第5話 もう一つの連鎖

 時代的には同じ時代のことだった。

 同じように、パンデミックが発生し、戦争が某国の間で発生したことで、同じように、会社が危機に立たされているのは、どこの会社も同じであった。

 ただ、鈴村の会社が、食品関係の会社だったことで、庶民の生活に直接かかわりがあり、仕入先、そして、小売り先との橋渡しになっているために、なかなか物が売れないと、どうしようもない世界であった。

 ここに、一人の社員がいた。彼は鈴村よりも少し年下だった、

 鈴村が40代前半だったが、彼は30代後半、ただ、鈴村が若く見えるのか、彼が老けて見えるのか、ほぼ同じくらいではないかと思われる。

 もっとも、今のところ、二人に接点はなく、面識もないので、比較のしようはなかった。

 しかも、二人は同じ地域に住んでいるわけではなく、それぞれ、地元では大都市であるが、同じ県でもないので、それこそ面識はないだろう。

 しかも、二人の仕事も接点がない。まったく違う地方の、違う業界で仕事をしているという、本来ならまったく出会うことのない二人であった。

 彼の名前は石橋典弘という。仕事はというと、某電機メーカーに勤めていて、仕事とすれば、IT関係の仕事だった。

 それも下請けではなく、メーカー大手ということで、景気は悪くはないはずだったのだが、ここ最近の不景気の影響をもろに受ける形で、結構な岐路に立たされていた。

 特に、ここの場合は、パンデミックによるよりも、その後に発生した戦争の影響の方が大きかったようで、特に、心臓部にあたる半導体の輸入が、戦争を行っている国にほとんど一任という形だったので、打撃は大きなものだった。

 電機メーカーは、他の企業と同じように、大きければ大きいほど、地盤固めが急務だということで、かつての、バブル崩壊からこっち、企業の合併等が、定期的に行われ、それぞれの企業の得意分野を、それぞれで独占できるというシェアが伸びることが大きかった。

 それこそ、

「一足す一が、三にも、四にもなる」

 ということであった。

 だから、少々のことでは、地盤が緩むことはないと思われたが、おっとどっこい、今の世の中何が起こるか分からない。

 そもそも、バブルが弾けた時だってそうだったではないか。

「銀行は絶対に潰れない」

 と言われ、

「銀行員と公務員になっていれば、仕事のきつさは別にして、路頭に迷うことはない」

 ということで、結婚相手の候補として、上位に必ず銀行員というのが入ったものだった。

 それが、バブルが弾けたとたん、それまで過剰融資に頼っていた部分が、すべて不良債権となってしまい、貸し付けた会社が倒産などすると、回収ができなくなり、首が回らなくなる。

