第36話 それは嫉妬だよ
「もしもしー?」
「あ、すいません。今いいですか?」
「いいよ〜 どうしたの?」
「ちょっとすうさんに相談したいことがあって。今、演奏とか動画を手伝っているメンバーも一緒にいるんですけど」
「あ、真剣な感じ? わかった〜。初めまして。天野すうです〜」
「じゃあ代表して。上月と言います。よろしくお願いします」
「わ、男の子! 男の子も一緒にやってるんだ。青春だね〜。ごめんごめん、でどうしたの?」
「えっと……」
高木は、今回の件について説明する。こちら側に非が思い当たらないことも説明した。
「なるほどねえ…… 共演NGかあ。この世界にもあるんだね」
「そうなんです。で、芸能界にいた、すうさんなら何かわかるかなと思って」
「そうだね〜 共演NGはしたこともされたこともあるけど…… まず共演NGの理由って大体3パターンなんだよね。1つ目は、何か失礼なことをして怒らせてしまったり、合わないという理由なんかでNGになる場合だね。あんな遅刻する人ともう一緒に仕事をしたくない! とか、トークが全く弾まないのにやる気ないから関わりたくない! とかそういう感じ。でも今回はそういうことに心当たりないんだよね?」
「そうですね。直接VVVやここねこさんとお話ししたことないですし、配信などで触れたこともないので……」
「なるほど〜。じゃあ次だけど、周囲の気遣いっていうパターンが2つ目。あの人達を一緒にするとトラブルが起きそう、であったり、ライバル関係の二人を並べるのは良くない、であったり。番組だとプロデューサー側の判断でそうなることが多いかな。でも流石に私たちのような弱小箱とVVVで気遣いがあるとは思えないけどね〜」
「そうですね…… あまり想像できないです」
「じゃあ最後のパターンだね。それは、比較されたり、人気が出たりしないように似たような立ち位置の人を潰すというパターン。アイドルなんかで多いんだけど、曲や雰囲気が被っているグループと一緒に番組とか出ちゃうと、どうしても比べられることになって自分達が損する可能性があるから、出さないでくれっていう感じだね。これは力を持っている事務所なんかがやりがちかな。男性アイドルでも某大手事務所の力で消えていったアイドルグループがあるとか聞いたことあるでしょ? そういうの」
その可能性があったか。俺は思わず口を挟んでしまう。
「横からすいません。じゃあ…… 水咲ネネをVVVが潰しにかかったっていうことですか?」
「そうだね。可能性でしかないけど、ネネちゃんに注目が集まるのを嫌がったんじゃないかな」
「なるほど…… その可能性は考えていませんでした」
「芸能界では良くあることだからね〜。まさかVtuberでもあるとは思わなかったけど」
「この場合でどうすれば良いんですか?」
「まあ、基本的にはどうしようもないね。VVVかここねこさんか、嫌がっているのはどっちかわからないけど諦めて大人しく活動していくしかないかな」
悲しい顔をした高木が声を絞り出す。
「そんな……反撃とかできないんですか?」
「残念だけど難しいね。この技は強大な事務所だから出来る手段だから。もっと大きくなったらやり返せるかもしれないけど…… それに証拠もないしね。明確にNGを出したわけではないかもしれない、というか多分出してないと思うんだよね」
「どういうことでしょうか?」
「水咲ネネとの共演はあまり好ましくないと考えていまして…… 、とかしか言わないんだよ。で、判断は任せますよ。って感じで圧力をかけるから」
「なるほど…… なんか悔しいですね」
「うん。気持ちはよくわかるよ…… でもまあポジティブに考えるとさ、あのVVVやここねこから才能を嫉妬されているんだよ? すごいことじゃん!」
「そういうものですか?」
「うん、だって脅威だと感じたから排除しようとしているわけでしょ。他のVtuberはイベントに出られるけどネネちゃんだけ出られない、つまり一番の脅威ってわけだよ。幸いにもTVと違って、活動できる場所はいくらでもあるから前向きに活動を続けていけばいいんじゃないかな?」
「なるほど…… ありがとうございます! 悔しいですけど元気が出てきました」
「うん、そんな奴らのためにネネちゃんが落ち込む必要はないよ。なんならVキャストで歌枠リレーイベントやる?」
「いいですね、それ! やりたいです」
「ね、何人か呼んで今度やろっか。企画考えとくね」
「ありがとうございます!」
天野すうとの通話を終え、部屋の中には沈黙が訪れる。VVVが、ここねこが、水咲ネネに嫉妬している。
「なんか、思った以上におおごとかもしれないですね……」
「そう? 放っておけばよくない〜?」
「まあそうですけど…… でもこのままやられっぱなしは納得いかないです!」
「まあね〜 でも出来ることは粛々と活動を続けていくくらいじゃないかな〜」
「そういえばそうですけど……」
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