0-12 魔法を見てみよう

 緊急全体集会が開かれた原因である、精神災害警報。これは、地球には存在しない。この世界の人たちは理解しているが、俺だけがまったく分からない。

 どれほど深刻な事態に陥るのかを理解するため、まずは魔法について教えてもらう。この警報に深い関わりがあるのは、明白だった。


 茶寓さんは指を振り、空中に文字を書き始めた。『翻訳魔法』のおかげで、難なく理解できる。


 魔法というのは、ユーサネイコー上の全ての生物が使える、『不思議な力』の総称である。血液と共に巡回している、魔力を出して扱う。


 その中でも細かく分けられており、全部で四種類あるようだ。

 てっきり『誰でもできるモノ』かと思っていたので、少し驚いた。難しい魔法を使おうとすると、その分魔力が一気に消費してしまう。


「誰もが自由に大技を使えていたら、今頃ユーサネイコーは消滅していますよ」と、茶寓さんが冗談交じりで笑った。


 四種類は、以下のようにして呼ばれている。パーセントは、できる確率である。

 大前提として、この世界の生物には魔力が流れている。それを100%と考えるのが、基本思想らしい。



 『共通魔法』


 誰でも出来る可能性がある魔法。もっと細かくしたら『基礎魔法』(95%)と『応用魔法』(75%)に分けられる。


 『特有魔法』(70%)


 別名『ソウル』。これは人それぞれ。同じソウルであるなら、同じ魔法を出せる。


 『唯一魔法』(0.0001%)


