05-11



「そしてこの時、株式会社ノアは誤った選択をする。自身の持つロケット技術を転用し軍需産業へと注力するようになった。資金繰りに苦労していたからまずは金が欲しかったのだろう。モノ言う株主も影響したかもしれない」


「オニヅカ ハジメさんは自分たちの会社を何が何でも潰したくなかった。だから軍需産業へと傾倒した。一方でゴメンマチ イオリはそれに猛反発した。いくら資金を得るためとは言え自分たちの技術を人殺しの道具のために使いたくないと」


「二人は激しい口論の末、袂を分かった」


「ゴメンマチ イオリはノアを去ったんだ。これをきっかけにノアは枷が外れたように武器を売り、儲けを得ていくようになる。金に目がくらんだのかもしれない。世界各国に秘密裏に大量に武器を売ったんだ。友好国、敵対国関係なく、まさに蝙蝠のように。戦争を過熱させているのはノアだと揶揄されるほどに」


「ゴメンマチ イオリは会社を離れてからも、度々オニヅカ ハジメさんに連絡をしては戦争を過熱させるような事業は辞めるよう説得を試みた」


「しかし毎度煙たがられ、応じてくれない。ゴメンマチ イオリは友人を止められない無力さを呪った。そしてノアと徹底的に敵対する覚悟を決め、新しい会社を興したんだ」


「コンサルタント会社オリーブ。宇宙開発技術を筆頭に、幅広い分野の技術者を擁する科学技術者集団の会社だ。その技術力を武器にマスコミ、政府の権力者に対して種々の提言を行うことで信頼を得て、彼らの力を使ってノアに対する風当たりを強めようと画策した」


「これはあるタイミングで功を奏する。オニヅカ ハジメさんにとっては最悪のタイミングで」


「世界が気付き始めるんだ。周りの自然が焼き尽くされ、自分たちの住む環境がもう瀕死であることに。戦争をしている場合じゃないってことに。……愚かなほど遅いけれどね。そうなってくるとマスコミは戦争を叩きだす。そして悪者探しを始める。そして、悪者の代表に挙げられたのがノアだった」


「武器を買っていたのは世界各国だから、世界各国も同様に悪者のはずだけど、当時の人類はどうしても叩ける悪者が欲しかった。挙げた拳を下す先が欲しかったんだ。そしてそれにノアが選ばれてしまった」


「空爆での報復により物理的に工場を潰されたとき、オニヅカ ハジメさんも懲りたようで、元の宇宙開発事業へと方針を戻そうとしたが、社会の目は冷たかった。反社会勢力同然の扱いを受けて、事業活動もままならなくなってしまった。社会的にも潰されたんだ」


「ゴメンマチ イオリとしてもこの結末は少し予想外だったかもしれない。あくまで彼は友人を止めたいだけだったから。マスコミ、政府を利用しようとしたのも少しだけノアに対する風当たりを強くすることでノアの軍事関連事業を止めたかっただけ。まさか粉みじんに潰すほど、人類すべてから最高出力の風力でバッシングさせたかったわけじゃない」


「オニヅカ ハジメさんは自分だけが叩かれる世の中を相当に恨んだ。そしてそれはゴメンマチ イオリが興したオリーブの活動に対するアンチテーゼとして現れるんだ」


「世界大戦が終わったころ、いよいよもって人類は物理空間を捨てるしかこの先の未来が無いかもしれないと気付きだす。その世間的風潮に足並みを揃えるように、オリーブは電脳空間への移住の可能性について、様々な企業や政府関係者と協議を進めていた」


「その検討に対して激烈な抗議活動をする集団が現れた。その首謀者は不明だが、オニヅカ ハジメないしはその意思を汲んだ人が噛んでいると言われている」


「この抗議活動に感化される一般市民も一定数いて、それの説得に非常に時間がかかった。これが世界大戦から電脳空間の登場まで半世紀もかかった背景と、ゴメンマチ家とノアとの関係の全貌だ」


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