第9話 悩みがあるんです

「今ね…… これからどうやって人気になっていくか、悩んでる」

「行き詰まってるのか?」

「そういうわけでもないけど、1ヶ月でチャンネル登録者5,000人なのね。最初だから興味本位や物珍しさで登録してくれる人もいるだろうけど、いてこのペースだからね。このままだったら5万人いくまで1年かかっちゃう。目標は10万人なんだけど、先が遠すぎて不安しかないよ」

「10万人か…… 確かに10万人となると一流のVTuberというイメージがあるもんな。GURU UPみたいなところで平均10〜15万人くらいだろ?」

「そうそう。VVVみたいに100万人です、というのは流石にハードルが高すぎるから、そこを目指したいんだけどね。チャンネル登録10万人いれば配信者として生活することも出来そうだし」


「これで生活していきたいと思ってるんだな」

「うん、今の私にとっては成りたい職業だね。自分が評価されて色々な人に見てもらえるのって、大変だと思うけど楽しそう。今でも十分楽しいけど、もっと大きな人になりたいんだ」


「なるほど! よくわかった!」

「で、どうかな? 何かアイデアはある?」

「ああ、色々考えてきたんだが……」

 俺はノートを開く。Vtuberに関する自分の意見をまとめたメモ帳だ。昨日作成した大作である。


「そうだな、まずは他のVtuberと比較して水咲ネネのキャラクタービジュアルは問題ないと思う。むしろ個人勢よりは可愛く出来ているな。VVVなんかと比べても大きく負けることはないと思う。で、次に声だな。声も可愛らしい女の子という感じで聞きやすかった。ただ、あんまり感情に起伏がないからもうちょっと出してもいいかもな。ここねこさんみたいに大声でキレてみたり、そういうアクションを入れるとより楽しい感じが出ると思う。で……」


「待って待って、そんなに考えてくれてたんだ。ごめん、試すような感じをして。ちょっと処理しきれないから一旦ストップしてもらっていい?」

「まだここから3ページ続くからとりあえず聞いてくれるか?」

「ごめん、無理かも。落ち着いた場所できちんと話をしない?」

「確かにそうだな。学校で話すのも誰か来ると困るし、外にするか?」

「そうだね、なんか良いところ知ってる?」

 静かで落ち着いた場所で周りが気にならない環境か。カフェとかファミレスとかだと誰かが聞いている可能性もあるからな。いくら新人Vtuberと言っても身バレのリスクはできるだけ下げるべきだろう。

「あ、カラオケとかどうだ? あそこなら他の人を心配する必要もないし、話もできるだろ」

「いいね。他の人と行ったことないから緊張するけど」

「あーヒトカラ派か。せっかくだから一曲歌ってくれよ。生で聞きたいなー」

「それが緊張するって言ってるんだけど」


 検索すると駅の近くにカラオケ屋があるようだ。俺達は学校帰りの足でそのまま向かう。

「けど、こんなすぐにバレちゃうと思わなかったなあ」

「そりゃ、あんな恋愛相談したらすぐわかるぞ? まあでもあれだろ? 視聴者の悩みに真摯に応えたかったんだろ? そういう真面目な姿勢はすごいと思うぞ」

「いや、単に経験が無さすぎてわからなかっただけだけどね。自分の知識で答えるとあまりにも質問が偏っちゃうから……」

「ああ、そうだな、高木に恋愛経験あるわけないよな……」

「私のこと言える立場でもないと思うけど?」

「高木よりは異性とまともに話せる自信があるわ」

「…… そんなに私、変だった?」

「ああ、完全に不審者だよ。少なくとも目は相手の目を見るようにした方がいいぞ。キョロキョロしてると変だ」

「…… 気をつける」


 カラオケ店に入る。さて一曲歌うか、と検索機を手に取ったところ、取り上げられた。

「まず真面目な話をしましょ。ね?」

「そ、そうだな。どうやって人気を出すか、だよな」

「そうそう。配信見ててどうだった?」

「声とテンションについてはさっき話をした通りだ。もうちょっとテンションの上げ下げがあってもいいと思うな。後は、これは完全に方向性の話になるが、中の人を押し出していくのか、出さずにいくのかというのもあると思う」

「どういうこと?」

「どの箱でもそうだったが、Vtuberのキャラクターと配信者が別であるという方向で活動する人と、同じだとして活動する人がいるように思えたんだ。例えば、「設定上は17歳だけど本当は30歳のおばさんです!」みたいな話をするとかな。これはどっちが良い悪いではなく、単純に方向性の差だと思う。それによって配信や企画の空気感は統一した方がいい気がするな」


「あーなるほどね。そういう意味だと、私は中の人についてはなるべく触れない方向で行きたいなあ。もちろん経験談であったり話すことはあるけど、リアルをなるべく出さないようにしていきたい。高校生だしね」

「俺もそれには同意だ。大学生になるとまた違ってくるのかもしれないが、今はその方がいいと思う。そして高木の声はどちらかというと「アイドル売り」が似合う声だと感じたな。中身を出さない雰囲気の理想系としてはアイドルとして振る舞うということだ。下ネタとか実写配信とかは出来る限り避けるのが賢明かもだろう。ただ……Vキャスト的にはどちらも避けては通れないだろうし、あまり箱のイメージと違うキャラクターになっても浮いてしまうリスクがある。そこはチューニングが必要だとは思う。時々はちゃんと下ネタに乗っかるとかそういう配慮も必要だと思うぞ」

「な、なるほどね……」

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