 世界で、たった一人にしか使えない魔法。ソウルが顕現しているのが条件。



 覚えきれるか不安になったが、「ここにいれば、嫌でも覚えますよ」と茶寓さんに励まされた。これは、復習必須になるだろう。頑張って頭に残さなければいけない。

 数字から考えるに、5%は「魔力があるだけで、魔法が使える訳じゃない」という意味だ。ここに分類される生物は、何も考えずに出す『魔力砲』だけが撃てる。


 確かに魔法が不得意でも、最低限の生活はできそうだ。それなりに不便かもしれないが。


 国際世界組織の方々は、大半が『応用魔法』まで習得済みらしい。顕現する確率が75%というのは、結構高いだろう。言い換えると3/4なので、賭けに出ても良い数字だ。

 百聞は一見に如かずということで、実際に魔法を見せてもらうことにした。まずは、『基礎魔法』からである。


 茶寓さんは右腕をまくり、俺に肌を見るように促す。全然日焼けをしていない。普段から、長袖を着ているのだろう。

 しばらく見ていると、彼の筋肉がみるみるたくましくなった。ボディビルダーよりも、早く成長しているだろう。思わず感嘆の声を上げると、彼はにっこり微笑んだ。


 これは『基礎魔法』の一つである、『肉体強化魔法』だそうだ。主に、自衛する時に使っている。

 強化したい身体の部分に、力を入れる。魔力が集中的に流れていくので、硬くなるらしい。


 気が抜けたら、魔力の巡回も通常運転になる。茶寓さんの右腕の筋肉は、元通りに戻ってしまった。

 つまりやろうと思えば、全身バキバキのマッチョになれる。だがそこまでしなくても、攻撃を回避すれば良い話である。


「そしてもう一つ。この職業で必須となっている『防衛魔法』も、お見せします」と言った茶寓さんは、両腕を広げた。


 しかし、どこにも変化が無い。首を傾げていると、彼も俺が困惑していることに気がついた。


「おや、見えてないんですね。あ、でもという点から、納得はしてしまいます。千道くん、このペンを私の顔面に向けて投げてください」


 茶寓さんが一本のペンを出し、俺の前に差し出す。総団長という偉大な人に、思いっ切り投げても良いのだろうか。

 無礼な気がして躊躇していると、彼は胸を張って「私を信じて」と宣言した。


 言われた通り、腕を振り上げて投げた。野球部までとはいかないが、スピードは出ている。クルクルと回りながら、茶寓さんの方へ向かって行く。

 ぶつかる直前に、彼の目の前でペンに電気のような光が出た。そのまま勢いを失くして、床へ落ちた。どこも怪我を負っていない。


 これが『防衛魔法』というらしい。茶寓さんの周りにを張り、ペンをさえぎったのだ。


 補足説明がてら、茶寓さんは空中に人間を描いた。その人を覆うようにして、円を付け足す。この魔法を使う時は、見えない球に覆われているらしい。

 タイミング良く防衛したら、攻撃をそのまま跳ね返せるようだ。確かにこの職業は、怪物とか犯罪者を相手にするので、必須になるだろう。


『基礎魔法』の説明が終わったので、次は『応用魔法』だ。

 こっちの方が複雑で難しいし、魔力の消耗も激しい。


 茶寓さんは突然、俺の視界からいなくなってしまった。周りを見渡しても、気配を感じない。

『部屋にはいなさそうだ。外に行ったのかな』と思い、ドアノブが壊れている扉に手をかけた。


 開けた瞬間、タコ目が至近距離に。思わず叫びながら三歩ほど後退あとずさる。彼は、俺の反応を気に入ってくれたのか、ニコニコしている。


 今のが『瞬間移動魔法』という。乗り物に頼らなくても移動できる、素晴らしく便利な魔法だ。

 ただ、距離が遠いほど魔力を消耗してしまうので、せいぜい近場でしか使わないらしい。


 骨の彼はこの魔法を使って、俺を博物館の屋上やここまで連れて来た。もしかすると、結構な魔力を使わせてしまったかもしれない。

 驚かせて満足したのか、「座りましょうか」と茶寓さんは言った。まだ心臓がうるさい俺の背中を押し、ソファーに戻った。


 ちなみに、『通訳魔法』と『翻訳魔法』も『応用魔法』の一つである。この二つは、たいへん人気のある魔法だと言われた。確かに現在進行形で、もの凄く助かっている。

 とはいえ、効き目は無限ではない。茶寓さんは、指を鳴らした。段ボール箱が空中から出てきて、ドンッと机の上に置かれた。中には黄色い液体が入っている、小さい瓶が陳列されていた。


「これは『言語訳薬』です。飲めば『通訳魔法』と『翻訳魔法』と、同様の効果が得られます。その、味はヤバいですが。き、効き目は確かです!」と、流暢に説明していたが、一瞬だけモゴモゴとした。


 彼に苦笑しながら、お礼を言った。効果は丸一日なので、起きた時に飲めば良さそうだ。


 これで、『共通魔法』の説明が終了した。この二つだけでも、大抵のことはできそうだ。説明してない魔法が圧倒的に多いが、それは出てきた時に話そう。


 残りの二つは、理解しがたい部分が増える。


『特有魔法』の別名である、ソウル――大抵の人はこう呼んでる――は、その人自身の心であり、心臓と言われているようだ。


 顕現する年齢は完全なる個人差であるが、先に記述した数字は、十六歳になるまで現れる確率である。


 世界のどこかには、同じソウルを持っている人だっている。身近で言えば、家族だろう。もちろん、両親と違うソウルというケースも、多くあるようだ。

 同じソウルであれば、同じ魔法を出せる。違うソウルだったら、出せる魔法も違う。一つのソウルにつき、十二種類の魔法があるらしい。


 茶寓さんのも気になったが、今は見せる気が無いようだ。披露する時に、また話そう。


 一番難解な魔法だと言われるのが、『唯一魔法』である。


 茶寓さんは二人の棒人間を描き、顔の部分にそれぞれA、Bと付け足した。二人のソウルは、同じ『ほのお』だとする。Aは攻撃が得意で、Bは回復が得意。

 同じソウルでも、少しずつが生じる。必ず完璧に同じ魔法が打てる、と言う訳ではないらしい。あくまで理論上のというだけである。


 現在、ユーサネイコーの人口は約四十億人。これからも増え続けようが、は、必ずある。


 この魔法を使用する時は、必ず頭の中で浮かんだ言葉を暗唱するらしい。


 一撃必殺な技でもあれば、中々扱いにくいかもしれない。ややこしい条件が必要だったり、お手軽に発動するかもしれない。


 現在、『唯一魔法』を発動させられるのは、たったの四十万人しかいない。とても珍しい魔法だ。

 つまり『特有魔法』は顕現したけれど、『唯一魔法』は使えずに死去したというケースが、圧倒的に多い。

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