第一章 小学生≠大人 9


「降江先生。生徒たちとの関係や、あそこまでなめられてしまっていることについては、あとで聞かせてください。それは、この事態が起きた理由にはなると思いますが、この事態を収めるパーツにはならなさそうだ。

 増真くん、いや、増真さん」

「そこまで大人への対応をしなくていいですよ。くん、でいいです」

「じゃあ、増真くん。ひとまず、君たちから話を聞かせてくれ。君たちが、ぼくたちに応援してほしいという、その理論ってものを」


 見た目だけで言うと、和井得よりも増真くんの方が年上に見えた。それでも、毅然とした態度で対応する和井得を、仁楠は頼もしく思った。


「ぼくから説明しますよ」


 そう言って前に出てきたのは、唯一髭をたくわえた大道くんだった。


「ここに来るまでに見てきたでしょう。この校庭の狭さ。ぼくたちの不満はそこなんです」

「増真くんのからだが大きいことは関係ないのかい?」

「それは否定しませんが、そもそもの広さが問題なんです」


 多少はからだの大きさを自覚していると分かり、仁楠は少しほっとした。


「ぼくたちは、入学したら最後、この学校で六年間過ごさないといけません。それに疑問を持ったことはありませんでしたが、わたしは思いました。全てについて疑うことが重要だと思いました」

「哲学的だね」

「ありがとうございます。ぼくたちは考えました。先生たちは、校庭を使っても、授業か運動会しかしない。実際に自分たちで遊ぶことはありませんから、校庭の狭さを問題視することがないんです」


 横でうなずいていた通狩くんが、そこにフォローをするように発言をかぶせ始めた。


「みなさんは最近の運動会をご存知ないでしょう。

騎馬戦だとか、組体操だとか、グラウンド全体を使う危険な競技は減りました。親の場所取りを防ぐために、低学年、高学年とで二日に分けたことで、観戦に大勢集まっても、この校庭に収まりきってしまいます。そして行う競技は、百メートル走だったり、綱引きだったりと、あらかじめ使用エリアが決まっているものばかり。校庭の狭さが取りざたされることはありません」

「そう、グラウンドについて文句を言う、気づくことができるとすれば、実際にそれを使っているぼくたちしかいないんです」


 熱く語る二人を、和井得、仁楠の二人も真剣に聞いていた。今のところは、内容は幼いとは言え、一応、論理が破綻しているとは言えなかった。


「それでは、少し話は飛びますが、公園の吸収についてです」


 通狩くんは地図を広げて、大道くんはその横にポジションした。増真くんは一歩下がってその二人を見守り、良足くんと堀音さんは後ろで控えている。


誰一人、他人任せにしていないな。これは厄介だな、時間もかかるな、と仁楠は身構えた。

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