 いわゆる、

「過剰融資」

 というのは、相手が、500万でいいというところを、800万貸し付けて。その分の利子で儲けようという魂胆だったのだ。

 バブルの時代は、事業を拡大すればするほど儲かる仕掛けになっていたので、融資を増やしてくれれば、その分に使い道があったので、お互いに損をしないはずだった。

 しかし、バブルが弾けて、借りた分を返すあてもなく、しかも利子で苦しむことになり、挙句の果てに、倒産の憂き目を見ることになる。

 当然、銀行も貸し付けた分が返ってこないのだから、その分は、どこからも回収できず、当然赤字になる。

 他の企業から、融資をお願いされても、銀行が金を貸すはずがない。返してもらえるあてがないのだからである。

 この時期に融資を願ってくるのは、会社再建のための苦し紛れなので、当然、必死になってお願いにくるが、貸し付けると、間違いなく不良債権になるのだ。

「銀行がお金を貸さなくなったら、銀行としての機能がマヒしてしまう」

 ということで、経済を救うはずの銀行が潰れていくという連鎖反応は、当然、そこには、その銀行を取引銀行にしていた企業もすべてが、連鎖倒産となるだろう。

 それが、バブルが弾けた時の悲劇だったのだ。

 もっとも、倒産や経済の混乱の理由は、もっと複雑なところにあるのだろうが、それだけ、元をただせば、単純なことなのかも知れない。

 そんな時代において、あまり表に出ていなかったが、今回の、いわゆる、

「ダブルショック」

 というものは、半分有事に値するものである。

 国家テロともいうべき、パンデミックであったり、戦争という行為は、そのものズバリが有事である。

 ということになると、いろいろなところで暗躍をしてくるところがあるわけである。

 特に、

「戦争は金になる」

 などと言っている。

「死の商人」

 とでもいえる連中が、お金や物資を動かすことになると、いろいろなことができる。

 買占めであったり、価格操作など、簡単にできることであり、それによる混乱ははかり知れない。

 下手をすれば、彼らにとっても、

「想像以上の結果」

 になるかも知れない。

 ということは、自分たちが考えてもいなかったことが起こることで、リスクがさらに増すということを、分かっているのかどうかも怪しいものだ。

 しかも、暗躍している連中が一つではないのである。いろいろなところに。いろいろな手法を使う連中が出てくるということで、一体、どこまで当局も把握できるというのか、難しいところであろう。

 下手をすると、

「暗躍する連中を取り締まるために、さらに暗躍する連中を作り出すことに繋がるのではないか?」

 ということになる。

 最初は、公共機関の組織だったかも知れない。しかし、元々暗躍していた連中をやっつけることができたとすれば、今度は彼らが潰れた連中に成り代わって、同じような組織になるとすれば、それは本末転倒なことであって、対応として、どうすることもできないということになるに違いない。

 実際には、今、こうやっている瞬間にも、似たような動きがあるといってもいいだろう。

 実際に、元々の暗躍はできあがっていて、いろいろな詐欺組織などが存在する。

 元々あった、

「オレオレ詐欺」

 であったり、

「サイバーテロ組織」

 などが、今までとは違い、有事に際しての方法を身に着けてくると、もう警察当局ではどうにもならない。

 特に、石橋のいる街では、サイバー攻撃をもろに受けていた。

 石橋のいる街は、ある程度は、コンピュータ関係の会社が乱立していて、サイバー攻撃に狙われやすかった。

 ただ、やつらは、サイバー攻撃だけをやっていたわけではない。実は、相手の目をくらますという意味で、裏を掻いて、実に原始的な方法で攻撃を行っていた。

 マニュアルというべきなのか、人間のスパイを送り込み、そこで二重に観察することで、計画をうまく回そうとしているのだった。

 それを考えると、サイバー攻撃に対策を集中している間、実際の内部にはまさか、スパイが潜り込んでいるとは分からないことで、うまく情報を抜かれていたりしたのだ。

 ここは、コンピュータへの侵入に関しては、以前からかなりのセキュリティを強化していたが、人間によるマニュアル的なことに関しては、かなり昔に取り入れたシステムに頼り切っていて、まともにメンテナンスが行われていなかった。

 つまりは、

「すでに使わなくなったレコードやカセットの再生の機械の製造を打ち切っているのと同じなのである」

 ということは、それだけ、考え方が甘く、ザルだといってもいいのだが、そこには、経費の問題が絡んでくるので、一概に愚かだとは言えないが、こんなことがバレると、一気に社会問題になって、企業の存続が危ぶまれるので、この情報、流出については、ひた隠しに隠してきた。

