第28話 歌枠リレーイベントへの招待

授業が終わり、帰って動画の勉強をしようと考えていた時、高木から話しかけられる。


「ねえ、今からちょっといい? 相談があるんだけど」

「ああ、じゃあいつものところへ行くか」

 俺達はもはや恒例となっているカラオケ屋に向かう。少し緊張した様子の高木。いつもより所在なさげにキョロキョロしている。どうした?


「さて、と…… で、どうしたんだ?」

「なんかさ、美登さんから連絡が来てね。「歌枠リレーイベント」に出ないか? って招待を受けたんだ。歌枠リレーってわかる?」

「えーっと、Vtuberが歌を自分のチャンネルで披露して、次のVtuberにバトンタッチしていくという感じだっけか?」

「そうそう。で、今回は美登さんのチャンネルで5人が順番に披露するんだってさ。最後に全員で歌う曲も一曲あるらしいんだ」

「おお、いいじゃないか! 10万人規模のチャンネルで歌声をアピールできるのは熱いな! かなり反響が期待できそうだ。他のメンバーはどんな感じなんだ?」

 高木があげたメンバーは皆5〜15万人ほどのチャンネル登録者がいる、そこそこに人気のある人達ばかりだ。2万人の高木は少し少ないが…… 歌声の良さでカバーということなんだろう。

「一人15分の持ち時間なんだって。で、出ようと思うんだけど特に問題ないよね?」

「ああ、是非出たほうがいいと思うぞ! 特にデメリットは思いつかないし、高木の歌なら人気になる可能性がある」

「良かった! じゃあ出る方向で調整するね。後は何歌うかだね」

「そうだな。それに関しては綾香と下井草も召集して4人で話すか?」

「それがいいね。呼んでみる」


 二人とも幸いなことに忙しくないようで、1時間後には集合することができた。高木の説明に目を輝かせる二人。

「すごいですね! それは是非成功させないと!」

「楽しみだねー。人気になるよー」

「ありがとう。で、どういう曲にするかという相談がしたくて……」

「なるほどね。曲か〜 そうだ、生演奏してみる?」

「な、生演奏?」

「そう! 高木ちゃんがボーカルで、私はギター、で、二人はベースかドラムをやってもらって演奏するの! 上手に出来れば他のVtuberと差別化もできそうでいいな〜と思って。数千〜数万人の前で弾いてみるのをやってみたいっていうだけだけど」

「いいですね! 私はドラムはちょっとできますよ! 昔練習したことがあって」

「お〜ちょうどいいじゃん! じゃあ上くんはベースだね」

 綾香の提案でどんどん話が広がっていく。待て待て、俺はベースなんてやったことないぞ。


「まず、そのイベントはいつなんだ?」

「ちょうど1ヶ月後だね。1ヶ月で練習できるもんなの?」

「そうだねえ。まあ平日の夕方を使って、後は土日も軽く練習すれば15分の演奏くらいはできると思う。3曲くらいでしょ? しかも演奏風景は映さなくていいから楽譜見られるしね。そこまで難易度は高くないと思うよ〜」

「俺初心者なんだが……」

「大丈夫だよ! ベースなら意識すべきことはそこまで多くないしね。私がメインのギターで弾くのをサポートしてくれればオッケーだよ〜」

「なるほど…… 確かに生演奏は差別化になるな。カッコ良く弾ければ盛り上がること間違いなしだろう。テンション上がってきたぞ! やるか! あ、でも演奏場所を確保しないと」

「それはいつも軽音部で使っているレンタルスペースがあるから大丈夫。ドラムは借りれるよ。ベースは買わないといけないけど……」

「ベース代とレンタルスペース代は動画収益から出しますよ! せっかくなので皆でやりましょう! 一回やってみたかったんだよねー」


全員ノリノリで生演奏が決定した。まあ失敗しても高木の歌でなんとでもカバーできる。気楽にイベント気分で練習しよう。

「上くん、まだ時間ある? どうせなら今からベース買いに行こうと思うけど、どう?」

「そうだな、プロに見てもらえるなら安心だ! 今から行こう」

「高木ちゃん、後で建て替えてもらっていい? 3万円以内には抑えるから」

「それなら全然大丈夫―。わかった! じゃあ私は下井草さんと歌でも練習しとくね。曲考えとく」

「そうですね! いい曲を選びましょう!」


 学校から三駅離れた楽器屋に俺と綾香は来ていた。店内には色々なギターが並んでいてよくわからないがごちゃごちゃしている。

「この辺りは高いから触らないように気をつけてね。100万円以上するからね〜」

「ひえっ」


 奥のスペースへ歩いていくと、初心者向けのギターが並ぶコーナーがあった。

「こっちこっち。懐かしいな。昔ここでギターを始めて買ったんだよね。初心者向けのベースとなると…… これかこれかなあ。どう思う? ってわからないよね、ごめん」

「そうだな、見た目で選べというならこっちだが…… それ以外は全くわからないぞ」

「じゃあこれにしよっか。見た目が良いっていうのもモチベーションの上で大事だからね。音はまあこだわり出したらキリがないから。この値段ならそこそこの音が出ると思うから少なくとも変で浮くってことはないから大丈夫だよ」

 意外と即決で購入するベースが決まってしまった。まあ正直なんでも良かったからこうやってわかる人にお墨付きをもらえたなら安心だ。店員さんを呼んで梱包してもらう。


「私ね、軽音部だとちょっと浮いているんだ。本気で演奏をやりたいというのがあまり他の部員と合わなくてね。皆楽しくできたらいい、っていう感じだから。だからこうやって本気でMIXしたり演奏したりできている今がすごく楽しいんだよ? 誘ってくれてありがとうね」

 少し寂しそうで、少し嬉しそうな顔で綾香が話す。

「こっちもすごい助かっているからお互い様だよ。まあ、動画投稿サイトで披露するのって本気じゃないとメンタル保たないよな。こんな機会を高校生で体験できるのはなかなかないだろうからな、面白いよ」

「ね。部活動なら相手は他の高校生だけど、この活動は日本中の色々な人が相手だからね。緊張するけど面白いよ」


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