第38話 これが俺達のアンサーだ

体調不良後の最初の配信は何にしようか? そこで思いついたのはゲーム配信だった。雑談配信だと、イベントの質問や話が出て、高木のメンタルにダメージを与える可能性がある。ここであえてゲームに集中することで、高木と視聴者の気を逸らしていく作戦だ。ゲームは簡単で、昔ながらのレトロゲームで良いだろう。他のVtuberの動画を見ながらいくつかのゲーム候補をピックアップした。

『次の配信だが、ゲーム配信がいいんじゃないかと考えている。雑談やマシュマロなどだとイベントの話が延々と繰り返されそうだからちょっと違うことをしよう。この辺りのゲームはどうだ?』

 高木に、動画のリンクと一緒にメッセージを送る。

『なるほどー。そうだね、いいと思う。でも私ゲーム上手じゃないけど大丈夫?』

『ああ、大丈夫だ。苦労しながら進んでいく姿でも視聴者は応援してくれる。ただ、ゲームを選ばないとダメだけどな。上手なこと前提のゲームだと批判が来る可能性がある。それで候補を選んである』

『さすがだね。じゃあ、これにする!』

 高木が選んだゲームは、最近話題のパズルゲームだった。

『よし、それで行こう。じゃあ配信できるようになったらまた教えてくれ』

『了解! 明日には大丈夫だと思う。今は練習中だよ〜。緊張するなあ』

『まあ普段通りで大丈夫だ! 最悪綾香がなんとかしてくれると思って気楽にやればいいと思うぞ!』

『そうだねー』

 高木にはもう一つの重要なミッションがある。今はそっちの練習に集中してもらおう。


『ちょっと相談があるんですけど、動画の方向性について悩んでいて……』

 授業中に下井草からメッセージが届く。

『どう悩んでいるんだ?』

『今、全体構成考えているんですけど、ポップな感じでいくか、ダークな感じでいくか…… 全体的なトーンで悩んでいます』

『ああー、なるほど。どっちでも悪くはないと思うが…… 俺なら「オリジナル」と同じテイストにするかな。同じテイストだけど水咲ネネの方がすごい、と言うほうがインパクトは大きい気がするんだ』

『なるほど! 小細工なしの力技と言うことですね。わかりました! その方向で考えてみます』

『ああ、よろしく頼む!』


「よっ」

 休み時間に綾香が現れる。違うクラスから俺に話しかける人が来たので周りの人たちはびっくりしている。俺もびっくりしているが。

「急にどうした?」

「ちょっとお話ししたいなと思って」

「……珍しいな」

「ちょっとミックスしていたら不安になってきてね。大丈夫かなあって」

「大丈夫か、か。まあ大丈夫だろう。少なくとも炎上したりすることはないはずだ。後は単純に力勝負。どっちが評価されるかというだけだよ」

「そこが不安なんだよね〜。私の方が上手くないと、って思うと…… 流石にそこまでの自信はないなあ」

「ああそういうことか。そこは心配しなくていいと思うぞ。楽曲的な意味での評価はあんまり期待していないからな」

「どういうこと?」

「向こうはプロだ。そこで勝つのは難しいと思う。こっちが勝負できるのは高木の歌声だよ。あの歌声だけは他の人に負けるとは思えないんだ。だから歌声で勝負できるような土台を整えてあげるだけで100点だと思うぞ。俺はミックスできないから偉そうなことは言えないが……」

「……なるほどね〜 土台を整えるか。わかった! ちょっと気楽になったよ」


 日々は過ぎていき、1週間が経つ。それぞれが不安を抱えながら動画制作を進めているが、俺には成功する自信がある。この3人の動画なら大丈夫だろうと。


『できました! 放課後いつものカラオケで鑑賞会お願いします!』

 下井草の完成報告で4人が集まる。

「いよいよか〜。どんな感じになったんだろうね」

「どきどきするね。緊張してきたよ」

「俺もだ。喉が渇く……フリードリンク制にしておいてよかった」

 

「お待たせしました! 動画再生しますね!」

……

 下井草が再生した動画は、水咲ネネのアンサー動画、ここねこのオリジナルソング「向日葵」の歌ってみた動画である。尊敬するここねこさんの曲を歌ってみました、としてオリジナルを上回る動画を投稿する、これが俺の考えだ。向こうが嫉妬で共演NGをしてくるのであれば、こちらは向こうを上回ることを証明するだけである。普通の視聴者は普通に受け取ってくれるだろう。こちらの意図が伝わるのはVVVやここねこだけだ。


「いいね〜 絶対本家より良い曲になっているよ!」

「すごい! 綺麗な動画になっているね。私の声も良い感じに編集してくれてありがとう」

「本家をベースに作ってみましたが…… 思ったよりよく仕上がりました!」

「ああ、完璧だ! 皆ありがとう! 早速投稿しようか」

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