第34話 最大手事務所の本気
「美登ちゃんさんから電話……?」
イベント当日が近づいてきたある夜、高木がそろそろ寝ようと考えたころに、電話がかかってくる。こんな時間になんだろう? まあVtuberだから夜更かしなのかな?
「もしもし。どうしたの?」
「もしもーし。今大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
「ねえ、VVVに何かした?」
美登からの質問に戸惑う。VVV? 流石に名前は知っているし、所属Vtuberの動画も見ることもあるが、それだけの存在である。
「……? VVVがどうかしたの?」
「私もよくわからないんだけどさ、VVVから共演NGが出ているんだけど」
「私!?」
「そう。配信で悪口でも言った?」
「いや…… 全く記憶にないよ。Vキャストだからかな……?」
「それがね、鬼丸ちゃんはNGじゃないらしい。水咲ネネだけだって。理由は教えてもらえなかったけど、水咲ネネが出るならここねこは辞退するって言われちゃって」
「……」
「一体何があったの? もし心当たりがないなら配信とかSNSを見返してみて、探してみてもいいかも。VVVを怒らせたとなると色々今後支障が出かねないからね……」
「うん……」
「今回は申し訳ないけど、大々的に目玉としてここねこさんの出演は告知しているからここねこさんを外すことは難しいんだ。ごめんね。体調不良ということにしておくのがいいと思うけどどう?」
「そうだね、わかった……」
「本当に申し訳ないけど…… 私の方でもちょっと探ってみるからさ。何かあったら連絡するね。まあ、貴方が悪い人ではないのはわかっているから何かボタンのかけ違いとかだと思うけどね。元気出してね。じゃあね」
美登との通話が切れた後、眠気が覚めた目でSNSや投稿した動画の検索を行う。VVVについて言及した形跡は…… ない。とりあえず、急ぎVキャストのマネージャーに連絡する。
「え、共演NGですか!? しかもネネさんだけ!?」
「みたいです……」
「こちら側で確認してみますから、ネネさんは落ち着いてくださいね。とりあえずSNSで出演辞退の告知だけしておきましょう。体調不良ということでいいと思います。後は任せてください。落ち着けないと思いますが、変なSNS投稿などはしないでくださいよ。感情任せの投稿は炎上の元になりますから。VVVを匂わすような投稿もやめてくださいね?」
マネージャーから落ち着くように諭され、少し深呼吸をする。確かに感情に任せてSNSと向き合うのは危険だ。ただ、そのことについては所属した当初から何回も言われているが、いざその場面に遭遇すると全てぶちまけたくなる気持ちはよくわかる。そうやって先輩方は炎上してきたんだろうな…… そう考えると少しおかしくなり、気持ちも落ち着いてきた。
SNSで「すいません、歌枠リレーイベントですが体調が悪いので辞退させていただきました。直前で申し訳ないです」
申し訳ない気持ちと、視聴者からの反応を見るのが怖い気持ちがあり、高木はスマホの電源を切って布団に潜れ込む。どこにぶつければいいのかわからない悔しい気持ちと悲しい気持ち。高木は涙が止まらなかった。
『ねえ、SNS見た? 高木ちゃん、歌枠リレーイベント欠席するって投稿しているよ! どういうこと!?』
朝、綾香からの半ばパニックなったメッセージで目が覚める。俺は急いでSNSを確認する。確かに、体調不良で欠席する旨の記載がある。昨日まで普通に学校に来ていたし、練習もしていたぞ…… 何があったのかがわからず動揺する。
『健ちゃん何か聞いていますか!?』
『いや、何も聞いていない。とりあえず学校で確認してみるよ』
しかし、教室に高木の姿はなかった。今日は欠席のようだ。
『おーい、大丈夫か?』
メッセージを送ってみるが連絡はない。急病か? 色々な憶測が頭の中を駆け巡る。
『高木、体調大丈夫か? 落ち着いたら連絡くれよ』
グループにメッセージを投稿するが高木が見ている様子はない。これはいよいよ緊急トラブルの可能性が……
『ごめんね、大丈夫だから、ありがとう』
授業中に高木からメッセージが届いた。どういう意味だ……?
「ここねこさん、言われた通り、水咲ネネにNG出しておきましたよ。体調不良ということで欠席になりました。SNSでの投稿も確認しています」
「了解―。ありがとう」
「あんまり無茶はしないでくださいね? 今回は色々やらかしているVキャストだったのでそれとなく匂わせればよかったですが、やりすぎるとVVVの評判も落ちかねないので」
「大丈夫、大丈夫。気をつけるよ。それにVVVなら多少無茶を言っても大丈夫でしょ。これからもよろしくね🎵」
「はあ。わかりました」
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