0-5 放浪旅のはじまり

 骨の彼は、たまたまこの道を通りかかった。何やら騒ぎを聞きつけたので、行ってみることにしたらしい。

 見ると、シニミが俺たちを追いかけ回していた。発見してしまった以上、放置するのは止めた。自主的に助けに来たのだ。

 怪物を倒したら、本来の目的地に戻ろうとした。だが、そこで俺が気絶したから、面倒を見ることにしたと話す。


「ごめん」と、俺は謝る。「俺のせいで、予定を狂わせちゃったよな?」

「まぁね。でも、別に良いよ。アンタ、面白いことを言うから。に言えば、許してくれるでしょ」


 彼は肩を回して、腕を高く突き上げる。日ごろから、柔軟をしているようだ。通りで体が柔らかい。俺も立ち上がって、腕を左右に振る。身体の重さが、ここに来たことへの圧迫にも通ずる。


「君の職業名は?」と、幾分か軽くなった気持ちで聞いてみる。「なんて言うんだ?」

「ソフィスタ。国際世界調査団の方が、一般人ウケするって言われてる。ま、俺はどっちでも良いんだけどォ」


 聞いたことが無かったが、とても力強く優しい気配がした。仕事内容は至ってシンプルである、人助け。困っている人に、手を差し伸べるのだ。さっきみたいに、突拍子にもないことにも対応する。

 調査団と言われると、探偵なのかと推測した。しかし怪物を倒したりするので、武装警察のような部分もあるようだ。


 骨の彼の本当の目的地は、職場の本部だったらしい。先程から唯一と言っても良いくらいに目立っている、豪華な建物だそうだ。この地味な国に、似つかわしくない。目立ち過ぎて、逆に浮ているほどだ。


「行き場所が無いなら、来てみる?」と、美少年が言った。「一般人も普通に入れるし、相談くらいはしなよ」

「聞けば聞くほど、親切だ。そんな職業があるなんて、この惑星は平和なんじゃないか?」


 仕事に見合った評判を、しっかりと頂いているようだ。しかし俺は、骨の彼が一瞬だけ見せた素振りを、敏感にも見逃さなかった。

 首を傾げて、言葉を待った。彼はちらりと俺を見てから、周りに広がる狭くも美しい景色に目を向ける。


「あんまり平和じゃないかもねェ」と骨の彼は、正直に吐露をし始める。「手が届かない場所も多いし、シニミは増えているし。むしろ、アンタの国のほうが羨ましいよ。シニミがいない惑星なんて、良い所じゃん。移住したいくらいだよ」


 お互い、ないものねだりになっている。羨望されても、さっきの言葉を取り消すつもりはない。もうあの惑星には帰らず、ここで生き延びると決心している。


「ほら、行こうよイモ君」と、急に変な渾名で呼ばれた。思わず戸惑いの声を出しながら、俺自身を指差す。骨の彼は笑いながら、「アンタ以外に誰がいるの」と言い、左手を差し出す。


「誰にも真似することなんて、絶対にできない夢を持ってるんだからさ。この国から、歩いてみてよ」


 このまま何もしなければ、俺はまた泣き虫に戻ってしまうだろう。いや、もっと言うとすれば、野垂れ死にしているに違いない。

 しかし、何か一つでも行動を起こしたら。その未来を変えることが、できるかもしれない。

 俺は力強く、美少年と握手した。もう涙は止まって、清らかだ。歯を剝き出しにするほどの笑顔を見せると、彼も微笑み返した。


すえなり ゆきだ」


 この不思議な出会いが、ユーサネイコーを放浪する始まりとなったのだ。


 つまりこれは、俺が数々の国を放浪し、理想郷を見つけるまでの旅という、とんでもない物語なのである。


 これから俺が味わう悲惨な運命の数は、星よりも多いだろう。影よりも陰湿で、闇よりもおぞましい。暗い道を歩くには、永遠に照らし続ける光の一点によってのみ、救われる。


 俺にとって最初の光となるのは、紛れもなく居場所であった。ソフィスタの本部へ行き、そこで見つけ出そうとしている。

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