0-18 レットゥーギャザー②

 一人では絶対に使いきれない、文房具や画材セット。日曜大工やDIYに使いそうな、丈夫そうな道具。何に使うんだってくらい、巨大な道具。


 投げ売りされている駄菓子。ショーウィンドウに飾られているような、高級ケーキ。品定めが難しい位にある、大量の種類の野菜や果物。奇妙な模様と色合いをした、壁紙と絨毯。


 一目で分かるほど、安い布が使われているカーテン。木製から金属製まで取り揃えてある、机と椅子。可愛いモノから豪華な雰囲気の奴まである、テーブルとソファー。


 コスプレか変装用か、奇抜なデザインをした全身コーデ。リアル過ぎて、今にも動き出しそうな人形。呪いの道具と言われても違和感無いほどに、近づけない気配を漂わせる置物。もはや、用途の見当がまったくつかないモノ。


 色んなブランド品を取り扱っていると思ったら、百均レベルのモノもたくさんあるようだ。ペンならまだしも、たったの十マニゾンの机って、もはや不良品ではないのだろうか。すぐに壊れてしまうだろう。

 折角三万も頂いたので、数千はするモノにしている。残りは一万と四千であると確認した俺は、テーブルとソファーとベッドの瓶を、カゴに放り込んだ。一番安いし好きな色だからという理由で、灰色にした。


 これで残りは、家電系とアロマとパソコンだけになった。再びカートを押していると、家電の写真が目に入る。『もしかして』と思い、近づいてみた。やはり、掃除機があった。


 百均レベルがどんなモノか試したくなって来るが、グッと堪えて真面目に品定めをした。一桁は壊れるに違いないので、四桁にした。瓶を一つ手に取り、外側に貼ってある詳細を眺めた。


 どこからか、カラカラと物音がし始めた。遠くから聞こえるので、茶寓さんが来たのだろうかと思ったが、よく聞くと足音ではない。

 まるで、何かが進んでいく音だ。俺は棚から離れ、音がする方へ、歩いて行く。レールの所に戻ると、ある異変にすぐ気が付いた。


「か、カートがない! どこに行った!?」と叫んだ俺は、大急ぎで周りを見渡した。遠くの方だったが確実に、視界の中を捉えた。


 何故かカートが、独りでに進んでいた。


 ここは坂道ではなく、平行道である。そんなの関係無しに、揺れながら進んでいる。


 大慌てした俺は、全力で走った。取っ手を掴む直前に傾き心臓が跳ね上がったが、横転せずに済んだ。思わず、安堵のため息をついてしまった。中身はそのままだし、目立った変わりはどこにも無い。

 ここには俺以外誰もいないし、そよ風すらも吹いていない。もしかしたら、空調がどこかに付いているかもしれない。だが仮にそうだとしても、ここまで影響は受けないだろう。さっきまでは、何も起こらなかった。


 掃除機の瓶をカゴに入れ、もう一度家電のコーナーまで戻った。次は洗濯機を選ぶが、また勝手に進んでしまうかもしれないと、何となく不安が過る。なので、思考判断時間は短めにすると心掛けた。

 瓶を眺める。掃除機同様、少し高めである。しかし『持続:五年』って書いてあるのに、二桁なのはどうかと思う。だが何故か、テレビのCMでよく見る押し売りよりは、幾分も信頼出来る。


『あのパーカーは凄く汚れているし、洗濯機はやっぱり高めの奴にしようかな』と考えた俺は、結局四桁するモノを選ぶ。今の所、これが一番最高価格となった。

 一度カートに戻り、瓶を入れる。今回は勝手に進んでいないようだ。やはりカートを停止させる時間が長いのが、良くないのかもしれない。


 近くの棚にはテレビがあった。一度くらいは、七十五インチに憧れる。画面が大きいだけではなく、画質と音響が良かったら最高に気分が上がる。いつかは、そういうのでテレビゲームをしてみたい。

 しかし現実の俺は、十九インチにせざるを得なかった。限られたお金の中で買い物をする。まるで、一人暮らしを始めようとする気分だ。


 とにかく、家具が全部揃った。残高は六千と五百である。まだ見つかっていないのは、アロマとパソコンだ。家電の棚には、パソコンが無かった。アロマに関しては、あの悪臭に負けないのが良い。だがあまり強力すぎると、逆に具合が悪くなってしまうだろう。


 カートを押して先に進むと、香水の写真が貼ってある棚を見つけた。そんなに詳しくない俺でも、選べそうなモノが良い。そう思いながらカートから手を離して、数歩だけ棚に向かって歩く。


 後ろから、ガタガタと音がした。嫌な予感がして振り返ると、既にカートが独りでに動き始めている。慌てて引き返し、両手で支える。今回は危なかった。右後ろのタイヤが、飛び出しかけていた。

 そろり、そろりと。手を離して、カートを見ながら後ろへ歩く。しばらく見ていたが、特に何も起こらなかった。これはチャンスだ。さっさと代物を見つけて、ここに戻ってこようと駆け足になり、棚の所へ向かう。


 別に消臭剤でも良いと思っていたが、先にアロマキャンドルを見つけた。たしかキャンドルの炎は、視覚の癒しにもなると聞いたことがある。『悪臭解消にもなるし、一石二鳥だな』と考えながら、手に取る。

 急いでカートの所まで戻ろうとしたが、隣の棚の側面が目に入った。その写真は、パソコンとスマホである。カートは動いていないので、見ていくことにした。


 本当はスマホも欲しいが、さすがにお金が足りない。五千はあるが、茶寓さんの言う通りパソコンだけにする。丁度使い切る値段で、銀灰色ぎんかいしょくの瓶を手に取った。


 これで全部揃った。あとは、レジで会計をするだけである。二つの瓶をしっかり持って、ダッシュで棚から離れる。

 小さく見えるカートは、まだ動いていない。『これで第二項目も成功だ』と、安心しようとした。


 だが、俺が取っ手を掴もうとした瞬間、カートはガラガラと速く激しく動きだしてしまった。

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