 まさか、世間もマスゴミも、政府も、そんな子供だましのようなやり方に、天下の最先端技術を持った会社がやられるとは、夢にも思っていないからだった。

 だが、実際には、簡単に起こりえることで、そのことに気づかないほど、社会は混乱していて、当たり前のことが分からなくなっていたに違いない。

 そんな時代において、実際に、いくつかの会社にスパイが潜り込んでいるようだった。

 そのスパイが、元々同じところから、同時に送り込まれたのかどうか、そこまでは分からなかった。

「たぶん、全部同じところからではないだろう」

 というのが、大方の意見で、なぜそう思うのかというと、そのうちに一つのスパイ活動によって得られた情報を使って、ある会社が、脅迫を受けたからだった。

 彼らは、別に、

「このことを警察や、世間に言うなよ」

 といっているわけではない。

 むしろ、彼らの目的の一つは、

「世間に対しての公表」

 でもあったのだ。

 世間に公表することで、

「この会社は、こんなに簡単に、情報を引き出すことのできる、ザル会社だ」

 ということを公表し、世間から抹殺することを計画していたといってもいい。

 そういう意味で、得られた情報を使って、何かをするというのは、あくまでも二の次だったのだ。

 だが、他の会社の情報を得たところは、自分から公表をすることはなかった。ただ、このように、脅迫された会社があったということで、自分のところもいろいろ調べてみると、

「これはヤバイ」

 ということになったのだ。

 だが、他の会社には、脅迫が及んでいるわけではなかった。

 ただ、考えられることとして、最初のケースの様子を見て、うまく行けば他の会社も脅迫できるとでも思ったのかも知れない。

 これを聞いて思い出すのが、昭和の終わりの頃に起こった重大事件であった。

 あの事件は、解決しないままに、ほとんどの案件が時効を迎えてしまい、完全に、

「未解決事件」

 として、確定した感のある事件であった。

 その事件というのは、いわゆる、

「複数食品会社脅迫事件」

 とでもいえばいいのか。

 まずは、あるお菓子メーカーの社長の誘拐から始まった。

 身代金の要求などから、混乱を重ね、そのうちに違う食品メーカーの脅迫へと食指が伸びていくことになり。食品メーカー業界に激震が走った。

 ただ、それだけではなく、

「お前のところの食品に、毒を混入した」

 などという、ただの脅迫にとどまらず、

「無差別殺人事件」

 の様相の様相も呈してきたことで、今度は世間が震え上がった。

 実際に、いかにも怪しいと思われる食品が、スーパーで見つかり、調べてみると、青酸カリが混入されていることが分かり、ただの脅しでは済まないことがハッキリしたのだ。

 そんな状態において、世間もマスゴミも政府も、

「未曽有の大事件」

 ということで、捜査に乗り出した。

 それでも、結局、事件は曖昧になり、あれから約30年、覚えている人もほとんどいないというくらいの事件として風化されていたのである。

 今回のサイバーテロも時代が違っていることで、当然やり方も違うのだが、

「相当悪質だ」

 という点と、

「複数の企業を狙っているように見える」

 という点から、その時の事件を思い出す人も少なくはないだろう。

 ただ、何しろ30年以上も前のことなので、警察にも政府にも、その当時のノウハウや、詳しいことを知る人間がいないというのも事実である。

 それを思うと、今回の事件をいかに考えるかというのは、非常に難しい問題であった。

 石橋ももちろん、小さい頃のことだったので、テレビなどの特番で、

「過去の未解決事件」

 などというドキュメンタリーでしか知らない事件だった。

 当然、その時がどのようなパニックが起こったのかということも分かるはずもなく、ただ漠然と、

「歴史上の重大事件の一つ」

 というだけのことである。

 そういう意味では、事件として、記憶に残り始めたというのであれば、それから十年くらいが経ってから起こった、宗教団体による、

「国家転覆計画」

 ともいえる事件であった。

「地下鉄の中で、毒薬を撒く」

 という、まさに、無差別テロを、帝都のど真ん中で決行するのだから、相当にショックな事件であったことは間違いないだろう。

 そんな事件が発生した中で、宗教団体による、

「警察の追及を他にそらす」

 という目的と、どうもそのほかに、

「世間に対しての私的な恨み」

 による犯行だった可能性が高い。

 やっていることは、

「国家反逆」

 に近いのだが、本当にそうだったのかというのは、疑わしいところだった。

 しかも、その、

「私的」

 という部分には、教祖本人の孤児的な恨みであった可能性が高い。

 教団の頭脳集団と言われた連中がそのことに気づかないほど、教祖による洗脳はすごかったに違いない。

「ポアする」

 などという言葉が流行ったのはこの頃で、邪魔になる人間を抹殺するということのようだったが、この事件は、世界にも類を見ない。首都に対して行われた、無差別テロということで、全世界でも注目されたことは、疑う余地のないことであった。

 そんな国家反逆の首謀者は、そのほとんどが逮捕され、実行犯などを中心に、死刑が執行された。

 この事件は、学生時代くらいのことだったので鮮明に覚えているが、そこから十年前の事件は、

「未解決事件」

 となったことで、昭和の未解決事件の一つとなった。

 保健所の職員に化けて、

「近くで食中毒が蔓延しているので、解毒剤を前もって飲んでおくように」

 というような形で、職員に毒を飲ませ、まんまと金を奪った極悪非道な事件。

 さらには、殺害された人は一人もいないが、当時の三億という大金を、現金輸送車から奪うという鮮やかな手口を見せたう、

「三億円強奪事件」

 と並び立つ、

「三大未解決事件」

 といってもいいだろう。

 確かこの時も死者はいなかったのではなかったか?

