0-35 運命に抗い天命に従う
何故、地面に足を付けて歩き続けれるのか。それは、この惑星に重心があるからである。地球も同様、中心の重力に引き寄せられている。
「惑星で例え話をするとな、共通重心というのがあるじゃろ。運命も同様、わたしたちは繋がっているのじゃ、お互いに」と、オンニさんは言った。マルカは相変わらず、首を傾げたままだ。
共通重心というのは、宇宙で使われる言葉である。
分かりやすく言えば、地球と月だろう。その二つは、地球表面から少しだけ内側にある部分を中心に回っている。それは星系に含まれる、天体全体の質量が完全に均衡する点である。
とはいえ、これはあくまでも一例である。実際に、地球とユーサネイコーには共通重心は無い。半径やら質量やら、その他難しい公式
オンニさんは理解をしない怪物にも分かるように、答えを言ってくれる。
「重心を通して共通点に到達したから、惑星を跨いで巡り会えたんじゃよ。『チキュウ』という世界から来た、末成 千道くん。お前さんは、このことが予測できたかね?」という問いかけに、ゆっくりと首を横に振った。
前を向いているので、俺が見えていない妖精は「そうじゃろうな」と、賛同した。
「まさか、別の惑星の人間と会えるとは! お互いに運ばれてきたんじゃよ、わたしたちは。重心というのは、人の意志で変えることも、予測することもできない。そんな神秘的な力によって、巡り会えた。ここまでが運命というのなら、先の未来を作るのを天命と言えよう」
この先は、誰にも予測がつかない。運命に抗うというのは、物事を変えるのではなかった。繋がりと出会いを諦めないという意味だと、今になって知った。
出会いがあれば、
俺は最初、怪物に襲われた。だが骨の彼が助けたので、命を落とさなかった。それから茶寓さんに出会えたことで、ユーサネイコーの事情を知れた。ソフィスタに入団するのを目指し、スタンさんとオンニさんに強力してもらっている。
「今までの俺が作った運命が、ここから天命へと変わっていた。あぁ、そうか。俺が地球にいる時、不遇な扱いを受けたのは。出会うモノすべてに『意味がない』と決めつけ、閉鎖的になっていたからだ。そんな俺に下された天命が、この惑星へ行くことだった。なんて素晴らしい地獄! 俺はすでに、最高の地へ到達していた!」
「その通りじゃよ。出会いによって生まれた結果こそが、天命なのじゃ。だからわたしたちは、人事を尽くして知るべきなのじゃ、この結末を」
その第一歩として、マルカに勝たなければいけない。奴の中に囚われている魂を、俺たちが解放する。咆哮を出し、自身を奮い立たせる。
「綺麗事を並べたところで、俺に勝てる未来は一生来ない」と、シニミは言った。
奴らには理解できなくて、当然なのだ。死んだ魂を取り込んでいるだけに過ぎない――決意を抱かない――奴らに、この気持ちが分かる訳が無い。
「それに貴様らは、未だに俺のソウルを見抜いていないんだぞ?」
「心配しなくとも、今から理解するのじゃ」
オンニさんとマルカが、再びぶつかり合い始めた。両者とも妥協をせず、僅かなチャンスを逃さない。
妖精が時間稼ぎをしている隙に、俺はテレスコメモリーに魔力を含ませる方法を考え始めた。
周りを見渡すが、どこにもマルカ以外のシニミが見当たらない。恐らくだが、奴がすでに取り込んでいるのだろう。一体も見かけなかった理由としても、納得がいく。
身の回りにある魔力と言えば、眼帯しか思い当たらなかった。アネモネにテレスコメモリーを当てると、氷が解け始めた。
魔力が望遠鏡の中に入って行くのが見えたので、吸い取りを開始したと理解した。すべてを蓄える間は、戦えない。マルカの攻撃――主に被弾である――を避けながら、当て続けるしかない。
離れていく俺を逃すまいと、敵は追いかけようとする。すぐに妖精の阻止が入り、確実にダメージを食らう。それでも氷を破壊して、俺の武器を寄越せと怒鳴り散らしている。
「杖を手に入れるために、小賢しい老いぼれ妖精を殺す!」と言ったマルカは、自身の魔力を凝縮し始めた。
その瞬間、俺とオンニさんは察した。
