0-13 シニミ
次に教えてもらうのは、シニミという怪物だ。精神災害警報が出るのは、今回で二回目らしい。原因は、どちらもあの化け物である。
奴らも形態や生息地、強さは様々。五人の総長が決めて公に発表した、シニミの階級制度がある。
茶寓さんは指を振って、表を出現させた。十段階に分けられており、以下の通りである。
『10』 0%
全ての元凶・ナイトメア。封印されたが、シニミが出現する。世界のどこかに潜んでおり、復活する可能性がある。
『9』 0%
遙か昔に存在したと言われている。『8』と同様、現在はどこにもいない。
『8』 0%
古代の文献にも載っている。世界のどこかに存在していたらしい。
『7』 0.2%
ブレイズバースト一つ分の魔力を持つ。出現したら、国一つが災害に包まれる可能性がある。
『6』 0.8%
数十年に一度しか出ない。ほとんどの場合、致命傷を負う。大型から超大型までいる。周りに影響が出るほどの魔力を持つ。
『5』 1.5%
遭遇したら悪運持ちと言える。ほとんどが大型タイプ。一般人なら高確率で死亡する。国際世界組織の人でも、大怪我を負う。
『4』 2.5%
滅多に遭遇しない。中型から大型。一般人は、大怪我か致命傷を負う。熟練者でも、一人では太刀打ちできない。
『3』 5%
普通は遭遇しない。中型がほとんどで、破壊力も増した。誰でも怪我をする可能性がある。一般人なら逃げるのが吉。
『2』 25%
まぁまぁな雑魚も含まれる。小型から中型までいる。経験者なら、素手で対応できる。一般人だったら、道具か魔法を使う。
『1』 65%
とても小型で、攻撃もとても弱い。魔法いらずで対応できる。無意識に殺しているだろう。
俺を追いかけまわしていた奴は、状況から察するに『3』らしい。逃げるのが正解だった。もしも『1』とか『2』とかだったら、周りの人が立ち向かっていただろう。
下の方はただ突っ込んで来るだけなので、対応しやすい。だが『3』辺りから魔法を使ってきたりと、小賢しくなって来る。階級が上であるほど、知能もある。
「コイツらの厄介な部分は、魔力の圧を使う点ですね。魔力量は大抵、生まれつきで決まります。一般ならば『4』、多い人でも『5』の圧に、押しつぶされてしまう。身体の自由が効かなくなったり、体調を一気に崩してしまったり。最悪の場合だって、ありえます」
この話を聞いて、子供の頃に巨漢に凄まれた時を思い出した。その時の俺は、恐怖で泣き出したり、走って逃げたりしなかった。
立ち
シニミは生物にとって、巨漢になり得る存在である。この理論だと、魔力が無い俺は『1』に対しても、何かしら影響があるはずだった。
実際は何も変化が起きなかったのは、ゼロの前では無意味だからか。
ヤジカ国が滅んでしまった原因も、精神災害警報を出すことになったのも。全部シニミのせい。その頂点に君臨する存在こそ、一番の悪である。
「『10』に書かれている、ナイトメア。奴こそが、シニミの起源とされる存在!」
茶寓さんは、まるで地の底から這い上がって来るような怨念で、金切り声を上げた。
あんなに穏やかな人が、こうも凄んでいる。それが自分に向けられたモノではないと分かっていても、勝手に身体が怯えてしまった。
この悪の権化が、シニミの始祖である。奴を倒したら、この世界に蔓延っているシニミは、完全消滅する。
何故そう言い切れるのかと聞いたら、茶寓さんは穏やかさを取り戻した声色で、説明してくれた。
「シニミは自身が強いほど、自分で部下を作れるのです。それを群れにして行動する特徴があります。一番強い奴を倒せば、取り巻きも一緒に消滅する。これは、ナイトメアにも通ずるでしょう」
「けれど、今は封印されているんですよね?」
「えぇ。十二年前の今頃……うん? 一度も遭遇してないのに、変なことを言いましたね」と、茶寓さんは首を傾げた。
この世の凶悪に立ち向かった、勇敢な経験でもあるのだろうか。彼自身も疑問符を浮かべているので、有耶無耶になって終わった。
ヤジカ国にて大量発生した原因は、残念ながら不明である。ここ最近、表の数値が当てにならない。
特に近年では、『3』と『4』が急増しているようだ。よくよく考えれば、そんな都合よく遭える確率ではない。
ユーサネイコーには、精神災害という病気がある。この世界の中で、一番恐ろしい症状だと習うようだ。文字通り精神に影響するので、心身だけでなく魔法にも反映されてしまう。
加えて現在は、シニミが大量発生しているので、ショック死する人が増えている。精神災害の患者を増やさないために、あの恐ろしい警報を発令した。
ヤジカ国で発見されたシニミでは、ランク『4』が千体はいたとの報告があった。一般人だったら大怪我するほどの強さを持っており、倒し切れる訳が無い。
現実離れした数字を前にすると、建物は崩れ落ち豊かな大地は枯れ果て、血の海に染まって行く景色が、嫌でも想像出来てしまう。
ランク『3』が約五千で、『2』と『1』は合わせて約三万だった。いくら国際世界組織の人間が派遣されても、対応しきれない。
そう判断した国際世界政府は、苦渋の決断をした。ブレイズバーストで、すべてを削除したのだ。
シニミだけではなく、国そのものを。逃げ遅れた人々は、最期に何か出来たのだろうか。いや、何もできずにこの世を去って逝ったのだろう。それがとても虚しい。
ここまで考えて、一つの疑問に辿り着いた。どうやらこの国には、ランク『5』のシニミが一体もいなかったらしい。今の説明から考察すると、不可解な現象だ。
「千道くん。精神災害の真の恐怖を、聞きますか?」 と、とても小さな声で茶寓さんが言った。少しだけ、青ざめている気がする。
この瞬間、俺は理解した。覗き込むようにして言われるのは、「聞いたら後悔する。断るなら今だ」という、忠告も含まれている言い方だと。
もしも頷いたら、これから引き返せなくなる。そして首を横に振ったら、彼は一生教えないつもりだ。
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