 それでも、

「三億円強奪事件」

 とはわけが違う。

 偶然死者がいなかったというだけで、実際に食品に毒を混入していたのは事実だし、誘拐事件も、営利誘拐というれっきとした凶悪犯罪であることに変わりはない。人が死んでいないというのは、ただの、

「結果論」

 でしかないのである。

 そんな状況において、昭和、平成と比べ、今は、コンピュータが発達してきている。

 宗教団体による、

「国家的テロ」

 があった時ですら、まだ初期の携帯電話が、一般人に普及していなかった時代であり、やっと、コンピューターで、マウスなるものが出てきたくらいの時期であった。

 記憶媒体も、主流派まだフロッピーであり、今はほとんど見たこともないフロッピーというのも、実に不思議な感覚だ。

 それだけ、コンピューターの普及や発展が目まぐるしかったということだろうが、今のように、

「スマホがない生活なんて、考えられない」

 という時代がくるなど、その頃は想像もできなかったことだろう。

 今のようなかなり譲歩が溢れた時代は、戦争が起こっても、

「情報戦」

 などというものが繰り広げられるようになってきた。

 30年くらい前にあった戦争は、

「まるでテレビゲームを見ているようだ」

 と言われるようなもので、ハイテク兵器と言われるものが、どんどん開発され、巡航ミサイル、迎撃ミサイル、地対空ミサイルなどの整備もされてきて、

「制空権を取れば、ほぼ戦争は勝ち」

 とまで言われていた時代だった。

 下手をすれば、ハイテク後進国が使用している戦闘機などは、かなり旧式のものが多かったりすると、飛び立つことすらできず、敵の妨害電波などによって、めくら状態にされるというのも、実際にあったようだ。

 今では、実際の戦争が起こる前など、外交交渉と並行して、いろいろな情報を世界に発信し、自国の正当性を訴えたりして、自国に国際社会を優位に引っ張り込もうという作戦を取ったりしている。

 敵対国は、主義主張で対立している国であれば、国際社会の対立国が、支援してくれたりもするだろう、被害状況などをネットで配信することで、その惨状が全世界で把握することを容易にするのであった。

 今のそんな世の中における戦争は、そうやって、相手国に揺さぶりを掛けたり、援助を期待するのに、わざわざ外国に出向いていかなくても、リモートでもできるわけである。

 そんな世界規模の戦争の話でなくとも、一つの企業間での静かな戦争も、、情報戦を呈している。

 昔でいうところの、

「特務機関」

 世界的には、諜報活動を行うスパイというのがいるが、世界各国に潜んでいたりするのだ。

 石橋の暮らしているこの、

「ハイテクメーカーの乱立する街」

 にも、スパイが、暗躍しているのだ。

 一つの企業に、一人とは限らない。お互いに、さすが、

「餅は餅屋」

 といわれるだけのことはあり、どこのスパイか分からないが、スパイが潜入していることは、その佇まいなどで分かるというものだ。

 お互いに利害に関しては一致していなくても、騒ぎ立てるわけにはいかない。

 自分たちだってスパイ活動をしているのだから、他のスパイの摘発は、自分の行動を制限するも同じではないか。

 自分のところの会社にも、数人が入り込んでいるようなので、他の会社にも入り込んでいることだろう。

 何をしているのか分からないが、何かあった時に、情報戦を仕掛けるために、今から、内部の操作をリモートでできるような細工をしているのか、それとも、普通に、昔でいうところの、

「産業スパイ」

 のような、同業者からの、情報収集ということではないだろうか。

 それこそ、本当の意味のスパイだといえるのではないだろうか・

「あの人もスパイかも知れない」

 と思って見てしまうと、その人の近くにいる人も皆スパイに思えてくる。

「見知っている顔の、話だってしたことがあるはずの人なのに?」

 と思うと、人が信じられなくなるような、疑心暗鬼に陥ってしまうのではないだろうか?

