第4話 悪魔のぬいぐるみ

「あ、熊のぬいぐるみ!」


 元カノ、実原ヤサシイがショーウィドウの中の大きな熊のぬいぐるみを見てはしゃぐ。


 『悪魔のぬいぐるみ』という怪談をご存知だろうか?めっちゃ簡単に話すと、小さな女の子がデパートのおもちゃ売場で突然走り出し、ぬいぐるみの前で立ち止まり指を指す。


 「あ、くまのぬいぐるみ!」


 恐怖の効果音 バァ~ン!


 『悪魔のぬいぐるみ』!!……という話だ。


「悪魔はお前だろう。正解から離れなさい」


 突然、現れたら元カノ気月ヨイが私の腕から離れない元カノ実原ヤサシイを引き剥がす。


「出た!元カノおばさん」


「おば!?あなた!公務執行妨害で逮捕するわよ!!」


「ヨイ!ど、どうしてここに?」


 こことは商店街の昔ながらのオモチャ屋さんの前だ。


 ちなみに私はここのオモチャ屋さんの亭主に「人形の髪の毛が伸びた!」と依頼を受けて出かけたところ、元カノ実原ヤサシイに見つかったのである。


「うっわ!修羅場!やば!」


 助手で探偵見習いの解答ハズスも当然、着いてきていて、今の私の状況を面白おかしく見ている。


 でも、大丈夫!私は選択肢を外したことない!


 名探偵、全問正解!……だよね……大丈夫?


 自問自答をしている私に気月ヨイが話しかける。


「私は事件の調査で来たのよ。先ほど、ここのオモチャ屋さんの亭主が何者かに襲われたらしいの」


「な……なに――!!」


 思わぬところで事件に巻き込まれた。


 正直、「髪が伸びる人形」の原因のほとんどが髪の毛の『ズレ』だ。人形に髪の毛に似せた長いナイロン糸を真ん中で折って植えるため、ズレて長く見える髪の毛と短くなる髪の毛がある。真実とは、案外つまらないものだ。


「適当にお祓いしたふりしてお金貰えると思ったのに……」


「先生、人として選択肢を間違えてませんか?」


 ハズスの的確なツッコミは無視するとして、馴染みの亭主が襲われたのだ!黙っていられるはずもない!


「ヨイ!私も現場に立ち会っていいか?」


「あなたは選択を間違わないのでしょう?だったら、あなたが選んだ道に私は従うわ」


 なんだか、別れたことを根に持った言い方だったが、承認は得た。


「よし!レッツゴー!」


 私の腕を引っ張りながら店内へ足を進める実原ヤサシイ。


「あなたを許可したつもりはありません――!!」


 ヨイが大声を出しながら追ってきた。


「修羅場、修羅場~ふふふ~」


 ハズスも楽しそうに店内に足を踏み入れた。


 店内は争ったようすなのか、商品がいくつか床に散乱していた。


 頭に包帯を巻いた亭主が私たちを出迎える。


「正解先生!先生に電話したあと、呪いの人形を先生に見てもらうため動かしていたら、背後から何者かに頭を等身大プリプリキュアでゴン!!でさ~……いてて」


 亭主は頭を押さえて痛がる。


「それで、警察にも連絡したのね。何か撮られたものはある?見たところ、人形の棚が荒れているようだけど」

 

 気月ヨイは手際よく店の写真を撮りながら亭主と話す。


 彼女は昔から手際よく、私が帰ったタイミングで夕飯は完成するし、見たいテレビ番組が終わったタイミングでお風呂が沸いたりと、ムダがなかった。そうそう、朝も私が起きるタイミングでイ……」


「犯人はお前だ――!!」


 私が幸せな思い出に浸っているのを解答ハズスが邪魔をする。


 ハズスはこれでもかというほど体を反って自慢の巨乳を強調したポーズで、左手は腰、右手はまっすぐに亭主を指差し、探偵のあこがれの名台詞「犯人はお前だ―!!」を恥ずかしげもなく叫んだ。


「な、なんで私が!?」


「亭主さん……あなたは背後から殴られた。なぜ、等身大プリプリキュアで殴られたと知っているのですか!?自作自演なのではないですか!」


「ここに、落ちてるからじゃない?ハズスちゃん外れ~。でも、かわいいから許す。かわいいは正義」


 なかなかの推理だったが、亭主の足元に血のついた等身大プリプリキュアが転がっていた。


 それを指摘して実原ヤサシイは、ハズスに抱きつき、頭をいい子いい子している。


 美少女二人が抱き合う姿はとても絵になる。


「はぁ……これは単なる強盗の可能性が高いわね。正解、どう思う?」


 気月ヨイが私に近づいて上目遣いで尋ねる。


 やっと私からヤサシイが離れたので、そばに来たのだろう。そういうとこ、キュンとして抱きしめたくなっちゃう!


 さて、ではヨイの期待を裏切らないように私が出した答えは……。


A 犯人は『この中にいる』!


B 犯人は『悪魔のぬいぐるみ』だ!


―――――――――――――――――――――


A 犯人は『この中にいる』!


「犯人はこの中にいる!」


 私は大声で明言した。


「え?この中?じゃ、巨乳刑事が犯人?」


 元カノヤサシイは元カノヨイを真っ先に指差す。


「なんで私が犯人なのよ!あと刑事デカはやめなさい!刑事は犯罪捜査を行う部門よ。刑事部。私は生活安全部だから違うわ」


 『巨乳』は否定したいんだ。私は思ったが口にするのはやめた。それよりも、私が選んだ選択を「犯人だれ?お前?」と疑心暗鬼になっているみんなに説明した。


「亭主が私に電話してから5分も経っていない。その間に亭主は殴られ、警察にも電話している。と、いうことは犯人はまだこの店のどこかにいる!」


 驚いた様子の実原ヤサシイが店内を見渡す。


「え!?だって、こんな小さくて汚い店のどこに隠れる場所があるの?」


「汚いは余計だよ~」


 亭主がうなだれる。


「あの店頭の熊のぬいぐるみ……背中にチャックがついていて、下に綿が散乱してるわね」


 気月ヨイが店頭のぬいぐるみを睨み付ける。


 さすがだ!そう、犯人はたぶん逃げれないと判断し、慌てて熊のぬいぐるみの中の綿を取り出し、そこに身を隠したのだ!


「開けるね……」


 ジジ……ジジジジ……。


 みんなが見守る中、解答ハズスが熊のぬいぐるみのチャックをゆっくり下ろす……中から出てきたのは……。


「コモリ!!お前……なんで……」


 亭主が驚く。


 中から息子の挽コモリが出てきた。


 手には大人気カード『ポシェットモンスターカード』が握られていた!


「くっ!見つかった!こんな小さな店にポシェモンカードが納品されて……転売目的でやりました!」


 息子はあっさり白状した。


「さすが正解ね!よし!祝勝会しよ!カラオケできて食べ物注文できて、寝れるとこ!」


 実原ヤサシイは私の手を引く。


「それ、いかがわしいホテルじゃない!待ちなさいよ!」


 気月ヨイが私を追う。


「やれやれ、先生、あとの処理は私がやっておきますので、修羅場を楽しんで下さいね~」


 解答ハズスの言葉に心の中でツッコミを入れながら私はヤサシイに引きずられていった。


―――――――――――――――――――――


B 犯人は『悪魔のぬいぐるみ』だ!


「犯人は悪魔のぬいぐるみだ!」


 私は店頭の熊のぬいぐるみを指差す。


「あ、くまのぬいぐるみね!背中にチャックついてるし!めちゃ怪しい!開けぴよ」


 実原ヤサシイは躊躇せずぬいぐるみの背中のチャックを開ける。


 躊躇って漢字が読めない人は躊躇しないのかな?と心の中で思った。


 ジジ…ジジジジ……。


 中から出てきたのは……。


「アイ!……お前」


 亭主の妻、挽アイだった!


「ごめんなさい!あなたが毎晩、そこの等身大プリプリキュアを抱きしめてるのを見て、気持ち悪くて気持ち悪くて……私が殴りました」


「うわぁ……」


 ハズスが生ゴミを見る目で亭主を見る。


「あ、あれは……あの……」


 性癖を引き合いに出され、キョドる亭主。


「うわっ!解決早っ!正解すごいね!じゃ、行こうか」


 脈絡もなく私の腕を引っ張る実原ヤサシイ。


「ちょっとあなた!どこ行くのよ!ちょっと――!!」

 

 私を追う気月ヨイ。


「先生――!!修羅場の選択、外さないようにね――!!」


 ハズスの失礼な応援をヤサシイに引きずられながら耳にした。


 私は決して選択肢を外さない!


 名探偵、全問正解!!


―――――――――――――――――――――

 

「どっちが正解を満足されられるか!勝負しましょ!」


 背中に手を回し、ブラジャーのホックを慣れた手つきで外す実原ヤサシイが気月ヨイに言う。


「そんな挑発に乗るわけないでしょ!」


 私に膝枕をしてくれているヨイがヤサシイを牽制する。


「ほら、あなたこれ好きでしょ」


 ヨイが服をたくしあげて、おっぱいを私の顔の上に乗せる。


「あら?あなたのおっぱいでは出来ませんね?おほほほほ~」


 ヨイが私の下半身を攻めているヤサシイを挑発する。


「むむむ!刑事デカと書いて巨乳デカ巨乳刑事デカデカ、恐るべし!しか~し!私は大きさではなく……深さで勝負だ!」


 ヤサシイは私のモノを口に含み、顔を沈める。


「な!?そんなに奥まで……やるわね!私だって!」


 ヨイのおっぱいが私の顔を包み込む。


 私は息ができなくなり、窒息死しそうになる。


 だが、これで死んでも後悔はなかった。


 これが、私の最後の選択。


 私は……外さない……名……探偵……。


「ぷはっ!ちょ、ちょっと!デカデカ!正解、死にそうよ!」


「え!?あっ!」


 走馬灯を眺めながらピクピクしていた私の視界に光が戻る。


 私は「ぶはっ――!!空気!空気!死ぬ――!」と言いたいところを我慢して、気を使いそっと息を吸う。


「ほら、やり方教えてあげるから、こっちきて」


 ヤサシイがヨイを手招きする。


「……お願いするわ」


 案外、素直なヨイは私の下半身に移動し、ヤサシイと並ぶ。


「いい?ここを持ってね、下から……」


 実原ヤサシイの実技指導を熱心に聞く気月ヨイ。


 案外、二人は仲が良いのかもしれない。


「そうそう!上手い上手い!もっと唾液で濡らして滑りをよくして……」


「んぐんぐ……こう?どう……正解、気持ちいい?」


 私は窒息死で天国に行くのかと思ったが、今まさにここが天国だと実感した。


 やはり、私は選択肢を外さない!!


 名探偵、全問正解!!


「あ!バカ!出す時は言ってよ!!」


「……ごめんなさい」


 私は素直に謝った。



 


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