第67話 夢の空の下は
明け方、布団を引っ張られるのを感じて目が覚めた。
「うなされていたよ。大丈夫かい?」
いつも天井の向こうから聞こえてくる声だ。
……ベッドの下から聞こえてきた。
ベッドの下のそいつは尚も布団を引っ張る。
「大丈夫?うなされていたよ。大丈夫かい?」
布団を掴んで、僕は聞いた。
「お前は誰だ」
………………………………ベッドの下から手が
そこで目が覚めた。時刻は七時ちょうど。
あれは夢だったのか、それとも。
◆
これは、ただの悪夢の話だ。
彼は部屋の天井に渦巻き模様を描いていた。
なんとなくそれをやめて外に出ると、強い日差しに白んだ静かな街の景色が広がっている。
街を歩いてすぐ、彼は不安な気持ちになった。
見かける人がみな死んでいるのだ。
道路に倒れている人々、飲食店の机に突っ伏している人々、道端の車の中で死んでいる人々……みな突然糸が切れて動かなくなったように死んでいる。
彼は眉根を寄せ口を曲げる。嫌な予感に首を振って、ただひたすら地平線に浮かぶ入道雲を目指した。
やがて森の中に入る。
右を見れば猪の死体、左を見ればリスの死体。木の上には猿の死体、木の下には鹿の死体があった。奥へ奥へと進めば進むほど、枯れ葉は生物の死体に置き換わっていく。蛇の死体、アライグマの死体、タヌキの死体、ハクビシンの死体、カモシカの死体、熊の死体。死体だらけの山を抜けて、ただひたすら上空に見える入道雲を目指した。
そして海の見える草原に来た。
海面は浮かび上がったありとあらゆる魚の死体で埋め尽くされている。
彼はその死体の海の上を歩き、ただひたすらに、水平線に浮かぶ入道雲を目指した。
入道雲の真下に来たところで、目が覚めた。
◆
「……人間の夢は、集合的無意識で繋がっているという説がある」
僕は屋根裏部屋の怪異が語り終えるなり、その続きを引き継いだ。
◆
人の夢は繋がっている。夢の世界には測り知れぬ広さと底知れぬ深さがあるが、一つの空の下に地続きになっているのだ。
街に、山に、海に死を溢れさせた何かがいる。
その何かが潜む、空に浮かぶ入道雲がある。
もし眠っている間に入道雲を見ても、近づかない方がいいだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます