第14話 声は曲の魂だからね
『今日はマシュマロ配信だったな。もう抜粋終わってるか?』
『うん、終わってるよー』
俺は暇な授業中に高木とやり取りをしていた。受験は私立文系と決めているので、物理は必要ない! わからないだけではあるが。
マシュマロは、完全匿名で意見募集者にコメントを送ることが出来るサイトである。ずらっと一覧でコメントを眺めることができ、その中から適当にピックアップして話すことが出来ることからはVtuberがよく使うサイトだ。マシュマロ配信では、基本的にはマシュマロで投稿されたコメントを読みながら話を広げていくようなことが多い。
『後で見せてくれ』
『了解。カラオケでねー』
放課後。既に自分の中で放課後はカラオケ店で過ごすのが定番になりつつある。平日、フリータイムの学生だと数百円で利用できるのでカフェより安い説すらあるから有難い。カフェだと1人500円は超えてくるからなあ…… 俺達は部屋に入り、まず音楽を消してドリンクを飲む。
「よし、配信の話をするか。マシュマロにテーマはつけているのか?」
「いや、つけてないよ。絞ると何も来ないのが怖くてね」
「今、大体どれくらい届くんだ?」
「毎週マシュマロ配信しているけど、大体毎週100件くらいかなあ。意味不明なのとか除けば80件くらい?」
「結構多いな。それだけあればテーマつけてもいい気がする。どうせ読むのは数件だろ?」
「なんでマシュマロにテーマが必要なの?」
「それはだな…… テーマがないと新規の人を呼び寄せにくい、と考えているからだ! 色々なVtuberの配信を見ていて思ったんだが、適当にマシュマロを拾い上げる配信だと話が多種多様になりすぎて、とっ散らかってるため、その人のファンでもないと聞きづらい。特定のトピックでは参加できるけど、そうでないとついていけないとなるからな。テーマがあると、そのテーマに沿って話が展開されていくから話についていくのも簡単だし、そのテーマに興味がある新規を呼び寄せることも出来る」
特に幅広いトピックを話せるVtuberだと余計に話があっちこっちに飛ぶため、ついていなくて脱落する視聴者が出てくる可能性が高い。そしてそれは雑談配信でニーズを満たせるからな。わざわざマシュマロを使う必要がないだろう。
「あー、そういう考え方か。どういうテーマがいいのかな?」
「皆が経験してそうなトピックか、体験者は少ないけど字面で気になるトピックかだな。「青春の甘酸っぱいエピソード」や「楽しかったおすすめの旅行場所」なんかだと前者だし、「変わった性壁を持っている人」や「恐怖の心霊体験」とかだと後者だろう。後者は視聴者の層に合っているテーマである必要があるが、気になって見てみよう、となる確率は高いと思うな」
「わかった。来週はテーマを考えてみるね。今日は…… とりあえずマシュマロをピックアップしてみたけど、意見もらえる?」
高木からマシュマロのスクリーンショットが5枚送られてきた。
「順番は決めているか?」
「その場の流れで決めようかなと思っているけど……」
「どんな流れだ?」
「んー…… なんとなく?」
「気持ちはわかるが、せっかくだったら順番を決めないか? まず、内容が重いのや長文は続くと視聴者はしんどいので軽いのと交互に行きたいな。後は、中盤に1番興味深いマシュマロを採用して、それをタイトルに入れよう。この中だと……「皆が好きなものが好きになれません」から始まるやつはいいかもな。コメント欄が盛り上がることが想像できる。中弛みを防ぐために真ん中に持ってくるのがいいという考えだな。まあここまでは色々な配信見ての感想だが、もしかすると実際にやってみて話しやすさや盛り上がりは違うかもしれない。その時は変更するのがいいだろうな」
「そうだね。そこはやってみないとわからないもんね。じゃあこれから初めて、これ、これ…… という感じかな?」
「ああ、いいんじゃないか? 今日はそれでやってみよう。で、タイトルにマシュマロの一文を入れて偶然目にした人に興味を持ってもらうようにしよう」
「うん、わかった!」
「あ、綾香さんから連絡きてる」
『お疲れー。早速だけど曲にしてみたから聞いてみてくれる?とりあえず限定公開で私のチャンネルに投稿してるから』
まだ数日しか経っていないが、仕事が早い女だな。どれどれ、どんな感じなんだろう。
「聞いてみるか!」
「わあー、すごいね!!」
「ああ、すごいな。そしてこういう感じになるんだな」
「ね。何個か歌ってみた動画聞いてから録音したけど、どれとも違う感じになってる。感情重めな感じだね」
「これはこれで良い気がするな! 他は明るく前向きな歌という感じだが、こっちは想いの入った重い感じで、他との差がわかりやすい」
『聞いた! 天才だな!』
『でしょでしょ、高木ちゃんから録音もらったらテンション上がっちゃって徹夜でやっちゃった。ちょっと情念深い感じにしてみたらしっくりきたんだよね』
『ありがとう、綾香さん!』
『いやいや、こっちこそありがとうだよ。なんて言っても声は曲の魂だからね』
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