04-13



「あ、もしもし? ごめんね、電話に気付かなくて。待ってる間に通行人に聞取調査しちゃおうってミキちゃんが。よほど幽霊の噂が話題なのか野次馬が多くて、本当に深夜なのかと思っちゃうくらい人が多いよ」


 ようやっと電話に出たヒカリは、少し疲れたような声色だった。ネコタニに相当引っ張りまわされたのだろう。


「……そうだったのか。なにか気になる話は聞けたか?」


 先ほど見た光景をすぐにでも共有したい気持ちがあったが、自分の中でも何をどう話せばよいか整理がつけられていない感覚を覚えたため、あえて留保した。

 すると、画面の左側からネコタニがふと姿を現し、俺の問いに答えた。


「実際に幽霊を目撃した方に会えることを期待して片っ端から声をかけたのですがだめでしたね」


「けど、幽霊の見た目に関しては詳しい情報が得られました」


「肩のあたりまでの真っ黒な髪と、白いワンピース、少し釣り目気味の目で睨んでくるそうですが、別にそれほど恐ろしい顔ではなくて、結構鼻筋の整った美しい顔立ちだそうで……だからこんなに野次馬が多いみたいです。呪われるのは怖いけど見てみたいって。不謹慎ですね」


 声を失った。


 いや、数字のためと言って張り切ってここまで取材に来たくせにどの口で不謹慎とか言ってるんだ、と思ったからではない。

 先ほど自分が見た幽霊の外見上の特徴とネコタニが得た情報とが酷似していたからだ。


 同じ慰霊碑という場所に現れたとはいえ、その空間は別だ。こちらは物理空間で向こうは電脳空間。

 電脳空間から物理空間の見られるノードへアクセスする手段に乏しい現代、電脳空間上の人間が物理空間上の幽霊を見ることのできる可能性は限りなくゼロと言って良い。


 とすれば、もし電脳空間上の幽霊が、電脳空間上の誰かに作られた存在であるとするならば、その姿かたちが物理空間上の幽霊と酷似するのはおかしい。

 仮に先程俺の見た幽霊が、俺の見間違いでも夢でもなく本物の幽霊だったとして、それを見ることのできない電脳空間上の人間がどうやってそれに似せた存在を作れるというのだろうか。


 たしかに、黒髪と白いワンピースは女の幽霊のテンプレートではあるが、髪の長さ、目、鼻の特徴にいたるまで合致しているのは、偶然にしてはできすぎている。

 

 次に考えられる可能性は、物理空間に住む人間が、物理空間上の幽霊と似せて、電脳空間上にそれを作ったという説だ。

 物理空間上と電脳空間上とで幽霊の外見が似ている理由を矛盾なく説明できるが、動機、それをすることによって制作者に得られるメリットがわからない。


 そもそもなぜ似せる必要があるのだろう。

 もし話題作りのために幽霊を作ったのであれば、あえて手間ひまかけて似せずとも、もっと目立つ姿の幽霊を作れば目的は果たせるはずだ。

 というか、もっと言えば、こんな郊外の公園で幽霊騒動を起こす必要はない。もっと目立つ場所を舞台にすればよいのだ。


 そしてこの説もまた、物理空間上の幽霊がなぜ、どうやって現れたかを説明することはできない。


 つまるところ、物理空間上に幽霊が現れたが、現れた原理もわからなければ、なんのために現れたのかその理由もわからず、ただ外見上の特徴が何故か電脳空間上のそれと不気味な一致を見せているという事実だけがぽつねんとそこにある状態だ。


 

 ……残された可能性は……電脳空間上の幽霊がこっちに出てきた、とか?

 ……いよいよオカルト染みてきたな。

 笑えない。この現代にそんな非科学的なこと。

 けど、それ以外に現象を説明できるストーリーがない。


「サトル? なにかあったの? そんな怖い顔して」


 思わず表情が固まってしまっていたらしい。ヒカリがそれに気付いて問いかける。


「え、あ、あぁ…………いや、実はだな……」


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