第26話 続・友達の恋-3

「昨日の告白はどうなったの?」


 朝の電車で彼女はまずそれを聞いてきた。


「ダメだったよ」


 やるせなくつぶやくと彼女も悲しげな眼差しになる。


「そう……残念ね」

「うん。いい奴なんだけどさ、やっぱり恋愛って難しいね」

「そうね。けっきょくは相性の問題だし」

「相性か……」

「わたしはそう思うわ。もちろん、世の中には顔とか家柄とか能力で相手を選ぶ人もいるけど、それは本当の意味では恋愛じゃないと思う」

「うっ……」


 僕は君を容姿で好きになりました――なんて言えない。


「あなたも顔で選ぶタイプなのかしら?」


 彼女が目を細めてバカにしたような笑みを浮かべる。はっきり言って心が痛い。


「それで、あなたから見て、わたしはどんな感じかしら? 合格? それとも不合格?」


 たぶん、小悪魔ってのは、こういう人を言うんだろう。

 僕はやけくそになって言った。


「合格だよっ。じゅうぶんお釣りが来るよ」

「そう、よかった」


 頷く彼女はどこか嬉しそうだ。

 このときになって僕は、ようやくひとつの可能性に思い至っていた。

 この人、もしかして僕に気があるんじゃ……?

 い、いや、待て。どう考えても惚れられる理由がない。毎日同じ電車に乗り合わせるだけの完全なる赤の他人。しかもすごい美人で、たぶんモテモテだ。

 そんな人がどうして僕なんかに惚れる?

 相性? つまり、相性なのか?

 いや、待て待て。この人は結構小悪魔だ。

 僕がその気になって告白したら、思いっきりしらけた顔をして「キモイ」とか言われるかもしれない。そうなったら首をくくる自信がある。


「楽しみね」


 ポツリと彼女が言った言葉に現実に引き戻される。


「え?」

「海よ」

「あ、ああ」


 曖昧に頷いたところで、また会話が途切れた。

 彼女はやはり笑みを浮かべたまま窓の外を眺めている。

 列車が目的地に着くまでの間、僕はずっとそんな彼女に見とれていた。

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