第10話 男前。
「え~~そんな訳で、例の三人組放課後生徒指導室に来るように、以上」
帰りのホームルーム。いつものように、間延びした柿崎の声が教室に響く。立ち去ろうとする柿崎を委員長の男子石田が呼びとめた。
「先生、例の三人組じゃわかりません」
「えっ、石田。そこわかるでしょ?」
「いや、何となくはわかりますが……」
「こう見えてセンセイな、プライバシーっていうか、コンプライアンス? そういうの気にしてるのな、配慮だよ、大人の。あんだけの大騒ぎしたんだ、本人たちも身に染みてるだろ」
「でも、わからないかも知れないじゃないですか!」
「えぇ~~石田。おまえめんどくさいな、わかった見てろ。はい、例の三人組、手をあげろ~~はい、山家正解。戸ヶ崎お前関係ない、あとなんで女子ふたりスルーなの? どっちか言うと君らメインで山家は保護者だからな? 石田、悪いお前の言う通り、身に染みてないヤツいるんだなぁ……明日からお前担任するか?」
いつもながら、やる気がみじんも表面に現れない柿崎は、頭を掻いて先に教室を出た。夕市と星奈は隣同士。だから藍華が二人の元に足を運ぶ。そこには恭司もいた。
「あきらかにメインは戸ヶ崎君だよね」
「瀬戸さんと同じ意見なのは残念だけど、激しく同意」
「降旗さん、そのごめん。結局恭司を引っ張り込んだのは僕なんだ」
「山家くん。優しいのはわかるけど、そういう甘やかしが、周りをつけ上がらせるのよ、例を挙げるなら瀬戸さんみたいに」
「許可なく私を例にしないで。つけ上がってなんかないです」
「あら、ごめんなさい。調子こいてるって言うべきだったわ。私育ちがいいから、つい誤解を与えてしまうの」
「性格悪ッ! ちょっと、山家君! こんなのどこがよかったの? 一時の気の迷いよね? あっ、それとも何か弱みでも……」
「おい、お前ら生徒指導室に呼ばれた意味軽く見てるよな?」
先に出たはずの柿崎が戻って来て苦言を吐いた。
□□□
生徒指導室には折り畳みの長机がふたつ並べられていて、正面に担任の柿崎向かいに夕市、両隣に藍華と星奈が座った。
締め切った生徒指導室は埃っぽく、少しかび臭い匂いがした。
「すみません、僕がその変なことしてふたりを……だから……」
「山家くんが悪いんじゃないわ、それに変なことじゃないし……」
「山家君は悪くないわ」
「そだね、山家は悪くないよ? 君ら女子ふたりが取っ組み合いはじめかねないから、呼んだんだからな? そこは理解して反省して。しいて言えばモテることが腹立つ。あと、何でもかんでも『僕が悪い』は頂けんぞ?」
「すみません」
「女子、山家ってなんでもかんでも謝るの? 実は君たち彼を萎縮させてない?」
「萎縮なんて、そんな……僕が」
「ほらまた。まぁ、いいけどそういうの直さないと、パシリにさせられるぞ? まぁ、いいけど。一応話の流れを聞いとくか、顛末っていうか。後で上から聞かれて知りませんでは格好つかんからな」
柿崎はいつも通り、めんどくさそうにしながらメモ帳を開いた。机越しに見ても真新しい手帳からして、あまり仕事熱心ではないようだ。
「えっと、僕が悪い……じゃなくて。えっと……まず恋文を」
「恋文? ラブレターではなく?」
「はい、恭司が『恋文だろ、恋文』っていうから」
「あっ、あいつな? 文芸部だったか? 文芸部って高坂先生顧問なんだよ、俺相性最悪でさ……あっ、今のナシな? で、その恋文なんで書いた? いや、書いちゃダメとかじゃなくて、降旗とは隣同士だろ? 手紙とかめんどくさくない?」
「僕はその……直接言う度胸がないというか。それで恭司に見てもらいながら」
「えっ、自分の思いの丈を野郎に言うの? なにそれ、羞恥プレイじゃない?」
「先生、女子ふたりいますけど?」
「睨むな、怖ぇな……山家ホントに、こんなんでいいの?」
「先生、生徒相手に『こんなん』って言っていいの?」
残念だけど、貫禄では星奈の方が柿崎より数段上だ。ジト目の圧が半端ない。
「あっ、ちょっと口が滑ったかな? ほら、センセイも人だからさ。それで山家、戸ヶ崎に添削してもらって出したんだな?」
「あぁ……それが」
「ん? 違うの? どうこう注意する気はサラサラないけど、センセイわが身大事だから、そこんとこよろしく。それで?」
「いや、何度も書き直したんですけど最終――」
「最終?」
「何が言いたいかわからんって言われて」
「何それ。文才ないの?」
「ははっ……そうかもです」
「それは違うわ」
「あぁ……降旗、なに? 男同士の会話に入って来ないで。まぁ、一応興味ないけど聞こうか」
「文才がないじゃなくて、私への思いが溢れだして、このブシュ~~ッみたいな? だからなんて言うか……そう!『言葉に出来なくて夏』みたいなアレです! ヒット曲にありがちな愛のフレーズ!」
「ははっ、降旗。それ真顔で言うんだ。いいよな、10代メンタル強くて。山家、ちっとは見習わないとだぞ?」
「あっ、すみません……」
「ん? でも、最終がダメ出しなのか?」
「はい、ダメ出しエンドでした、すみません……」
「すみませんって、まぁいいけど。じゃあ、お前のラブレター、恋文か? どうしたんだ? AIにでも頼んだか?」
「そこは恭司が『最後まで面倒みてやる』って」
友人の男前の一面を披露した、つもりだったが……
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