第16話 私のこだわりを理解してもらえて嬉しいです

「さて、動画は任せるとして、来週の配信について話をしておきたい。雑談配信、マシュマロ配信は良いとして、新しい配信をしてみるか。コラボ配信はどうだ?」

「コラボかあ。同期とはちょこっとやったけど、ほとんどしたことないんだよね…… なんでコラボ配信?」

「簡単に言うと新しい視聴者層を取り込めるからだな。相手の視聴者で自分のことを知らない人に見てもらえれば、気に入ってチャンネル登録に繋がるチャンスがある。そう考えると良いだろ? で、候補だが…… 今の所は箱内がいいな。今の登録者数だと箱外のVtuberにコラボをするメリットが薄いので、それでも付き合ってくれる相手がいいだろう。同期か、先輩か。鬼丸さんはどうだ? 話のテンポが合うし、視聴者層も被りそうな気がする」

 鬼丸はVキャスト歴2年の先輩Vtuberだ。基本的にゆっくりとしたテンポでのんびりとしたトークをしたり、ゲームをしていることが多い。どちらかというと大人しめの高木と波長が合うのではないかという考えだな。


「ああ、確かに鬼丸さんはいいかも。ほとんど話したことないけど、ご挨拶した時すごい優しかったし」

「良かった、一度コラボを申し込んでみよう。で、コラボ内容だが、半分は会話デッキを用意した雑談、半分は対戦ゲーム、というのを考えてみた。前半は2人でのんびりトークして、後半は少しテンポを上げてワイワイと楽しむ感じだな。中弛みを防ぐために後半にゲーム、オセロとかテトリスとかでいいと思うんだが、そういう誰でも出来るゲームで遊ぶのがいいな」

「ふむふむ、あえて前半と後半に分けるということね。会話デッキとゲームは自分で考えてみるから出来たらまた見てくれる? とりあえず鬼丸さんにコラボのお誘いしてみる」

「ああ、楽しみに待ってるよ!」

「後、来週のマシュマロトーク、考えてきたんだけど意見聞かせてくれる? 候補は二つあって、一つは「人生で経験した怖い話」、もう一つは「初恋の思い出」なんだけど……」


「うーん、俺だったら「人生で経験した怖い話」かな! 初恋の思い出だと、小学校時代クラスのXXさんを好きになって…… というような似たようなエピソードばかりになるリスクがありそうだ。人生で経験した怖い話、なら怖いの定義も含めて自由だから幅広いコメントを募集できそうな気がする」

「なるほど! ありがとう、そうするね」


今日はこれくらいで解散することになった。帰ったら色々なVtuberを見て研究だ。平日夜は配信のゴールデンタイム。30人Vtuberがいれば20人は19時〜23時のどこかで配信していると言っても過言ではない。この時間をずらす技もなくはないと思うんだが…… 流石に高校生で真夜中配信や早朝配信、昼間の配信は不可能なため仕方がない。それに真夜中に配信しても単純に視聴者の全体数が少ないからな。やはりゴールデンタイムで勝負するのがベターだろう。


タイトルを見て気になったVtuberの配信に参加する。今回は、どういう内容ならコメント欄が盛り上がるか? を研究だ。コメントの速度が遅いとどうしても盛り上がりにかける。VVVのような同時接続者1万人を超えるレベルだと自然と早くなるが、数百人レベルだと人によってかなりコメントの量に差がある。


 ざっと30分ほどかけて色々なVtuberの配信を見ると、なんとなく見えてきた。一つは下ネタだ。男性視聴者が多いからだろう。下ネタ発言をした時に関しては非常にコメント量が多くなる。これはわかりやすいな…… 次に「ライン超え」と呼ばれる発言をした時だ。視聴者を「どうせ皆友達いないんでしょ?」みたいに弄った時に、怒ったぞというコメントで盛り上がる。これはお互い冗談だとわかっている前提なので、少し難易度が高いな。

後は、単純だが視聴者への質問系だな。「皆は、寿司だとなんのネタが好き?」と聞くと皆が教えてくれるのでコメント量が増える傾向にある。これは聞くのは簡単だが、その後話を広げていくセンスか事前準備が必要だな。いくつか質問を準備しておいて、それにまつわる話を準備しておくのが確実だろう。


 こんなところか。この世界はまだまだ学ぶことが多い。



 そんなこんなで色々と勉強をして日々が過ぎる。高木と配信前に打ち合わせをして、実践していく繰り返しだ。少しずつだが高木はトークが上手くなっており、抑揚などもしっかりついてきている。そしてそれに比例してチャンネル登録者の伸びが上がっているのを感じる。


『遅くなりましたが、動画を作ってみました! 見ていただけますか? 』

土曜日の朝、起きると下井草からメッセージが届いていた。俺、高木、綾香、下井草のグループに投稿されている。別途綾香にも下井草の動画作成については伝えたが、「え〜楽しみ〜」と凄くギャルっぽい反応が返ってきた。正統派のギャルのようだ。


 5分に渡る動画を見た結果…… 俺は感動していた。

「すげーーー! ガチじゃん! なんかストーリー仕立てになってるし!」

 そう。普通の歌ってみた動画では可愛いキャラクターが踊っていて、歌詞が画面全体に色々な角度で表示されることが多いが、下井草の動画にはまさかのストーリーがあったのである。サビの所で盛り上げるように設計されており、面白い。

「ん? でもこれ大丈夫か……? 歌詞に合わせた解釈だよな。解釈違いの視聴者が荒れる可能性がある……?」

 ストーリー仕立ての問題点は「解釈が入る」ことだ。曲を聞いて、その曲の歌詞が伝えたいことは何かを設計している下井草はすごいのだが、彼女が考えた世界観が広がっているため他の人と認識が異なる可能性がある。そのリスクをどう考えるか……

「まあ、いいか。投稿してみてから考えよう。ただ、概要欄にきちんと解釈は書いておいた方がいいだろうな」


『すごいじゃん! ストーリー仕立てになっていてかなり味があったよ』

『ありがとうございます! 私のこだわりを理解してもらえて嬉しいです』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る