後半戦
0-21 依頼アプリ『フィデス』
ソフィスタへ入団するには、試験に合格しなければならない。
現時点で、第二項目まで成功している。茶寓さんが来たので、第三項目が始まる。
早速、パソコンを立ち上げた。充電は完了していたが、たったの五千マニゾンなので、多分すぐに減るだろう。
初期設定画面が表示される。後からでも設定できるので、今は最小限だけにした。
やはりと言うべきか、途轍もなく読み込みが遅い。画面が切り替わるだけで、三十分はかかった。
この家自体、通信環境が悪いのだろう。母屋は素晴らしいと思うが。
ソフィスタには、毎日何十万件もの依頼が届く。団長たちが相談して分担し、役目を果たしていく。
一人につき十件以上を引き受けるのは、普通らしい。自分の仕事が早く終わったら、手が回っていない依頼を勝手に引き受けても問題ない。
依頼人は、どうやってソフィスタにお願いをするのか。突発的な緊急依頼、手紙などの郵送依頼、予約依頼、指名依頼など。
方法は様々ある。その中でも全体の八割を占めているのが、ネット依頼らしい。
専用アプリである、フィデスを使う。依頼人は自身の名前と顔写真、内容と場所とお礼の品を書き、茶寓さんたちに送る。
もちろん、スマホにも対応している。だが本当に数が莫大なので、パソコンの方が見やすい。団員にとってパソコンは、紛れもなく必需品である。
プリインストールされているので、正式に入れた。ユーザー登録をし、流れる依頼内容を見ていく。
リアルタイムで依頼が更新されていくが、本当に数が莫大である。
この中から一つ承諾するのが、第三項目の内容である。表示されているのは、まだ誰も承諾していない依頼だけらしい。
誰かが承諾された依頼は、自動的にリストから削除されていく。大抵の場合、依頼内容とお礼の品を見て承諾するか決める。あと、明らかに変な顔写真とかにも注目する。
先ほどはペンも買ったので、茶寓さんの説明をメモ帳に書き込む。「真面目ですねぇ」と褒められた。忘れないようにするには、これが一番だろう。
「このアプリの欠点は、冷やかしも来る点ですね。ほら、これとか。『明日の朝にゴミ出しをして欲しい』って! 顔写真もブレているし、お礼の品はたったの一マニゾン!」と、茶寓さんは怒りを露わにした。
確かにこれは、誰も引き受ける気にはならないだろう。
依頼情報を確認しながら、画面を下げていく。俺は一文無しに戻ってしまったので、報酬金額がそれなりにあるモノが良い。
しかし現実は厳しい。物理的にできない内容ばかりだ。検索でゼントム国内だけに絞っても、圧倒的にシニミ討伐が多い。
その名の通り、シニミをボコって欲しいというシンプルな内容だ。だが奴らは怪物なので、舐めてかかると喰われるに違いない。
「千道くんは、戦いでは欠かせない魔法が出来ない。確かに、圧倒的に不利ですね」
「それでも勝てる方法は、ありますか?」と、顔を上げて聞く。
どうすれば引き受けられる依頼が増えるのか。シニミを倒せるのか。恥ずかしながら、今の俺には分からない。
だが、目の前にいる彼は総団長である。百戦錬磨に違いない彼は、ゆったりと微笑んだ。
「君なら、聞いて来ると思いましたよ。良いでしょう、お答えします。それは『実践』です。これが全て。諦めずに何度も……何十回も、何万回も挑んでいけば、自然と強くなります。しかし君の場合は、実践を積むのも難しい状態。最低ランクにも適うかは、未知数ですね」
「なるほど。お手ごろな武器とかありますか?」と、次の質問をした。
モップとか雑巾で立ち向かったら、一撃で返り討ちにされるだろう。木の枝と鍋の蓋の方が、まだマシか。真剣に考えていたら、苦笑いされた。
それから思い出したかのように、指パッチンをした。着替えさせた時に、あの意味が分からない手紙を預かったままだと。
確かに、パーカーの中に突っ込んだままだった。そう思いながら、俺は手を差し出した。手紙だけではなく、薄汚い望遠鏡のようなモノも乗せられた。
その名前は、テレスコメモリーというらしい。あの手紙を見た時に衝動が走り、仕事の合間を縫って総団長室を漁ったら見つかった。
これは茶寓さんのモノでは無いらしく、持ち主は不明である。大欠損している――とても古いので、『修繕魔法』でも不可――ので、本来の力はまったく発揮しない。
これが俺の杖代わり、もとい武器となるのだった。あまりにも壊れかけなので、不安そうに見つめる。
対して茶寓さんは、すでにパソコンへ意識を移して「どの依頼にしましょうかねぇ」と話しかける。
『……君は……』
どこからか声がした。茶寓さんを見ると、首を傾げられた。彼ではないらしい。幻聴かと思い、パソコンに向き直る。
ゲームでいう最高難易度をいきなり選ぶのは、武器を手に入れたとはいえ愚かだろう。初心者でも遂行可能なモノか、ほんの少しだけ難しいモノが丁度良い。
引き続きスクロールしていると、気になる依頼が目に留まった。ルージャ山を危険地帯から外して欲しい。
あそこには、珍しい薬草がたくさん生えているので、採取出来るようにしてくれ、と言った内容だ。
その山は、最初に見た景色の中にあった。青紫色の雲が周りに漂っており、あまり近付きたくない雰囲気をまとっていた。
危険地帯とは、シニミの溜まり場となってしまった場所である。一般人が迂闊に入らないように、『障壁魔法』を張っている。
こう言った所には、大抵ランクが上であるシニミがいる。だが隠れるのが上手く、見つからない場合が多い。もっと言えば、出現する条件があるらしい。
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