1/3のヒトカケラ

第16話 真倉まどかの追跡

 その事件は放課後、真倉の目と鼻の先で起こった。


 職員室に向かう途中のことだった。教科書とお気に入りの生徒にもらったチョコチップクッキーを片手に、今日の晩御飯は何にしようかな、などと真倉は考えていた。

冷蔵庫の中を思い出してみる。にらとしいたけが残っていたのは覚えている。ピーマンも残っていたかと記憶を辿ってみるが、思い出せない。生徒の名前ならすぐに覚えられるのにな、などと考えているところに、後ろから真倉の右肩を殴りつける者が現れた。


「いったあ。なに?」


 そのはずみで、持っていた教科書とクッキーを廊下に落としてしまった。クッキーは床に打ちつけられた衝撃で、綺麗に三つに砕けてしまった。


「あー! なんてことを!」

その横をものすごい勢いで男子生徒が追い抜いていく。

「ちょっと、君。せっかくのチョコチップクッキーが! てか、危ないわよ!」


 そんな真倉の声はまったく届いていないようで、その男子生徒は脇目もふらずにそのまま廊下を走っていった。


「なによ。シカト?」


 後ろ姿だけでは誰かわからないが、上履きのラインは黄色い。ということは二年生だ。

 城岡高校の上履きは学年ごとに色が違い、一年生は赤、二年生は黄色。そして三年生は青になっている。三年生が卒業したら色ごと学年も繰り上がり、新一年生が青をつけるのだ。


真倉が困惑しているところへ

「待てー! このやろうー」

 そのすぐ後ろを、どこかの部族のような雄たけびをあげながら三人の男女が追いかけている。そのうちの一人の男子生徒の首根っこを真倉は捕まえて尋ねた。


「ねえ、さっきの男子を追いかけてるの?」

「はい。あいつ、泥棒なんです」

「えっ! 泥棒?」

「捕まえなきゃいけないんすよ!」

 真倉に捕まった大瀬幹二郎おおせかんじろうは早口にそう言うと、遅れをとってはならないとばかりに走り出した。

 泥棒とはなんとも聞き捨てならない。それに割れたチョコチップクッキーの恨みを晴らさないわけにもいかない。クッキーごときで、と言われても関係ない。あれは生徒からもらった大切なものなのだ。一言お詫びのセリフを言わせなければ腹の虫が治らないというもんだ。

 真倉は念のために周囲に人がいないのを確認してから、大瀬のあとを追った。

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