第17話 袋のネズミ

 大瀬幹二郎のあとを追って着いた先は食堂だった。その入り口には内浜大貴うちはまだいき深川美里ふかがわみさと、そして大瀬幹二郎の三人が今まさに食堂に殴り込もうとするところだった。

彼らは三人しかいない、城岡高校UFO研究会のメンバーだ。


「君たちねえ。あんなに勢いよく走ってどうしたの。危ないでしょう」

「あっ、真倉先生。聞いてくださいよ」

 三年生で部長の内浜は鼻息を荒くして言った。


「真倉先生も見たでしょ。さっきの奴。あいつが部室から飛び出すところを俺たち三人で見たんだ。なんだろうと思って覗いたら、部室が荒らされてたんだ」

 唯一の女子部員、深川も頷いた。

「三人とも顔は見れなかったけど、上履きのラインが黄色だったから、うちと同じ二年生だと思う。で、必死に追いかけたらそいつ、食堂に逃げこんだの」



 城岡高校には食堂がある。大きな食堂ではないが、百人くらいは入れる広さを有している。

高校の近くにはコンビニもあるが、わざわざ学校を出てまで行く者も少ない。それにコンビニと比べても食堂は安いものが多い。パンやポテト、チキンなどは百円で売られ、昼休みには学食とは別で販売されている。特に骨なしチキンは男女問わず愛されていて、すぐに売り切れてしまうほどの人気メニューだ。真倉もこの学校に赴任してきてから一度しか口にできていない。


「俺たち三人、そいつが食堂に入るところをしっかり見てた。それに、食堂の出入り口はここ一つだけ。奴が逃げ込んでから人の出入りはないし、まだ五分と経ってない。絶対にこの中にいるはずだ」


 つまり、犯人は袋のネズミというわけだ。


「それで、先生はなんでついて来たんですか?」

 大瀬は真倉を覗き込むようにして尋ねた。

 クッキーの恨みを晴らすため、という小さなものだが、これもれっきとした理由である。

「これよ、これ」

「クッキー?」

 袋の中で破片となったクッキーを真倉は三人に見せた。

「この子の無念を晴らさなきゃいけないの」

「そ、そうですか」

 UFO研究会の三人は目をぱちくりとしばたたかせた。


 利害の一致した真倉たちは、早々に食堂に足を踏み入れた。

 食堂に入るのは真倉にとっても久しぶりのことであった。入り口の右側には食券機があり、そのままさらに右に行くと調理場がある。そこで食券を渡し、料理ができあがるのを待つ。中央には三つのテーブルが川の字に並んでいて、丸椅子がびっしりと並べてある。


 食券機のメニューを久しぶりに見るが、高校にしては豊富なほうだと真倉は思った。値段も五百円もしないで食べられるものがほとんどで学生の財布に優しい。


 ラーメン、うどん、カレーうどん。親子丼、とりマヨ丼なんてものもある。定番のカレーはもちろん、日替わり定食まである。オムライスにハヤシライスといった変わり種すら四百二十円で食べられる。学食にしては七百円と割高なキムチ鍋なんてものまであるが、昼休みにこれを頼む人が果たしているんだろうか、と真倉は首をひねった。



 放課後の食堂に人はまばらで、ざっと見回しても十人もいない。さらに二年生男子となると三人しかいない。これならすぐに見つけられそうだ、と真倉は少し胸を撫でおろした。

 真倉たちは食堂にいる二年生男子を一人ずつ調べて回ることにした。

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