第24話 美登キララはライバルを見つけて嬉しい

大手事務所GURU UPに所属する新人Vtuber、美登キララはデビューして6ヶ月、順調なスタートを切っていた。大手事務所の新人ということで最初から注目も高く、また高い能力で瞬く間に人気を集め、チャンネル登録者は10万人を突破している。個性的な同期と先輩達に囲まれ、最初は右往左往していたが今ではすっかり慣れ、楽しく日々活動をしていた。


 そんな美登には一つの不満があった。それは、切磋琢磨し競い合うライバルがいないことである。同期や先輩は仲間という感じになるし、他の箱でもちょうどいいレベルの相手が見つからない。美登の特技は歌である。どうせ競い合うなら歌が上手い人がいい、と思いつつ色々とVtuber業界をチェックしてみるが、状況は芳しくない。


「はあ、モチベーションがなあ……」

 チャンネル登録者を増やしていくという目標はあれど、もう一つの区切りとなる100万人ははるか彼方にあり、いくら歌を出したいと考えても予算には制約がありそれほどポンポンと披露できるわけでもない。


 そんなことを考えながら見ていた動画投稿サイトで、ふとVtuberのショート動画が目に止まる。再生回数は10万回程度とそこそこ人気が出ているが、そのVtuberを目にした記憶がない。

「また、ショートで勢いある新人が出てきたのかな? 声も可愛いしこれは伸びそうだねえ」

 どんなVtuberなのかと開いてみたページには「水咲ネネ」とある。所属はVキャストのようだ。Vキャスト? 存在は知っているが、もっとアングラ臭がする配信者しかいなかった気がする。少し路線を変えているのかな? そんなことを考えながら一番人気の歌ってみた動画を再生する。


「!!」

 歌い出しで衝撃を受ける。自分の歌声には自信があったが、それ以上にうまいかもしれない、と思わせる声だ。動画もよく作り込まれていて、登録者1万人規模の動画ではない。VVVレベルの予算を使っていると思わされる動画だった。


「へえー、こんな人がいるんだね。面白い。ちょっと絡んでみようかな」

 SNSでメッセージを送る。

『初めまして。GURU UPの美登キララといいます。歌ってみた動画を見て、素晴らしいなと思いました! あのクオリティの動画と曲を作るのって大変じゃなかったですか?』



ぶるる、夜いつものように動画をチェックしていると、高木からの電話がかかってきた。

「もしもし」

「上月くん、大変だよ! GURU UPの人からメッセージが来たんだけど! 歌ってみた動画を聴いて素晴らしいなと思って連絡したってさ!」

「おお、なんて人だ?」

「美登キララさん! 半年前くらいにデビューした新人っぽいんだけどもう登録者10万人を超えている凄い人だよ!」

「ああ、聞いたことがあるな。確か、歌がとっても上手なキャラだった気がする。仲良くなって歌でコラボしてみたらどうだ?」

「そうなんだ、ちょっと動画見てみる! とりあえずすごい人から連絡きたからびっくりだよ」

「これもショート動画の効果かもしれないな! とりあえずいい感じに連絡返して仲良くなっておこう。それが高木のミッションだ! まあ向こうも大手の事務所だし、ややこしいことにはならないと思うが情報流出には気をつけてくれよな」

「わかった……! 頑張ってみる」

「お世辞とか社交辞令とか、そういうのも使えるよ、な?」

「女の子と話す限りは大丈夫だよ。任せて!」


 次の日の夜、状況が気になったので高木に電話してみる。

「もしもし」

「もしもしーどうしたの?」

「美登キララとはどうか、と思ってな」

「ああ、普通にメッセージのやり取りをしてるよー。歌の話とか音楽の話をしてる感じかな。特に歌ってみた動画ってGURU UPでも予算の都合でなかなか投稿できないからすごいねって言われた。友達がいてーって濁しておいたけどね」

「そうだな、そこはその方がいいだろうな。改めて美登キララの歌を聞いてみたが、声質的には高木と似ている路線かもしれないな。曲選定とかで被りかねないと思ったよ」

「そうそう、ちょうどその話をしていて、被らないようにした方がいいですねーって言われた! やっぱり思うことは一緒なんだね」

「まあ、あんまり難しいことは気にせず、仲良くなれればいいんじゃないか? Vtuber友達ができることにデメリットはないからな。色々相談したりできる相手が多くて損はない」

「そうだね! でも美登さんからはお互いライバルになるかもしれないですね、って来てるよ」

「ライバルか…… まあ彼女なりの友達の表現、なんだろうきっと。そう思いたいな」


「初めて見つけたライバル候補。今後に期待だなあ。何か一緒にするのもいいかもね?」

 美登は水咲ネネとやり取りをしながらそんなことを考える。今はまだ人気は自分の方が上。だが、なんとなくすぐに近づいてくるであろうという感覚は持っていた。能力が高い者は遅かれ早かれ人気になる業界である。後はそのきっかけが何になるか。

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