第37話 次なる一手は……?

どうしようもないのか…… 皆、やるせない気持ちを抱いているのがよくわかる。所詮高校生、大企業であるVVVに向き合う力もなければ方法もわからない。

「これからどうする? プロデューサー?」

 綾香からの問いに考え込む。このまま、何事もなかったように過ごすのも選択肢の一つである。しかし、高木のメンタル面に心配がある。超大手にNGを食らった事実を心に隠したまま活動できるような器用な人物ではなさそうだ、という感覚を感じているからだ。かと言ってこの話を全てSNSや動画で話すのもあまりにもリスクがある。配信者仲間から「なんでも暴露する、関わったらダメな面倒なやつ」と思われて活動の幅が狭まったり、VVVファンから攻撃されて炎上する可能性が極めて高い。


「そうだな…… ちょっと考えさせてくれ。後数日は体調不良ということで休んでおいた方がいいだろうし、まだ時間はあるはずだ。今日1日考えて何かしらの方向性を見つけるよ」

「わかった。ごめんね私のために」

「いや、気にするな。これはもう俺達の問題でもあるからな」


 解散し、帰宅後、俺は部屋で色々なことを考える。

「うーん、どれもしっくりこないなあ」

 しかしいいアイデアがすぐに出てくるはずもない。ずっと堂々巡りを繰り返すことになっていた。「ピコン」そこで通知が届く。たぬちゃが配信を始めたという通知だ。そうだ、相談してみるのはありだな。第三者で炎上上等のストロングスタイルを貫くたぬちゃならいいアドバイスをくれるかもしれない。しかし配信で相談するにはセンシティブな内容だしな…… SNSで個別にメッセージを送ってみよう。ギフト券とセットならメッセージに応えると昔話していたことがあった。1000円と一緒に相談を送りつけてみるのが良いかもしれない。俺は文章をまとめ、たぬちゃのSNSにメッセージを送信した。「VVV」は「大手事務所」に置き換えるなど、少しぼかしてはいるが、できる限り具体的に書くようにした。


 次の日の朝、SNSを確認すると、たぬちゃから返信がきている。

「おお、ありがたい。返事早いなあ」

 開くと、長文のメッセージが届いていた。

「相談ありがとう。なかなか難しい内容で結構考えてもうたわ。これはどういう風に振る舞っていくかがポイントになるけど、まずスルーするのはやめたほうがいいかな。配信者にとって辛い事実がずっと自分の中に溜まることになるからメンタルによくないわ。いつか爆発することになりかねないから何かしらで発散したほうがいいと思う。ただ、君が言うように直接この問題に言及してバトルを仕掛けるのはかなり危険やから絶対NGやな。変な炎上の仕方をして、誰も得しない事態になるのが見えてるからそれは辞めとこう。と言うことで私からの提案やけど…… 相手にしか伝わらないメッセージを出して視聴者に「大手事務所より、大手事務所の○○さんよりすごい!」ってコメントさせるような動画を出すのはどう?例えばその事務所の人気企画をパクってより面白くするとか。そうやって相手にしかわからん嫌味をするというのがストレス発散にはちょうどいいかも、と思う!」


 たぬちゃのメッセージは概ねそのような内容となっていた。なるほど、相手にしかわからないメッセージを出して自分の方が優れているとアピールするというわけか。それは確かにこっちとしても反撃した感があり、一般人には普通の動画で、VVVやここねこにはちょうど嫌味にもなるいい塩梅かもしれない。となると…… 俺は構想を練り始めた。


「これだな、この動画で行こう」

 ここねこをターゲットに絞り、動画を見て、水咲ネネが上回れそうな内容を探す。するとちょうどいいのを一つ見つけることができた。


『次の動画は決まったぞ。これで行こうと思う。俺たちからの反撃のメッセージにしよう』

 俺はグループにメッセージを投稿する。 

『なるほどね〜 面白いね』

『いいですね、やりましょう! 高木さんは大丈夫ですか?』

『大丈夫かなあ……? ちょっと心配だけど』

『まあ公式には反論できないさ。どうせNGなんだから好きにやろうぜ!』

『確かにそうだね、今更くよくよしてても仕方ないしね!』


『じゃあ綾香は…… 下井草は…… 高木は…… 、俺はその間にやる配信の企画とか考えとくよ。出来れば今週中に動画を投稿したいが、可能か?」

『色々手抜きはなりますが、可能ではあります!』

『そうだね、出来る限り簡単にやってみるね〜』

『わかった!』


 俺たちは。ショックを乗り越えまた動き出すことにした。VVVへの小さくも効果のあるパンチ。そうなれば完璧だ。

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