0-11 緊急記者会見②
顎が外れそうになった俺に構わず、茶寓さんはビデオを強制停止させる。そのまま怒り狂い始めて「クケェェェッッ!!」と、力の限り叫び出し、ソファーをバシバシ叩き始めた。
埃の雨が降り注ぐが、止まる気配は無い。鬱憤を解き放つ姿は、今までからでは想像もできなかった。
『ブレイズバースト』というのは、国際世界政府における命令の一つである。
その名の通り、ブレイズバーストという魔道具を使って、対象となった国に無差別攻撃を行う。通常は最終手段なので、何十年も前に施行された以来らしい。
この魔道具は、気の遠くなるほどの魔力が凝縮されている爆弾だ。遠い昔には、テロ組織がこれを利用し、破壊活動を起こしていた。
そのこともあり、正式に禁止魔道具となった。作り方が載っている全ての文献を抹消したりと、徹底的に処分し続けた。
だが万が一に備えて、政府は所持している。その理由としては、『国際世界組織の中で一番偉いから』だそう。
正直に言うと、あまり説得力が無い。別の理由を含んでいるに違いないが、簡単に教える訳がないだろう。
「一般人も巻き込むんですか?」
「避難の猶予は与えられますが、逃げ遅れたら巻き込まれます。あぁ、顔を思い出すだけで腹立たしい! 元から協調性がないけれど、こんなことまでするなんて!」と言った茶寓さんは拳を作り、机をドンッと叩いた。
まだまだ、彼の苛立ちは収まりそうにない。しばらくしたら、仮面の位置を調節し始めた。ひと暴れしたので、外れかかってしまったようだ。
土地を滅ぼせる、壮大な破壊力。それだけではなく、政府たちは感情を捨てたロボットの如く、無慈悲になる。
完璧に消滅させるまで、攻撃を止めない。最悪の場合、命令に違反した人はその場で殺される。味方にも容赦なく、冷徹の拳が来る。
砂石一つも残させず、とにかく消滅させる。それが目的である。国一つを消滅させるとは、なんて恐ろしい。
その国にしかない景色を削除するという、簡単には決められない決断をする。
深呼吸をして落ち着いた茶寓さんは、再びビデオを再開させた。ブレイズバーストについて、補足説明をしている場面からである。
「ヤジカ国の民は、できる限り避難させたとのことです。現在は周辺の国にある仮設住宅へ、移住させています」
「どうして、ブレイブバーストを使用したのですか?」と、どこからか知らない声がした。
記者会見ではよくある光景だ。誰かが、総団長に質問をしたんだろう。団員かマスコミか、一般人かは分からない。
彼は「国際世界政府からの文章を、そのまま読み上げます」と言い、ポケットから一枚の紙を取り出した。
「ヤジカ国の全域に、シニミが大量発生。戦うよりも、現地の方々を避難させるのが最優先であると考えた。避難が完了した時には、すでにほとんどの建物が破壊されていた。苦渋の決断により、ブレイブバーストを発令させた」
淡々と読み上げ終わり、紙をしまった。「ヤジカ国の方々への補償も、順次していくとのことです」と、補足説明もした。
質問者は「ありがとうございました」と、お礼を言う。『この方は礼儀が良いな』と、少し場違いな考えを持ってしまった。
「今回の事例が、他国でも勃発する可能性がある。それを踏まえて、精神災害警報を発令しました」と説明した瞬間、総団長は再びフラッシュの嵐に遭遇した。
頭の整理をするために、ここでビデオを停止してもらった。
この話から推測するに、警報を出そうと提案したのも総省長だろう。良かれと思ったに違いないが、世界は不安と恐怖に包まれた。
少々、早すぎる警報だったようだ。念には念を入れよとは言うが、かえって不安にさせてしまった。元も子もない状態だ。
「集会で話す代表を、私に押しつけたんですよ? 『君たちが一番信頼されているから』とかいう、意味分かんない皮肉を言われて!! 嫌われている自覚があるなら、とっとと信頼を回復する努力を、重ねて欲しいですね!」
さっきまでの柔らかい笑みは、どこにも見当たらない。というか、
「我々ソフィスタは、被害が拡大している国を重点に、救済活動を行います。助けを求めている方の所へすぐに駆け付け、調査します。少しでも異変があったら、早急に連絡してください」
「七大イベントは、どうするのですか?」
すかさず誰かが質問をした。ソフィスタが主催する、七つのビッグイベントの総称を指す。一年間を通して実行する。一般人はもちろん、他の国際世界組織の方々も参加しているようだ。
ここの信頼度が高くなる、一つの理由になるだろう。どのイベントも、結構な好評をいただいているらしい。
茶寓さんは、真っ直ぐ向き直る。それは質問者だけではなく、この記者会見を見ている全員へ伝える姿勢だった。
「現時点ではまだ、何も言えません。団長と会議を重ね、決まり次第報告します。緊急全体集会にお集まりいただき、時間を割いてくださり、ありがとうございました。国際世界組織は、この災害に立ち向かっていきます」
総団長は、頭を深々と下げた。拍手が、少しずつ大きくなっていった。どうやら、これで終了のようだ。
本物の彼は立ち上がり、指を振った。モニターがサラサラと消えていくのを、静かに見届けた。
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