第23話 任せろ。
「何やってんの、飯田。怪我してるのに竹刀持って。あんた言ってなかった?『これでしばらく部活サボれるって』意外に熱血なの?(笑)」
剣道場を出てすぐ飯田は声を掛けられた。捻挫した足首は厚めに巻かれた包帯のせいで、靴のかかとを踏まないと履けない。そこに現れたのが戸ヶ崎芹葉だった。
「戸ヶ崎! 大変だ、白石が‼ 先生呼んで来てくれ!」
「白石がどうした? ケガしたの?」
「違う‼ あいつ‼ 山家先輩が危ない‼」
「えっ……なんで、ユウちゃんが危ないの……」
「さっき地窓から先輩の姿見掛けて、そしたらあいつ木刀持って飛び出して……」
「木刀……うそっ……」
芹葉の顔は一瞬で真っ青になった。元々木刀が型の稽古のために使う。実際に打ち合い稽古には使わない。もしそんなことをしたら、命に係わるケガを負う。
(わ、私のせいだ……今朝、白石に付き合ってるなんて言ったから、それで――)
「竹刀貸して、私が行く」
「ダメだ、知ってるだろ! あいつキレたら何するか、お前にだって容赦ないぞ」
「知ってる。だから貸して、あんた踏切足痛めてるじゃない。行って何できるの? 私なら一突きで沈めてみせる」
「ダメだ! 竹刀で首でも突いたら殺しかねない……オレは足がこれだ、だから職員室まで走れん! 頼む! お前にそんなことさせたら、オレ山家先輩に叱られるだろ!」
「うっ……わかった、ユウちゃんお願い。無理しないで、私もユウちゃんに叱られたくない、いい?」
「わかった。職員室行くまでに出来るだけ人集めろ、そしたらあのバカ思い留まるかも!」
「うん、ユウちゃん頼んだ。すぐ戻るから‼」
芹葉は一直線に職員室を目指した。
(ユウちゃん、無事でいて……)
□□□
芹葉は廊下を駆け抜けながら、校門の外が大変なことになっていると、すれ違う生徒に叫んだ。途中女性体育教師に出会い、助けを求めた。
芹葉は立ち止まらないで一気に職員室に駆け込み叫んだ。
「助けてください‼ 校門の外で白石が‼ 木刀で‼」
「白石が木刀……戸ヶ崎、説明しろ!」
職員室は静まり返る。違う、今じゃないだろ?
「説明……バカなの? 生徒が木刀持って暴れてんだよ! ユウちゃんが危ないの! 何にも出来ないんなら警察呼べよ‼ それでも教師か、クソ‼」
バカだった。戦える技術があって、ユウちゃんの近くにいたはずなのに、教師という他人を頼ってしまった。
冷静にならないと……これ以上後手に回ったら、ユウちゃんは救えない。
ここまで全速力で走った。大声で助けを求めた。だから校門周辺は生徒で溢れてるだろう……
走って戻っても人が邪魔ですぐには辿り着けない。考えろ……さっき廊下ですれ違った中年の女性体育教師だけじゃ、どうしようもないだろう……
今朝、ユウちゃんの家に行くからスマホ持ってきたんだ。ポケットに……だから走る時邪魔だったんだ。
「あっ……」
いる! 私にはいる‼ 私のコールなら絶対2度で出てくれる人が近くにいる‼
『もしもし……芹葉。どうした、お前学校だろ――』
「お兄ちゃん‼ お願い助けて‼ ユウちゃんが! ユウちゃんが殺される‼」
『夕市が殺され……わかった。夕市いま外出てる、場所ならわかる。任せろ』
「うん! うん! お願い! もう、私、お兄ちゃんだけが頼りなの‼」
『だから任せろ。妹も未来の義理の弟もまとめて俺が助けてやんよ、安心しろ、切るぞ』
恭司は瓶底伊達眼鏡を放り投げ駆けだした。階段で保健室に行っていた星奈と藍華と出会った。
「ふたり共、夕市がヤバい。殺されそうだ」
「「誰?」」
「俺、戸ヶ崎恭司」
「戸ヶ崎⁉ なに、このイケメンの無駄遣い……どういうこと、ウチの人が殺されるって」
「戸ヶ崎くん、ウソじゃないよね? マイダーリンが殺されそうだなんて、ハニーとしては、そんな害虫先に殺しちゃおうよ、ふふっ」
「「ふふふふっ!」」
「オッケー。でも、ふたり共落ち着いて。消火器なんかどうすんの?」
「どうって、ねぇ瀬戸さん?」
「武器に決まってるじゃない、ねぇ降旗さん」
女子ふたりはそれぞれ消火器を抱え、恭司の後に続いた。
□□□
岬沢学園校門近く。
夕市は藍華の財布を探しに校外に出た。すると10数メートル先にいきなり財布を見つける。
「人ってこんなベタな財布の落とし方するんだ……」
道端に落としましたよと言わんばかりに、長財布が落ちていた。しかもやたらキラキラしていて、光物好きなカラスがよく持ち帰らなかったなぁ、と感心するほどキラキラだ。
しかも、よく見たら手作りみたいでビーズなのか、何なのかわからない無数のキラキラでデコられていた。
一応中を確認すると、写真付きの生徒証が挟まれてあったので藍華のもので間違いなさそうだ。
(よかった……これで一安心だ。でも、瀬戸さん器用だなぁ……こんなの作れるんだぁ。デコレーションの部分だけだろうけど、すごいなぁ……見つかってよかった)
夕市は藍華を安心させようと、小走りで学園に戻ろうとするが呼び止められた。
「そういうの、遺失物横領って言うらしいですよ、山家先輩」
振り向いた先には木刀片手の白石が、にやけヅラで立っていた。
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