04-05


「じゃあちょっと飲み物買ってくるね! もしミレイちゃんが来たら待ってもらうよう伝えてね」


「ヒカリさん、ありがとうございます! オニヅカ殿はしっかりと足止めしておきますよー!」


 ヒカリはひらひらと左手を振りながら部室の扉を出ていった。

 サイカワからもらったお菓子をお茶請けとして出そうとしたところで、肝心のお茶を切らしていたことに気付いたようだ。鞄から財布を取り出し、パタパタと小走りで出て行った。


 見送るはネコタニとサイカワ、そして画面越しの俺。ミレイはまだ来ていない。


「……で、なんだっけ? 旧型のハンディカムを持って来い、だっけ? なんでまたそんな骨董品を。携帯端末のカメラで良いじゃないか」


「ちっちっち。旧型だから良いんですよ。旧型のガサガサの画質で撮るからこそ、雰囲気が出るんじゃないですか」


「取った動画もネット記事とやらに載せるのか」


「もちろん! そのためにネット記事という媒体を選んだんですよ!」



 今回の依頼、幽霊が目撃されているのは電脳空間上の慰霊碑であるのに、何故か俺は物理空間上の同じ慰霊碑に行くことを頼まれた。

 物理空間上で慰霊碑が放置されたことで幽霊が活発になったとかなんとか、そんなことがまことしやかに噂されているからだ。


 ただ行って何枚かその辺の写真を取ったり、テレビ電話を繋いでやれば良いのかと思っていたが、今回の依頼人はそれでは満足しないらしい。

 このネタを投稿するネット記事で、よりホラー的な雰囲気を演出するために、あえて画質の悪い旧型のハンディカムで動画を撮ってこいとのことだ。



「携帯端末のカメラで撮った動画を編集して画質を荒くしてやれば良いじゃないか」


「結構長尺で回して欲しいので、携帯端末で撮った動画だとデータ容量が大きくなりすぎて扱いに困ります。一旦は高画質なデータで受け渡しすることになるじゃないですか。その点、骨董品クラスのハンディカムなら、いくら長回ししたところでそのデータの重さなんてたかが知れているでしょう?」


 なるほど、ポイントポイントで撮るのではなくて、ずっと撮り続けていてほしいってことね。だとしたら、ネコタニに同意する。携帯端末のバッテリーだってネックになるだろうしな。 


「なるほどな。なら……いや、まだ少し腑に落ちないけど……仕方ないか。よし、待ってろ、少しガレージを漁ってくる」


「キミの家にはそんな骨董品まで置いてあるのかい? ガソリン車があるのは以前聞いて、それだけでもなかなか珍しい家だと思っていたが……どっかからくすねてきているのか?」


「馬鹿言うな、誰が好き好んで骨董品なんか。仮に盗むんだとしたらもっとマシなの盗るわ。……と違って、骨董品みたいなもんでも金出して買わないといけないくらい物がねーんだよ」


 そう、物理空間に存在するメーカーは世界中で数えるくらいしかない。絶望的に物資が不足している。どれほどゴミのようなジャンク品だって、どれほどボロボロの骨董品だって、使えるパーツが1つでも取れそうなら買わざるを得ない、そんな世界だ、いまの物理空間は。


 旧型のハンディカムなら、パーツ取りのために何個かガレージに転がってたはずだ。そのまま使えるかはわからないから、そこは日頃の行い次第か? お祈り力が試されてるな。……まぁ、ひとしきり漁って来るか。


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