第29話 15分何を歌おうか?

購入したベースを持って家に帰る。おすすめの練習本も合わせて買ったので自由に練習することができる。音を出すアンプはレンタル出来るので購入しないで良いらしい。

綾香曰く「うるさいから家ではつけないほうがいいしね」とのことだった。確かにガチャガチャうるさいイメージはあるので、音がでないというメリットもあるんだな。


 クラシックギターは高校の授業で習ったことがあるので、楽譜は読めるし、コードもなんとなくはわかる。あとは弾くだけ……と始めてみたが、これが意外と楽しい。より上手く演奏するには、と色々本を読みながら試行錯誤していると時間があっという間に過ぎてしまう。あ、ショート動画を作らないと。この辺りは時間を決めないとな。ということで、放課後はショート動画の作成、夜はベースの練習ということにしよう。勉強? しばらくは知らないことにしよう。まだテストまでは時間がある。その時頑張ればいいさ。


『とりあえず上くんがある程度ベースが弾けるようになるまでは自主練習をしておいて。で、弾けるようになったらレンタルスタジオを借りるから皆で練習しよ〜』

 綾香からプレッシャーでしかないメッセージを貰ったので、それから一週間、死ぬ気で練習した。動画投稿サイトにも色々なベースの練習になる動画が投稿されているので、そういったものも見ながら勉強と練習を繰り返す。すると人間すごいもので、一週間でなんとなく形になってきた。上手かどうかの自信は全くないが、とりあえず皆と練習できるくらいにはなったはず……だ!


 綾香に状況を報告した次の日、綾香が予約をしてくれたレンタルスタジオに早速4人で集合する。学校にベースを背負っていったが、周りにジロジロと見られて恥ずかしかった。「おい、お前軽音部入ったのか?」

なんてやり取りを何人としたか。適当に濁しておいたが、軽音部でもないのになんで楽器を担いでいるんだ、と不審者に思われたかもしれない。まあ、いいさ。どうせ今更クラスの評価なんて気にしても仕方がない。が…… 恥ずかしいものは恥ずかしい。


 スタジオは学校から少し離れた雑居ビルにあった。中はすごく綺麗で部屋がいくつもある。

「おーここがスタジオですか。初めてきました!」

「私も! ここで歌えると思うとテンション上がるねえ」

「でしょ〜 私も気が引き締まってくるんだ。大丈夫、上くん?緊張している?」

「めっちゃしているぞ。緊張しかない」

「まあ、まずは曲を決めようか。といっても3人で決めておいたんだけどね〜」

「またラップか!?」

「そんなわけないでしょ〜 高木ちゃん教えてあげて」

「えーっと、まずVtuberファン自体が20〜30半ばくらいの男性が多いので少し昔の曲が盛り上がるかなって考えたんだよね。で、15分だから3曲+少しMCくらいでちょうどいい時間かなって。1曲目はBUMP OF CHIKENの「天体観測」。誰でも知っている曲だし、曲調的にも私の声と合うし、特段難しいところもないから演奏もしやすい、はず。で、2曲目はスピッツの「空も飛べるはず」にした。ちょっと難しいけど、高音が上手く歌えれば聴いている側にインパクトを与えられるかなって。名曲だしね。で、締めの3曲目はAKB48の「フライングゲット」で、ちょっとテンション高めの曲でノリよく締めくくろうと思っているんだ。どう? いい感じでしょ?」

「おお、いいチョイスだな! それなら盛り上がれそうだ。やっぱ視聴者が皆知っている曲っていうのがいいよなーとは考えていたから良いと思う!」

「よかった。じゃあ楽譜も持ってきたから早速練習しよっか。まずは天体観測から試してみよ〜」


初めてアンプに繋いで演奏する。おお〜こんな音なんだ。渋くていいな。

「おーい、健ちゃん、なにぼーっとしているんですかー」

「ああ、すまん。初めての演奏でちょっと感動していてな。自分の人生でバンド演奏をする日が来るとは思わなかったよ」

「ああ、まあ確かにそうですけどね。しかも数千人から数万人の前ですよ? アリーナツアーするような世界ですからね。そう考えると緊張しますね!」

「無駄に緊張させないでくれ…… 吐きそうになる」


 高木が歌い出し、俺たちが演奏する。とりあえず最後まで演奏し終わって、綾香から色々な指示を受ける。

「上くんは悪くはないけど、もう少し周りと合わせることができるようになればより自然になるから。まあ、その辺りは練習時間が増えて余裕ができれば問題ないと思うけどね。もうそのレベルまで達しているのはびっくりだよ〜。草ちゃんはちょっとリズムが早いかな。もう少し気持ちゆっくり叩くといいと思う。後は高木ちゃんだね。上手く表現できないけど、楽器に合わせて歌を歌えるようになると更によくなるかな」

「楽器に合わせて歌を歌う……?」

「そう〜。カラオケと違って生演奏だからさ、やっぱり生ならではの要素があるわけじゃない? でそれは楽器が名前で音を出していることだからね、上手にその音に乗ることができればいいな、って。今はカラオケを歌っている、って感じな気がする。上手く表現できないけど」

「なんとなくわかる…… 意識してみる」

 俺達はその後も幾度となく演奏を続け、練習を重ねていく。

「お疲れ〜 初心者にしてはいい感じじゃん」

 休憩時間、自販機の前で綾香に声をかけられる。

「そう言ってもらえたら練習した甲斐があったよ。しかし綾香はさすがだな。よく周りが見えているよ」

「まあ、経験者だからね。でも普段軽音部だと「口うるさい」って思われちゃうんだ。難しいところだよ〜」

「ああ、それが周りとの温度差ってやつか。まあそういう意味だとこのメンバーだと皆綾香に一生懸命ついていくスタイルだからちょうどいいのかもね」

「それもあるし、皆が信頼してくれているのもわかるから嬉しいよ。なんとか本番成功させたいね〜」

「そうだな。てか全然関係ないが、運動中にブラックコーヒー飲むのか……?」

「うん、やっぱ演奏の時はコーヒーだよ。頭が冴える気がするんだ」

「な、なるほど……」


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