第11話 曲を作れる人は軽音部にいる

次の日の昼休み、俺と高木は山村に相談しに行く。山村は女子の中では話しやすいタイプだ。誰にでも分け隔てなく優しく対応してくれる。


「なあ、ちょっといいか?」

「どうしたの? 珍しい組み合わせだね」

「ああ、色々あってだな…… 軽音部で、曲を作れる人っていないか? オリジナルソングでも既存曲のカバーでもいいんだが、ボカロ曲なんかを作れる人を探しているんだ。PCで編集できる人がいいな」

「曲作れる、か…… 同級生がいいよね? なら服部さんかなあ。ちょっと変わった子だけど、XX演奏してみた、みたいな動画を動画投稿サイトに投稿していたりするらしいよ。彼女ならそういった相談に乗れるかも。服部さんってわかる?」

「お!それは熱いな。ただ誰か俺は知らないなあ…… 高木はどうだ?」

 高木も首を振っている。

「じゃあ今日の放課後、音楽室に来てくれる? 活動あるから多分来ていると思う。紹介するよ」

「助かる、放課後行くよ」


 放課後の音楽室には、男女半々くらいで20名くらいのメンバーが集まっていた。結構人気がある部活のようだ。

「あ、来た来た! 服部さん! さっき話した件!」

 山村の声で、1人の女の子がこちらへ歩いてくる。少し気崩した制服と、ギャルっぽい見た目の気だるそうな子だ。

「なんか話があるって山村さんから聞いたんだけど」

「部活中すまないな。どこか静かに話せる場所ないか?」

「わかった。着いてきて」

 向かった先は隣の音楽準備室だった。

「で…… どういう話? というか名前聞いていい?」

「あ、ああ。俺は上月、こっちは高木だ。俺達は今、歌ってみた動画を投稿したくて、曲を作ってくれる人を探しているんだ。で、山村に相談したら服部さんならできるかもって言われたんだが……」

 服部のあまり意思の見えない目に怯みつつも、俺は事前に準備しておいた説明文を口にする。事前に考えておいてよかった。緊張で何も話せない所だった。


「歌ってみた動画、ってことは配信者か何かなの?」

「わ、私がVtuberとして活動していて……! で、歌ってみた動画を撮りたいなってなったんです」

「ああ、Vtuber。なるほどね。今流行ってるもんね」

 今回、服部さんと話すにあたって高木がVtuberであることは話すということにしてあった。そうでなければ話が進まない可能性があるからだ。また、一緒に曲を作る仲間として隠し事はしたくないという高木の考えもある。


「そうなんです。で、もし良ければ私が歌うのでMIXをお願いできないかなと……」

「なるほどね。状況は理解したよ。それで山村さんは私に話してきたのね。私が演奏動画とか投稿してるから。できないことはないけど、あんまり気乗りしないかな。外部の人じゃダメなの?」

「これから定期的に出来る限りたくさん投稿していきたいんだ。外部の人だと、どうしてもスケジュールや金銭面がネックになるだろ? それなら仲間を作って一緒にやっていくという形の方が柔軟に対応できていいんじゃないかという打算的な考えもある」

「なるほどね。報酬についても考えてるんだ?」

「ああ。細かい打ち合わせは別途するとして、広告収益の何割か、という形で考えている。見込みの再生回数としては10万再生だな」

「結構人気なんだね」

「高木は結構将来有望でな。初めて1ヶ月でチャンネル登録者5000人いるんだ。これからの伸びも考えればそれくらいは期待できる」

「…… そんな話初めて聞いたんだけど」

「さっき授業中に調べて計算していたんだ。お前の歌声なら10万再生は固いさ」


「オッケー、わかった。前向きに考えてるよ。ただ条件がある。まず、高木さんの歌声を聞かせてくれない? 私に合ってなかったら無理かも。今日、放課後カラオケで聞かせて欲しいな」

「カラオケか。高木は今日は問題ないか? わかった。じゃあまた放課後だ。待っておくよ。あ、そうだ、服部さんの曲どんな曲か聞くことって出来るか?」

「わかった。じゃあとりあえずLINE交換しようか。で、リンク送るよ」

 俺たちはLINEを交換し、服部は音楽室に戻っていった。


「はあ、緊張した……」

「お疲れ様。よくあんなに話せるね」

「事前に想定問答準備してたからな。そういえば報酬の件、とりあえず話したけど大丈夫だったか?」

「ああ、うんいいよ。割合に関してはちょっと相談だけど、その方が事前に必要なお金もないしで都合がいいからね。一曲につきXX万円、とかだったらさすがに頼めないよ」

「な。とりあえず服部の曲聞いてみるか」

 送られてきたリンクを開くと、動画投稿サイトに繋がった。再生回数数万回のボーカロイド曲だ。リズミカルなメロディーが心地よい。作曲はAYAKA HATTORIと記載されている。本人だろう。


「この曲作ったんかな? すごいね」

「そうだな。他にも何曲が出しているみたいが…… 全部数万回再生しているな。思ったより才能ある人なんじゃないか?」

「才能ありすぎる人だったら頼みにくい、というか私の歌聞いて拒否されるかもだけど大丈夫かなあ」

「そこまでの人気ボカロPではないから大丈夫だろ」

「…… それはちょっと失礼じゃない?」

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