02-04




 昔のことを思い出した。

 10年前だ。


 その日は珍しく曇りの日で、湿度は高く感じたけれど、連日の猛暑と比較して幾分か涼しかった。


 ヒカリと、ヒカリのお父さん、お母さんと一緒に出かけたんだ。


 ヒカリのお父さん自慢の車に乗って、ヒカリのお母さんが作ってくれた美味しい弁当を持って。



 ヒカリのお父さんは機械いじりが得意で、車はいつもピカピカ、何年も走っているのに乗り心地は最高だった。


 ヒカリのお母さんは料理がとても上手で、限られた食材しか手に入らないはずなのに、色々な料理を作ってくれた。





 出かけた先は隣の県の、三方を山に囲われた海沿いの町。

 車で片道2時間くらいだったと思う。



 長い山道を経て、ようやく海が見えたとき、車の中でヒカリと一緒になってはしゃいだことを覚えている。



 砂浜の近くまで車を乗り入れて、みんなで水着に着替えて海水浴をしたんだ。

 ちょっと泳いだら、みんなでワイワイとお弁当を食べて、少しゆっくりして、夕方になって砂浜をあとにした。



 ヒカリのお父さんが海以外にも面白いものがないか探検しようと言ったので、少しだけその辺をドライブして帰ることにした。


 意気揚々と車を出して、老朽化のあまり進んでいない道を選んで走った。


 探索とは言ったものの、見えてくるのは雑草まみれになった空き地と、何年も前に空き家になったと思われる家やアパートの残骸だけ。

 面白いものなんて何もなくて、自分の住んでいる町のことは棚に上げて、シケたところだなんて思った記憶がある。



 周りが暗くなるまで粘ってみたけれど、結局興味を惹かれるものは何も見つからなかった。

 さすがに疲れて、帰ることにしたんだ。



 帰り道、細い裏道みたいなところから、幹線道路のような大きな道路に出たとき、それは起きたんだ。





 大型のトラックが横から突っ込んできた。






 そこから先の記憶はない。



 目が覚めたとき、見えたのは真っ白い天井。

 看護師さんとお医者さんがすっ飛んできて、俺の身体の状態について色々なことを話してくれていたけれど、彼らが何を話してたかは良く覚えていない。



 それよりも重大なことがたくさんありすぎて。



 ヒカリのお父さんとお母さんは即死だったこと。


 ヒカリは瀕死の重症で、治療の成果は思わしくなく、そのままではヒカリは死を待つだけの状態だったこと。



 ――命を繋ぐために、ヒカリは肉体を捨てる選択をとったこと。




 俺の"世界"が、幸せだった"世界"が、一気に変わってしまったんだ。




 そう、その町の名は、シノノメ。





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