 そういう現象を、

「カプグラ小工具」

 というのだという。

「自分がよく知っているはずの人が、次々と、何かを企む秘密結社によって、別の人間と入れ替わってしまったのではないか?」

 ということである。

 似ている人間であるが、実は全然違うのである。それこそ、

「似て非なるもの」

 であり、まったく違う人間なのだ。

 まるで、アニメか特撮に出てきそうな話だが、実際に、50年以上前のマンガが原作の特撮番組であったという。

「カプグラ症候群」

 は、一種の精神疾患のように言われるが、まさにその通りであり、

「この考えが生まれたのは、20世紀の半ばくらい」

 だと言われているので、その考えをマンガ家は、勉強していて知っていたのだろうか?

 それとも、偶然にも、マンガ家の頭の中にも学説と同じ意識があったのだろうか?

 さすがにそのマンガ家は、今までも、

「マンガ界のレジェンド」

 と言われているだけのことはあるというものだ。

 その話は、地球を征服しようと、他の星からやってきた、自称、

「宇宙の帝王」

 といっている宇宙人が、地球人に化けた生物を送り込んで、次第に本当の人間と入れ替えていくという、地球制服計画の一環としてのものだったのだ。

 そんな話を、当時としては、よく考えたものだと思っていたが、意外と当時のマンガ黎明期と呼ばれた時代から、結構出てきていたりする。

「人間型のロボット、アンドロイドやサイボーグなどの話では、ロボット工学三原則に則った話があったりするくらいだからな」

 ということも聞いたことがあった。

 その人がいうには、

「ロボット工学三原則を提唱したのは、ロボット工学者でも何でもないんだ」

 というではないな。

「どういうことだい?」

 と聞くと。

「ロボット工学三原則を考えたのは、SF小説家なんだよ。小説のネタとして考えられたものが、徐々に浸透していって、次第にロボット工学のバイブルのようになったのさ。提唱したといっても、小説の中でだけどね。でも、読んだけど、かなりよくできた作品だったよ」

 というではないか。

「どこがすごいんだい?」

 と聞くと、

「矛盾をついている話なんだよ。というのが、ロボット工学三原則自体が、矛盾を孕んでいるので、SF小説などでは、矛盾をいかに解決して組み立てていくかというのがテーマと結びついてくるわけなので、そういう意味でも、矛盾を提示し、それを解決していくという。まるで、一人ボケ突っ込みのようで、読んでいて、考えさせられるところが、結構あったものだよ」

 というのであった。

 ロボット工学三原則は、三原則というくらいなので、三つの原則から成り立っている。

 これは、ロボットを守るためというよりも、

「力が強いロボットが人間に成り代わって、人間を支配する」

 というような、いわゆる、

「理想の人間を作ろうとして、怪物を生み出してしまう」

 というかつての小説のネタを警告として考える、

「フランケンシュタイン症候群」

 というものを、意識したものであった。

 つまり、

「人間を傷つけてはいけない」

「人間のいうことをきかなければならない」

「ロボット自身、自分の身は自分で守らなければいけない」

 という、大まかにいって、この三つなのだが、最初から最後にかけて、優先順位が下がってくることになるのだ。

 つまり、人間を傷つけてはいけないというのが、一番優先されることなのだ。

 だが、問題は、

「人間の命令が、殺人などであれば、その命令は聞いてはいけない」

 ということになるのだ。

 ただ、そこで、

「人間というのは、誰のことまでを指すのか?」

 ということになる。

 明らかに悪の手先と分かっている相手のいうことまで聞かなければいけないのか?

 ということを考え始めると、なかなか、矛盾が矛盾を呼ぶことで、解決することが難しくなってくる。

 これも、一種の、

「連鎖反応だ」

 といえるのではないだろうか?

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