第5話 心に響く歌声

一つだけ気になる配信があった。カラオケ配信だ。他が1000〜2000回の再生回数の中、カラオケ配信の再生回数は1万回を超えている。俺は再生ボタンを押した。


「こんばんはー。Vキャスト新人Vtuberの水咲ネネです。今日はカラオケ配信です。歌を歌ってみようと思います! 近所からうるさいと苦情が出ないか心配ですが…… とりあえずやってみます! じゃあまずは、有名な曲から歌ってみようかな。私が好きなVtuberさんの曲です」


「🎵だって僕は星だから〜」

 水咲ネネが歌い始めた瞬間、思わず画面を凝視してしまった。鳥肌が立つ、とはこのことを指すのだろう。あまりにも透明感がある、美しい歌声に俺はただただ衝撃を受けた。歌にそれほど詳しいわけではないが、心に染みる素晴らしい歌声だ。音程が合っているのか、解いった詳しいことはわからないが、生で聞いたら感動するだろう。

:おおー!!

:すごくね?

:いいね×100だな

:高評価しかない

 コメント欄も絶賛の嵐である。初めて披露したようで、皆驚いている。高木、歌が上手かったのか? 一緒にカラオケに行ったりしたことはないため全く知らなかったが。


「そうだ僕は星だった〜 🎵 はい、ありがとうございます。一曲目でした。皆さんどうだったでしょうか? あ、投げ銭ありがとうございます! めちゃくちゃ上手いねー、 おーありがとう! 不安だったけど褒められると嬉しいなあ。


 歌手目指してたのか? いや、そんなことないよー。昔から歌は好きでよく1人で歌っていたけど特にプロになりたいとかはなかったなあ。 ボイスレッスン? 受けたことないよ。そういう動画とか見ることはあるけどね!」


 歌が上手い、というのは単純に羨ましい。中学時代にクラスで行ったカラオケでは、歌が上手い男の熱唱に皆聞き入っていた。次の日からそいつはヒーローのような扱いだったな。まあ確かに甘い歌声で、ラブソングを歌った時には男子でも好きになるんじゃないかというレベルではあったが。しかし高木? の歌はそれをさらに上まっているいるのではないか?


「じゃあ、次はちょっと昔の曲行くね。夏ソングです!

 🎵 君と夏の終わり、将来の夢〜」

 次は昔のドラマの主題歌を熱唱している。女性ボーカルの歌で、本家とは声のトーンが違うが独特のアレンジが心地よい。気がつけば一緒にスマホの前で歌っていた。


 そこから1時間、男性歌手を含めて多種多様な歌を披露し、カラオケ配信は終了した。動画を再生し終わった後も俺はしばらくぼーっとしていた。衝撃で力が入らない。普通に高木がVtuberをやっているというだけであれば下世話な興味で終わったが、こうも才能を見せつけられると話は変わってくる。素晴らしい才能を見つけたので自分だけで楽しみたい、という思いと世界中に良さを知ってほしいという思いが交差し、複雑な感情だ。


 さて、俺はこれからどうするべきか? 高木に直接「歌すごい良かったね」と伝えるべきか、それともそっと見守るべきか。気持ち的には素晴らしいものを聞かせてもらったのでそれを伝えたいと思うが、一方で本人はVtuberとして顔を隠して活動している以上、身バレに関しては好ましく思わないだろう。下手に怖がって動画投稿をやめてしまっては世界の損失だ。それだけは防がなければならない。


 うーん…… 考え込んでいると、ブブブ…… スマホが震えた。何かと見ると、応援している配信者、たぬちゃの配信が始まるらしい。たぬちゃは色々な視聴者の相談にズバリ回答する系の配信が人気で、下ネタが多いこともありアングラ感があるが、一部からは圧倒的な支持を得ている配信者だ。俺は小気味の良いトークが好きでよく聞いている。そうだ、たぬちゃに相談してみるか。投げ銭につけることができるコメントであれば必ず読んでくれる。小遣いから1000円ほど出せばきっと読んでくれて相談に乗ってくれるだろう。俺は質問内容を考えた。


「高校の同級生が新人Vtuberであることをネットの色々な情報から知ってしまいました。あまり会話したことはないのですがクラスメイトです。歌声が素晴らしくぜひ応援したいと思うのですが、本人に応援メッセージを直接伝えるのも怖がられるかなと悩んでいます。どうすれば良いと思いますか?」

 こんなところだろうか。今後の関わり方について人生の先輩から教えてもらおう。

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