第三章 世界事情
常識編
0-10 緊急記者会見
茶寓さんは、空中に向けて指を振った。砂時計の隣に、モニターが浮かび上がった。画面の中にも仮面を被っている男がいて、前にはたくさんのマイクが置かれている。
ついさっきまで、他国へ出向いていたらしい。ゼントム国は交通機関が全然ないので、記者会見する場所には不向きである。
「これが緊急全体集会の映像です。まずは、このビデオをご覧ください」と言った茶寓さんは、再生ボタンを押した。すぐにビデオが流れ始めた。
画面の中の総団長が、深くお辞儀をした。すでに、カメラフラッシュの雨を浴びている。ゆっくりと身体を起こし、マイクに向かって言葉を紡ぎ始めた。
「皆様。緊急全体集会へお集まりいただき、誠にありがとうございます。早速ですが、議題へ」
ここまで言った茶寓さんを遮るように、けたたましいサイレンが鳴り始めた。
色んな場所から反響しているので、DVC全体に鳴り響いていたのだろう。もっと言えば、この警報は世界中で流れていたらしい。
俺は寝ていたからか、まったく気がつかなかった。
「ユーサネイコー各地にて、精神災害警報を発令中。早期カウンセリング、
無機質な女性ロボットの声が、何度も同じ言葉を繰り返す。茶寓さんが右手を上げると、ピタリと止まった。
「混乱を招いてしまい、申し訳ございません。先ほど、国際世界長会議をしました。今、テレビでどのチャンネルを選択しても、この場所が放送されています。どうかしばらくの時間だけ、お付き合いください」
映像の言葉を聞いて、首を傾げた。そんな俺を見かねて、茶寓さんがビデオを停止した。聞きなれない言葉があった。
この世界には、国際世界組織という偉大な職業がある。
その中の一つである国際世界調査団に、俺は拾われている。茶寓さん曰く、国際世界組織は全部で五つあるようだ。
調査団の他には、研究所、警察署、医療機関、政府である。
ちなみに調査団は、八個の団から構成されており、それぞれ本拠地を持っている。莫大な金が飛び回っているが、五つの中では一番新しい。
だからなのか、ソフィスタと呼ぶ人が多いらしい。堅苦しくないからだろう。他の組織の構造は、別の機会に教えてもらおう。
各組織の頂点に君臨する五人で話し合い、今後の方針を決めることを国際世界長会議と呼ぶ。部屋の掃除が終わった直後に、呼び出しを食らったらしい。
僅か二時間で結論を出し、放送の準備をした。悠長に過ごす暇もないことが、起こり始めている。
「依頼をこなすのが仕事です。メインはシニミ討伐ですが、他の依頼も来ます。『犯罪者をブッ飛ばしに行ってくれ』とか」
「人間も相手にするんですね」
「えぇ。不届き者は成敗します」と、拳を作った茶寓さんが言った。
こう聞くと、やはりここは『探偵』ではなく、『武装警察』のほうが似合う気がする。
事件を解決させるために、原因を突き止める。苦労の末、敵を見つける。大抵の場合、話し合いでは決着がつかない。そうなったら、魔法で戦って捕まえる。
俺からしたら、想像もできない。ここでは、魔法の犯罪もある。取り締まるだけで、数多の犠牲を払う。ソフィスタの団員たちは、毎日戦闘に明け暮れている。
「最近はシニミが急増したせいなのか、難解な依頼も増えています。それこそ、天才探偵でも解けないような、不可解な現象が。中々解決が出来ないので、信頼にも関わってきますね」と、今度は肩を落として説明してくれた。その事件は、どれほど
ポルターガイストや金縛りの如く、理屈では説明することが不可能である。加えて魔法を悪用したら、それこそ何でもできてしまう。
「しかしそれは、私たちだけでやっていたらの話。ちゃんと連携しているのです。まぁ、それでも解けていない事件は、ありますが……」と、正直に話した茶寓さんと一緒に、ガックリ項垂れた。
やはり、そんな簡単な話ではない。あっという間に解決できたら、どれほど楽な世界だっただろうか。
落ち込んでいると、先に顔を上げた彼に「そんなに気を落とさないで」と言われ、髪の毛を優しく撫でられた。今の俺は、余程顔色が悪くなっていたらしい。
さっきから奥歯をガチガチと鳴らしているのは、これから訪れる恐怖に対してなのだと、心の中で自覚していた。
ビデオにも関わって来るということで、他の国際世界組織の説明もしてくれた。ソフィスタは、研究所とはとても親しいらしい。
警察署と医療機関は、会う機会が少ないと言われた。そして政府に関しては、調査団だけではなく他の三つからも距離がある。
「安心して下さい、千道くん。良い政治をする国が多々あることは、もちろんご存知です」と言った茶寓さんは、仮面から見える横目を吊り上げた。どう見ても、表情と台詞が一致していない。
困惑の波に押し潰されそうなまま、再生したビデオの続きを見た。画面の中にいる茶寓さんは前を向き、堂々と説明を始める。
パシャパシャと、シャッター音が多方面から聞こえる。この国にいる全てのマスコミが、さっきまで集結していたのだろう。
「各地でシニミの出現率が高まっているのは、皆様もご存知でしょう。迷惑だと思っている方も、被害に遭っている方もいる。国際世界調査団はシニミを討伐し、皆さんの生活を一秒でも長くしようと、努力しています」
ここまで、冷静に話を続けた。だが、次の言葉で初めて口ごもる。なんだか、後ろめたさがある様子だ。
茶寓さんは一度、深呼吸をした。そしてゆっくりと、話を進めていく。
「しかし先ほど、国際世界政府がブレイズバーストを発令し、ヤジカ国を消滅させました」
重々しい口調で話す彼を見て、俺の背筋が凍りついた。
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