第35話 暗転する空気

次の日も高木は学校を休んでいる。先生に話を聞いてみたが、「体調不良とお母さんから言われている」とのことだった。詳しくはわからないが、何かあったのだろう。これは、直接突撃するしかないな。


『先生から高木の家を聞き出すことは出来るか? プリントを届けたい、とかそういう名目でいいと思うんだが。男が聞きにいくのはちょっと変だから女子に頼みたいんだが』

『おっけ〜 任せて。で、皆で行くんだよね?』

『助かる! そうしよう』


『おっけー、家わかったよ。草ちゃんと上君は授業終わりに校門集合で〜』

 綾香は、期待通りに先生から住所を聞き出すことができたようだ。下井草を含めた3人でお見舞いに行くことにする。電車で30分ほどの住宅街に住んでいるようだ。

「どうしちゃったんでしょうね、高木さん……」

「俺も全く聞いてないんだが、何かあったんだろうな。大病じゃなければいいんだが…… ただ先生の口ぶりだとそれほど深刻な病気だという感じではなさそうなのが気になるな」

「まあとりあえず聞いてみるしかないよね〜」


駅から出て、15分ほど歩くと、表札に「高木」と書かれた家が現れる。インターフォンを鳴らす。

「はい」

「高木か? お見舞いに来たぞ! 開けてくれ〜」

「え、急だね……?」

「善は急げって言うからな! 心配だから来てみたぞ! 綾香と下井草も一緒だ!」

「ああ、なるほど……ね? ちょっと待ってね。着替えるから」


 玄関の扉を開けた高木は私服姿ではあるが、いつもと変わらない様子だった。ただ、元気はないようだ。少ししょんぼりした雰囲気が出ている。

「よく私の家の場所わかったね……?」

「まあ先生に聞けば一発よ〜 他の人には言ってないから安心してね〜」

「そ、そっか。まあとりあえず汚いけど部屋に上がって。親は今いないから大丈夫だし」


 高木の部屋はざ、女の子というシンプルでピンクを基調とした部屋になっていた。少し居心地は悪いがそうも言ってられない。俺は切り出す。

「で、どうしたんだ? 風邪か? 急に連絡も取れなくなってびっくりしたぞ」

「ごめん。動揺しちゃって連絡断ってたんだ。えっとね…… 例のイベントなんだけどね、VVVからNGが出たっていう理由で参加できなくなっちゃって」

 思った以上に深刻な内容で動揺を隠せない。あのVVVからNG!?

「それは、VキャストがNGとかそういう話か?」

「いや、私だけ。鬼丸先輩は普通に参加するらしいんだ」

「どうしてそんなことになるんですか!? おかしくないですか!? なにもしてないですよね!?」

「私も理由が全くわからなくてね…… 色々思い出してたんだけど全く心当たりがないんだよね」

「うーん。私もわからないな〜 雑談配信で何かVVVに言ったとか? でもそんなことで大手事務所が共演NGにするとは思えないしね〜」

「俺も全くわからないな。一応全部の配信に目を通すようにはしているが、VVVが激怒するような内容があったとは思えない。が、VVVから睨まれているというのは厄介だな。Vtuber界一強の事務所だからな……」

 流石に今後、VVVのメンバーと一切接点を持てないとなるとダメージが大きすぎる。ある程度登録者数が増えてきたタイミングでコラボ配信などを持ちかける想定だったが……


「どうする、プロデューサー?」

「そうだな…… まずは原因を探すか。謝ることができるなら謝った方が良いだろう。SNSで水咲ネネ、VVV みたいなワードで検索をかけて、何かヒットするか皆で探そう。もし問題発言や行動があるなら、誰か投稿しているだろう。あ、VVVではなくてここねこの可能性もあるな。今回のイベント参加者だからな」

 俺達は全員で、SNS検索を開始した。


「う〜ん…… それっぽい投稿は出てこないですね。水咲ネネはVキャストというよりVVVにいそう、みたいな投稿だったり、ここねこと水咲ネネのコラボみたい、というような内容であればちらほらありますが……」

「そうだな…… 俺の方でもそんな感じだ。やっぱり、過去の行動や発言ではないのかもな……」

「その場合、なんなんだろうね? 高木ちゃんがNGを受けるような子じゃないのは流石に皆わかってるっしょ?」

「ありがとう。やっぱり謎だよね…… そもそも共演NGというのが初めてだからよくわからないよ」

「そうだ、ここは人生の先輩に相談するのはどうだ?」

「先生とかですか?」

「いや、共演NGといえば芸能界、芸能界経験者が同期にいただろ? 天野すうに話を聞いてみるのはどうだ? 一般論として何か教えてくれるかもしれない。SNSでぶちまけるような人でもないだろうし、相談してみても問題ないと思うんだがどうだ?」

「なるほど、それはありかもね。ちょっと電話してみよっか? この時間なら起きているはず。14時には起きるって言ってたから」

「よし、じゃあ電話をかけてみよう。俺たちも会話に参加したいから紹介してくれ」

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