第12話 君なら有名になれる
服部を待つ、カラオケルーム。緊張した様子の高木。
「何を歌おうかなあ」
「そうだな、バラードとポップソングと、ボカロ曲。テンションの違う曲を3曲歌えば大体わかってくれると思うぞ。後は向こうのリクエスト次第だな」
「わかった。ちょっと考えてみるね」
「ああ、自信持って歌えばいい。大丈夫だ。そういえば著作権は演奏されれば問題ないのか?」
「基本的にはOKらしい。念の為完成したら見せてとは言われたけど」
「了解。ならいいな」
待ち合わせ時刻の午後6時から5分遅れて服部が部屋に入ってくる。
「ごめん遅れちゃった。ちょっと演奏が盛り上がっちゃってね」
「服部さんは軽音部では何を演奏しているんだ?」
「ギターだね。まあほとんど暇つぶしに近いけど。じゃあ早速聞かせて欲しいな。好きな曲で良いから自由に歌ってみてよ」
高木は頷くと、何かを入力し始める。流れてきたのは、10年ほど前に流行ったバラードのラブソングだ。シンガーソングライターで人気だった女性の歌である。
「〜♫」
やはりすごい歌唱力だ。ぼーっとした顔つきの服部も一瞬目を見開いている。よし、掴みはOKだ、後は最後まで頑張ってくれ……!
途中から服部は腕を組みながら目を瞑って聞いている。何か考えているのか、それとも耳だけに集中しているのだろうか? 高木はそんな服部の様子を見る余裕もないほど一生懸命に歌っている。一曲が終わった。
「上手、だね。じゃあ次は少しアップテンポ目の曲で聴きたいな。何かある?」
高木はまた頷くと入力し始めた。流れ始めたのは最近人気の匿名女性シンガーの曲だ。
「おお、良いチョイスだね。こういう曲だとイメージしやすくなるかも」
こちらも綺麗に1曲歌い終わる。最後に、として服部がリクエストしたのはボカロ曲だった。
「この曲知ってる? ちょっと歌ってみて欲しいんだけど」
有名な曲なので俺も高木も知っていた。高木が頷くと服部が入力し、曲が流れ始める。
途中のラップのような場所に苦戦しつつも高木は歌い切った。拍手する服部。部屋に入ってきた時とは目の輝きが違う。
「いやあ、すごいね。高木さんの歌、思った以上だった。ちょっと上手いくらいかなあと思って来たけど全然そんなことなかったね。君なら有名になれるよ」
「……そうかな? そう言ってもらえると嬉しい」
「少なくともうちの高校の枠で評価するレベルではないよ。その次元にはいないと思っていい」
「だろ! 高木の歌はマジですごいんだよ!」
「ねえ、この人はどういう役割なの?」
「えーっと……プロデューサー?をやりたいらしいんだ」
「そう、この素晴らしい歌声のVtuber 水咲ネネをプロデュースして日本中から注目される存在にしたいんだ、服部ならわかるだろ!?」
「急にテンション上がったね。まあでも気持ちはわかるよ」
「私はね、歌を作るのも演奏するのも好きなんだけど、歌が上手じゃないの。だから自分で歌うってことが出来なくてね。それで軽音部に入ってボーカルに歌ってもらってた。でも高木さんをボーカルにして、自分が作った曲を歌ってもらえるなら軽音部は辞めても良いかもしれない。そう思ったよ」
寂しそうな目で服部は話す。歌声がコンプレックスとは意外だったが、確かに投稿していた曲もボカロ曲ばかりで自分が歌う曲はなかったな。こればっかりは努力ではどうにもならない運が多分にあるので仕方がない。
「実際に辞めるかはともかく、それくらいのテンションで向き合ってくれると嬉しいよ。で、曲を作るのはお願いできるか?」
「任せて。まず声を録音させてもらえればそれに合わせて演奏音を入れてくるよ。声をちょっと編集してみて、曲っぽく仕上げてみる」
「おお、ありがたい。どれくらい期間はかかるものなんだ?」
「まあ1週間あれば大丈夫かな。録音は家で出来る?」
「ボイスレコーダーで良ければ……」
「あー、専門機材はないよね。じゃあちょっと今から私がよく行っているライブスタジオに行く? そこで録音させてもらおうか」
「お金がかかるんじゃないか?」
「高校生割引で安く使わせてもらってるから大丈夫。私が払うよ。良い声を聞かせてもらったお礼」
「服部はなんて良いやつなんだ……!」
「あ、そうそう。服部っていうのやめてくれない? 苗字があまり好きじゃなくて。綾香って呼んでくれる?」
「わかった、任せろ綾香!」
「はい、綾香さんよろしくお願いします」
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