第11話 不本意ながら。
「山家くん、怒んないから教えて。それじゃあ、私への恋文は戸ヶ崎が書いたの?」
「あぁ……うん。ごめん、うん、そうなんだ、ごめん降旗さん黙ってて」
「いいのよ、私、その恋文読んでないから。ところで聞いた? 瀬戸さん?」
「聞いたわよ、だからなに?」
藍華は心なしか青い顔をしていた。
「――っということは、瀬戸さんは戸ヶ崎が書いた恋文に心奪われたわけだ。つまり、私宛の恋文を戸ヶ崎が代筆して、瀬戸さんのハートを射抜いた。違う?」
「ち、違う、違う、違う、違う! 山家君、違うってその性悪女に言って!」
「事実だし」
「山家君! 今なら間に合うよ! こういうタイプは、浮気の証拠握ったらジワジワ外堀から埋めてくるから!」
「なに当たり前のこといってるかな。そもそも浮気しなければ、そんな心配しないでいいでしょ? バカなの? 浮気なんてしないわよね、山家くん?」
「降旗、怖いわ~~センセイ相当年上だけどお前怖いって。俺、女子高生好きだけど怖いわ」
「先生、その発言の方がよっぽど怖いです、なんです? 教職を失う気満々ですか?」
「山家聞いた? 今のは教師に対する脅迫だよな?」
柿崎は夕市の後ろに隠れブルブル震えた。
「あぁ……ははっ……そうか、そうなんだ。私、間接的に戸ヶ崎君に口説かれてたんだ……ははっ、そうなんだ。笑いたければ笑えばいいわ、くすん」
「山家。俺の経験上『くすん』とか泣きまねするJKはやめとけ、高確率で上級職のメンヘラちゃんに進化するぞ? 若いんだ、お前のまわりを見渡してみろ、至る所にJKが溢れてるじゃないか、このふたりはセンセイお勧めしないな! いいか、この忠告は俺の教師生活、始まって以来、最も尊い忠告だと自賛する!」
この教師、必死になればなるほど浅いのは気のせいだろうか?
「降旗さん、その……そんなに瀬戸さんイジめたらダメだよ、僕が悪いんだし。瀬戸さんもそんなに落ち込まないで、その、やっぱり僕なんかが告白なんてしなけりゃ、こんなこと……巻き込んで本当にごめん」
柿崎はふたりの女子に「ほら~~」と目配せをした。自己肯定感低め男子を追い込むとこうなる。殻に閉じこもる前に何とかしろと言わんばかりに溜息をついた。
(いや、柿崎。お前教師な?)
(降旗、教師に幻想抱くのやめろ)
(そうよ、降旗さん。所詮柿崎レベルで解決できることなんて、たかが知れてるわ)
(そうね、ごめん。私どうかしてたわ)
「あのね、私、少し……ほんの少しよ? 意地悪だったかも、その瀬戸さんに」
「わ、私も、ムキになっててごめん。なんか困らせちゃって」
(おい、お前らまさかこの程度しか手がないんじゃねぇだろうな? 俺は嫌だぞ、男子生徒を慰めるなんて、どうせ『悪い事ばっかじゃないさ』くらいしか言えん、女子なら酸欠になるくらい知恵を絞る覚悟はあるが!)
ダメだ、本格的にこの大人はダメだ。女子ふたりは頭ではなく魂で感じた。
「山家くん。どうしたい? ふたり共となかったことがいい?」
「私も、たぶん降旗さんも山家君困らせたいワケじゃないけど」
「そうね、困らせたいワケじゃないけどさ、ね?」
「うん、なんて言うか、ちょっといいとこ見てみたい、かな? だってそうじゃない? これだけの女子に一度に告られるなんて、山家君の人生で最後よ! ここで踏んばらないと逃がした魚はマーメードよ! なんちゃって」
「山家! 悪いことは言わん! こういうのを、まさに口車に乗るってことだ、いいか? お前の周りを見渡せ! 学園と言う名の大海原を! もっと普通のJKがごまんといる! JKウオッチャーのセンセイ史上、類を見ない事故物件予備軍のふたりから選んでお前は満足か⁉ 目を覚ませ、アウチ! 見ろ、教師の後頭部に空手チョップ食らわす女子なんて女子じゃねぇ! もう、母だから‼」
「先生、お口が過ぎますですわよ。空手チョップじゃないです、教師のシにふさわしく、赤本アタックです。センセ、赤本の角に埋もれて旅立ちなさい」
瀬戸藍華はキメ顔で言い放った。さすが元子役、様になっている。
柿崎はそのまま机に突っ伏した。柿崎に赤本アタックでトドメを刺した藍華は満足そうな笑みを浮かべた。
どうやら柿崎はお口が過ぎたらしい。自分の頭をさする余裕があるので、命には別条ないだろう。
(何か言わないと、僕が何か言わないと……)
夕市がまるで呪文のように心で繰り返した。繰り返せば繰り返すほど謝罪の言葉しか浮かばない。
いくら自分に自信が持てないからって、同情を引いて逃げていい場面じゃないのはわかっていた。
(でも、どうしたらいい? うまくなんて言えない、ふたりにわかって貰えるなんて……)
逃げたい、逃げたい、逃げたい、こんな場所から逃げてしまいたい、逃げて誰も知らないところに行って……でも、逃げたら寂しい、寂しいけど、逃げたい、逃げたいけど寂しいのは……好きじゃない。
得意じゃないけど……言葉にした。
「わかんないです、自分のせいなんですけど! こんな急に色々起きて、降旗さんとも、最近ようやく目を見て話せるようになったばかりだし、でも……もう少し仲良くなりたくて、夢見て、欲が出て、でもうまく行かなくて、瀬戸さんとは昨日まで話したこともなくて、ホントどうしたらいいかわかんないです!
「じゃあ、納得いくまで話そ。ねぇ、山家くん。不本意だけど3人で」
「ふ、不本意なのは私の方です‼ あっ、でも、その……ゆっくりでいいですから、色んな話をしましょう、不本意ながら3人で」
「いいの? そんなので、本当に……」
(あぁ、こうやって男ってヤツは流されて行くんだよ、あの頃の俺みたいに……)
頭を擦りながら遠い目をする柿崎であった。
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