第6話 一緒にやってみたら?

「はい、皆さんこんばんは。たぬちゃだよー。今日もよろしくなあー」

 配信が始まる。視聴者は500名くらい。適切なタイミングで投げ銭をして読んでもらわないと。そう思うと緊張する……

「いやあ、3日ぶりの配信やね。この前のトークが下ネタが多すぎたからかわからへんけど通報されたようでな。3日配信停止されててんな。絶対私のアンチやわ。そんな暇なことしてないで有意義なことに時間使えばいいのにな


 何を言ったんですか? それはな、わからんねんな。心当たりがありすぎるからなあ。ははは。 生々しすぎた? まあしゃーない。それは相談してきた側に問題あるやろ? 私は相談に乗ってアドバイスしただけやねんから何も悪くないやん。直接的なワードがダメやったんかなあ。ち◯ち◯とか、そういうのがAIに引っかかったんかもしれんなあ」

 たぬちゃの配信は好きだが、周りには好きであることを話していない。それは下ネタや過激なトークが多すぎるからである。知らない世界を見ている感じがして面白いのだが…… 他人に勧められるものではない。


「今日も早速皆からの質問に答えていきますかあ。お、まさゆきさん500円ありがとー。んー、この前酔った勢いで女友達に告白したのですが、次の日からも普通にSNSでやり取りしています。これは脈ありでしょうか? あるわけないやん。完全に忘れたい記憶扱いされてるぞ、それ。私が好きな相手から告白されたら「昨日のこと、本気だよね……?」って次の日の朝に言ってるよ! それがない時点でお察しやな。まあでも嫌いというわけではないんちゃう? 友達としては仲良くしていきたい、的な。関係性がわからんから予想やけどな」

 早速一発目の相談から一刀両断されている。まあ確かにその通りであるのは間違いないが、今から相談すると思うと怖い。立ち直れなくなったらどうしようか……。


配信が始まって30分が経過した。そろそろだな。俺は事前に考えていた文をコピーし、1000円の投げ銭を投下した。少し勢いが止まった今なら読んでもらえるだろう。

「おーケントさん1000円ありがとうー。えーなになに高校の同級生が新人Vtuber……」

お、読まれた。ドキドキしながら待機する。

「ケントさんは高校生ってことで高校のクラスメイトがVtuberだとわかってしまったということか。で、その人が歌がうまいってことで応援したいけど立ち位置がわからんと。多分クラスメイトは女の子なんやろうね。うーんこれはなかなか難しい相談やね……


 配信者目線でいうと、リアルな交友関係とインターネットの関係っていうのは分けておきたいっていうのはあるねん。やっぱりそれは別の世界として生活したいというかな。オンとオフって言ったら変やけどスイッチがあるし。でも視聴者目線で言うと、目の前に推してる活動者がいたら声かけたくなるよなあ……」

:Vtuberなら顔出しもしてないだろうから身バレしたらびっくりしそうだよな

「せやねん、配信者、ならいいけどVtuberやろ。突然身近な人からお前XXだろ? 俺わかっちゃったぞーって言われたら普通にゾッとすると思うねんな。よっぽど本人が匂わしていない限りはそっと遠くから見守っておくというのが賢明な気はするねんな……」

 やっぱりそうか。高木からしたら怖いよなあ。


「……それか、いっそのことめっちゃ接近してみるっていうのはどうや? お前の活動に感動した、俺も手伝わせてくれ! みたいな。一緒にVtuberとして成長していくとかなんか青春っぽいやん? その子がどんな子かわからんけど、伸び悩んでいるとかやったらそういう提案は感謝されるかもしれんで。ただ、気持ち悪い、って言われて玉砕する可能性もあるけどな、ははは。まあ大事なのは自分がどうありたいか、やと思う。高校生やろ? ネットで本名をバラすとか相手に迷惑かけるようなことをするのは絶対あかんけど、そうじゃなければ失敗してもいい経験やと思う。自分がどうしたいかをよく考えてみー」


「あ、でも間違っても熱意だけで突撃したらあかんで? 私のところにも時々何か仕事手伝わせてください! って連絡くるけどそれだけ言われても正直困るねんな。私の仕事がどんな仕事で、どういうことが必要と考えているか、とかちゃんと調べてますっていう前提が欲しいわけよ。それがないと全部こっち任せになるやん? それやと意味ないよな」

 

そう言ってたぬちゃは次の質問へと話を進めていった。自分がどうしたいか、か…… 確かにその目線はなかったな。そっとしておこうとも思ったが、あの時聞いた歌声が忘れられない。あれはもっと世の中に知られるべき歌声だ。


相手からすると迷惑な話かもしれないが、俺は世の中に広めるためのお手伝いがしたい、自然とそう考えていた。よし、その方向で高木に話してみよう。まずは、Vtuberとはどんな仕事なのか、きちんと調べてみよう。

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