魔法学園への入学に関しては、後程正式に使いをやって説明させて頂きますね」


 にこりと笑って、アウレウスが言葉を切る。んん? 正式に挨拶に来るなら、今来なくても良かったんじゃないのかな? 私が首を傾げると、アウレウスは何故か頬を染めた。


「……あの、本当はこのように先んじてお目通りさせて頂くのは、よくないとは判っていたのですが……その、早くクレア様にご挨拶したくて……申し訳ございません」


 さっきまでのハキハキした喋りはどうした、急に恥じらうとかギャップ萌えなの? 可愛いからやめて欲しい。ドキっとしちゃったじゃん。


「いいえ、一人で不安に思っていたので、アウレウスさんが事情を説明してくださって、良かったです。ありがとうございます」


「そんな、お礼など……それと、私のことは、『アウレウス』と呼び捨てになさってください」


 照れてはにかむアウレウスの頭に、犬の耳が見える。あとブンブン振ってるしっぽが。幻覚だけど。サポートキャラってこんなわんこキャラだったのかあ……。


「判りました、ええと……アウレウス」


「はい」


 にこにこ微笑まれて、可愛いやらちょっとドキドキするやら困りましたね! 別に好きって訳じゃないけど、美麗な顔がニコニコしてたらドキドキしちゃうのは仕方ないよね! 仕方……ない!

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