0-17 レットゥーギャザー

「千道くん。次は、お金を使う内容です。何だか分かりますか?」

「……買い物ですか?」

「正解ですよおおおお!!」と言った茶寓さんは――いつの間に持っていたのか――クラッカーを出し、上に向けて放った。


 確かに金と言うのは、生きていく上でどうしても必要になる存在。これが無いと、食うことも飲むことも寝ることもできないので、本当に困ったモノだ。


「第二項目は『買い物』! 生活環境を整えないといけませんねぇ」


 目的地である建物の中に入った瞬間、照明が勝手に付く。センサーでもあるのかもしれない。すぐ目の前に、扉がもう一つある。それ以外は何も無いので、狭い部屋だ。


「ここは『レットゥーギャザー』というお店です。言わば『購買部』ですね。『DVC』自体は広いのに、ショップはここしかありません。けれど、何でも売っています。無人運転なので、24時間営業です。この中に入ったら、驚くと思いますよ」


 デパートみたいなモノなのだろうか。しかし失礼だが、この建物の外見は言う程大きくなかった。本当に色々売っているのかと思っていると、茶寓さんがポケットから紙を出し、俺に手渡しながら話す。


「この店には、ちょっとしたルールがあるんです。目の前の扉を開いたら、真正面にカートがあります。それは、レジまでレールの上に乗っているんです。そのカートを、。それが、この店のルールです。破ると、に遭いますよ」


 注意事項を聞き終わった俺は、もらった紙を広げる。それは買い物リストだった。カーテン、壁紙、絨毯、ラグ、掃除機、アロマ、洗濯機、テレビ、パソコン、ペン、テーブル、ソファー、机、椅子、ベッド、時計。全部、俺の部屋に置く家具のようだ。


 たくさんあるが、全部合わせて三万マニゾン丁度になると言われた。家電というのは通常、一個で何万かはするだろう。五桁もいかない掃除機や洗濯機は、果たしてどれほど持つのだろうか。


「この中でも、必ず購入して欲しいモノがあります。どれだか分かりますか?」

「え? えーっと……アロマですか?」

「あっはっはっは! 千道くんは、余程あの悪臭を解消したいようですねぇ!」と、茶寓さんは大笑いした。


 あの部屋にいると――どう足搔いても――、便器に顔を突っ込んでいる気分になる。一刻も早く、良い香りで上書きしたいのだ。外してしまったので、正解を聞いた。


「パソコンです。一番安いモノで良いので、必ず購入して下さい。次の項目で、必須だからです。さぁ、心が決まったらその扉を開けて下さい。私はここで待っていますよ」


 侮るなかれ、買い物を。俺の世界だと、レジ袋がどこもかしこも有料になって来ているし、重たいモノを運ぶ時の気だるさは尋常じゃないし、夏の暑い日とかだったら、食品が腐らないように保冷剤が必須だ。


 それでも金を使わないと生活できないのが、現実である。一文無しだと、野垂れ死にするに決まっている。今さっき受け取った金も、今から消える。それが生活するという意味なのだ。


 俺は深呼吸をし、扉を開いて中に入った。


 本当に、目の前にカートがあった。上にはカゴが乗っかっていて――というか、カートに固定されていた――タイヤの下には、レールが敷かれていた。

 少し押してみると、普通に動いた。後ろにも引き返せる。ゲートを潜ると、視界が一気に広がる。


 照明が光り出したと言っても、まぁまぁ薄暗い。雰囲気が明るくなったとは、とても言えない。視界が普通になったくらいである。

 ゴール――レジのこと――はまったく見えない。あの建物の外見からでは、想像もできないほどの広さだ。


 そこら辺のスーパーやホームセンター、デパートなんかとは比べ物にならない。多分これは、かの有名なコストコよりも断然広いだろう。


 こういう店には、大体入り口にマップがあるパターンが多い。見たら目星が付くだろうと思い、ゲートの方を振り返る。しかし、無かった。

 もっと言えば、マップだけではなく扉まで消えていた。レジに行くまで、ここから出させてくれないようだ。商品に関しては、手当たり次第に探すしかない。


 俺はカートを押して、リストに書かれているモノを探し出す。


 この店の構造は、レールが中央を貫いている。レジまで続いていると、茶寓さんが言っていた。進みながら、左右を交互に見てみる。どうやら、商品がテーマごとに棚に並んでいるようだ。

 棚の側面に写真が貼ってあるので、それで判別するしかない。レールと商品棚の距離が結構あるのが、難点だろう。目的の品を見つけたら、一度カートを置いて取りに行かないといけない。


 そもそも、どうして「万引きするな」とか、「金を払ってないのに食うな」とかではなく、「カートをレールから踏み外していけない」という、変なルールだけが設けられているのだろうか。


 疑問に思いながら進んでいくと、時計の写真が貼ってある棚があった。カートを置いて、近づいてみる。実物らしきモノは一切無く、代わりに瓶のようなモノが陳列されている。どうやら、これが商品そのものらしい。


 手に取って中身を見てみるが、どれも空である。その代わりに、商品の写真とラベルが貼ってあり、そこに詳細が書かれている。

 つまり瓶に貼られている内容で、購入するか否か判断するようだ。ゲームカセットはレジに持っていったら、本物と取り換えるみたいな方式をしている。

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