奴はこれから、『特有魔法』を放つのだと。老人は自分の周りに『防衛魔法』を張り、俺に叫ぶ。
「わたしは全身で受ける、見抜くんじゃ!!」
シニミが攻撃を開始した。瞬く間に透明の壁は貫通され、全身に浴びたオンニさんが、そのまま後ろ向きに倒れた。
俺は目元から望遠鏡を外し、大急ぎで駆け寄った。まだ、アネモネは半分ほどの大きさにしかなっていない。
しゃがみ込んで、様子を確認する。想像よりも深手ではないが、血を全身から流している。彼は攻撃を受ける直前で、自分の身体に氷の鎧を巡らせていた。急いで作ったからか――魔力量が少ないからか――とても薄い。すでに、粉々になってしまっていた。
「どうじゃ、分かるかえ……?」と、口の端から血を垂れ流しながら、オンニさんは呟いた。
彼の覚悟のおかげで、俺は奴のソウルを見抜けた。
夜は暗い雲が覆っているので、今まではよく見えていなかっただけなのだ。氷に張り付いているから、ようやく分かった。
「マルカ・ケークラのソウルは、『墨』です……!」
まるで本物のタコやイカのように、身体から墨汁を出していた。皮膚が腫れ上がり硬くなるのは、毒素が含まれているからである。
現に、オンニさんの皮膚は、少しずつだが変色していく。全身に浴びてしまったので、一つ一つの傷が浅かろうが、徐々に苦しんで死んでいくだろう。
この依頼を解決させるには、マルカのソウルを見抜くことではない。それは、何の解決にもならない。奴を倒してルージャ山を開放することで、スタンさんの依頼は完璧に終わる。
「見抜いた所で、状況は何も変わっていない」と高笑いした怪物は、俺に向けて右腕と四本の足を伸ばした。
墨のソウル―――
先端から墨を出し始め、弾丸のように凝縮する。機関銃の如く、俺に向かって撃ち始めた。オンニさんを守るために、身を
妖精とは違って魔法の膜を張れないので、身体への痛みも大きい。筋肉と気力を酷使し、絶対に倒れないように踏ん張った。
「この期に及んで、強気を取り戻したことには驚いたよ。お祝いに、貴様のどてっ腹に風穴を開けてやろう!」と、マルカはもう一度魔力を込めた。
ここで避けてしまったら、オンニさんにも当たってしまう。粉々になる覚悟を決めて、両眼を固く瞑った。
突然、誰も予測していなかった方向から、石が飛んできた。それは化け物の頭に当たったので、奴は俺から注意が逸れた。
「なんだ!? まさか、老いぼれ妖精が先に何かを仕掛けていたのか!? それともお前か、ド底辺の人間!!」
「違うね!」と、今度は声が聞こえた。
マルカは分かっていないが、俺はこの声を知っている。茂みから出てくる人物を見て、驚きながらも確信した。
「オンニさんでも、末成さんでもない! この俺、スタン・T・アードだ! テメー、よくも俺のことを気絶させたな!!」
「なんだ、貴様は? 魔力はあるが、取るに足らんな」と言ったマルカは、スタンさんにまったく興味を示さない。
依頼人は怒りを露わにし、もう一度石を投げた。今度は避けられてしまったが、構わず投げ続けている。
「ちょっと前に、オンニさんの棺桶から抜け出していた。『このまま逃げようか』と、正直思ってたよ。『俺が逃げても逃げなくても、勝敗は変わらねぇ』ってな。そんな、ふざけた考えをしちまっていた。だが、末成さんの運命論に、脳天を雷で打ち抜かれた!! 馬鹿にしたことを許さねぇし、俺は逃げねぇ! 来いよド低能、この俺と勝負だ!」
懺悔をし、怒りをまといながら叫んだ依頼人は、なんと魔力砲を作り出した。マルカに向かって放つが、いとも容易く相殺してしまった。それでも彼は、諦めずに撃ち続ける。
「末成さん!」と叫んだ彼は、両腕を目一杯広げ、俺たちに逃げ道を作る。「この短時間は、俺が引き受ける! だから、オンニさんを頼む!」
「はい!」と返事をした俺は老人を負ぶり、出来る限り離れようと走り出した。
そんなに心配しなくても大丈夫だと言った妖精は、直後に激しく咳込んだ。明らかに重傷なので、敵の攻撃が届かない場所まで行くのが、最善策であろう。
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