第4話 お兄様が迎えにきてくれたよ!

「アウレウス様、バートン家の方がいらっしゃいました」


「わかった」


 部屋の外から掛けられた声に、アウレウスは返事する。ゲームの中じゃわかんなかったけど、もしかしてアウレウスって教会の中では偉い人なのかな。設定では確か、私の2歳上だったよね。


 何でサポートキャラなのに、年齢設定まであったんだろ、もしかして隠し攻略キャラ? ないない、だって私全部攻略したもん、そんなルートなかった。多分。


「クレア様。迎えの方がいらっしゃったようです。……歩けますか?」


 心配した風にアウレウスが声をかける。


「大丈夫ですよ。行きましょう」


 そう言って、ベッドを降りようとした瞬間、かくんと足の力が抜けて、転びそうになった。


 すんでのところで、アウレウスが身体を支えてくれて、どうにか転ばずに済む。


「あ、あはは~なんか力抜けちゃって。ごめんなさい、もう大丈夫です」


 笑って誤魔化しながら立ち上がろうとすると、アウレウスは私の手を握って難しい顔をした。


「光の魔力の目覚めで、まだ身体が回復しきっていないのでしょう。……失礼します」


「ギャッ」


 アウレウスが私を、お姫様抱っこしてきたせいで、淑女にあるまじき声が出てしまった。なにこれ、恥ずかしすぎる、勘弁してよ~!


「ご安心ください、しっかり支えますので」


 微笑んでアウレウスが私の顔を見るせいで、彼の髪が私の顔にかかる。やめてくすぐったい、イケメンビーム辛い……正直、乙女ゲームとかが得意じゃなかった以前に、前世の私も今の私も恋愛事なんてしたことがないんだって、困る!


 ぬうううう、円周率を唱えて心頭滅却しよ……3.1417……いやだめだ、間違ってる気がするし、そもそも私、円周率をそんなに知らなかった。


「顔が赤いようですが、熱がおありですか?」


 天然なのかな、このイケメン。誤魔化さなきゃ。


「ちょっと暑いだけですよ」


「そうですか? 私が抱き上げてから急に赤くなったように思いましたが」


 にこりと微笑むアウレウス。あれ待って、この人わざとか? さっきのわんこ風味どこいった。


「暑いって言ったら暑いの!」


「さようでございますか。クレア様、ぜひこれからも、そのように砕けた話し方をして頂けると助かります」


 くすくすと笑っているアウレウスが言う。もしかしてわざと怒らせてタメ口きかせたかったってこと? はぁ~わんこだったり腹黒だったりこの人よくわかんないわね。


「うーん、判った……」


「よろしくお願いします」


 喋りながらもアウレウスは、どんどん歩いていて、私を抱えたまま教会の外までやってきた。


「お嬢様!」


「クレア! 大丈夫か?」


 抱きかかえられた私を見て駆け寄ってきたのは、メイドのリーンとヒラルドお兄様だった。馬車から降りて、私が来るのを待っていてくれたみたい。


「お兄様、リーン! 私は大丈夫よ。心配かけてごめんなさい」


「いや、お前の謝ることじゃない。で、そちらは?」


 ヒラルドお兄様の目線が、アウレウスに注がれる。心なしか怖い。


「お初にお目にかかります。私は神官見習いのアウレウス・ローズと申します。クレア様が歩くのがお辛そうでしたので、このようにお連れしたことをお許しください」


 そう謝るのなら、早く降ろしてよ~!


「そうでしたか。神官様たちの手を煩わせてしまい、申し訳ございません。妹は私どもが面倒を見ますので、お引渡し頂けますか?」


 うわぁ、ヒラルドお兄様とアウレウスの間に火花が散ってるように見える……ヒラルドお兄様、シスコンだもんなあ。


「いえいえ、煩わしいなんてそんな。よろしければこのまま馬車までお手伝いいたしますよ」


 飽くまでニコニコ笑ってるけど、アウレウス何か怖いんだよなあ。


「あの、アウレウス、私もう歩けるから……」


「おや、そうですか? では仕方ありませんね」


 仕方なくはないと思うなあ。


 アウレウスは少し残念そうな顔で、私を降ろしてくれた。よし、今度は足に力が入るぞ。


「ではクレア様、後程正式にバートン家へ使いを送ります。またお会いしましょう」


「あ、うん。またね」


「また?」


 ぴきぴきと青筋を立てているヒラルドお兄様。やめて、後でちゃんと話すから。


「ヒラルド様、クレア様、子爵様が屋敷でお待ちですわ。参りましょう」


 リーンがいいタイミングで声をかけてくれたから、すんでのところで揉め事を回避できた。リーン、ナイスアシスト! こっちにこっそりウィンクしてくれる出来る女、可愛いぞ!


「お気をつけてお帰りください」


 折り目正しいお辞儀をして、アウレウスは馬車に乗り込んだ私たちを見送ってくれた。

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