第9話 里親募集中。

 □□□

 昼休みを迎える頃には岬沢学園はこの噂で持ちっきりとなっていた。


 この噂とは自己肯定感低め男子山家夕市を、学園のトップカーストのふたりが奪い合い一触即発まで発展しているという噂。いや、事実か。


 そんなワケでその決戦の舞台に、ここ岬沢学園の学生食堂が選ばれたワケだが。


「断固抗議します、なんで降旗さんが隣なの?」


「なんでと言われても、敢えて答えるなら彼女だから(笑)?」


「『(笑)』ってなんか腹立つ……彼女は私ですが?」


でしょ(笑) だって、恋文は私宛。普段から仲よくしてるし、私がオッケーしたんだから、カップル成立じゃない?」


「うぅ……」


 星奈はあくまでもド正論を繰り返す。確かに夕市が好意を持ったのは星奈だし、付き合いたいと思ったのも星奈だから、ふたりの間に付け入る隙はあまりない。


 あまりないというのは、あることはある。それは夕市の好みに合わせて藍華が長年伸ばした髪を切った事実。


 だけど、それを言うのはちょっと違う気が藍華はしていた。それは単に脅迫だし、弱みにつけ込む恋愛って藍華的には、どうよ? なのだ。


 なので、どうしても押され気味になってしまう。


 事態をひっくり返す何かが欲しかった。隠し玉がないわけではない。

 でも、いまやるのか、私。と自問自答中の藍華だったが、詰めが甘かった。

 自問自答している内に星奈に先を越されてしまった。


「それじゃあ、山家くん。とりあえず『』は?」

ミートボールをフォークに刺し、ニンマリと笑う。


「はぁ⁉ それ私が今しようと‼ 降旗さん、あなたって人は……人前よ‼ 思い切ったわね……恥じらいってないの?」


「恥じらい? 別に他の人にどう思われてもへーきへーき。だって私、山家くん以外と付き合う気ないし、そういうその他諸々の評価とかどうでもいいの」


(うっ……なにこの子、強い……)

 藍華は固唾を飲んだ。


「いや、降籏さん流石にそれは僕も困ります……恥ずかしいです」


「ん? 四の五の言わず、ぱくっと行っとこ。ほら初めての共同作業♡」

 肘をついて悪い顔で更にニンマリと笑う。


(ほぼ脅迫じゃない……黙ってたら、ほわっとした顔してるのに、なにこの子ドSなの? 山家君を尻に敷きに掛かってて、草ッ‼ いや、草はやしてる場合か、私⁉ でも、ドSなのに猫ちゃんの里親探しなんて……ヤバい、キャラ立って男子的にはアリじゃない? 何か起死回生の一撃とかないの、私⁉)


 星奈が強敵だと再認識するも、男子とのお付き合いが初めてな藍華は手をこまねくしかない。明らかな劣勢。しかし思いもよらない救世主、いや更なるカオスが現れた。


 恭司だ。

 4人掛けの席の余り、藍華の隣にうどん定食を手に現れた恭司は申し訳なさそうな顔して謝った。


「なんか、ごめんな。俺のせいでややこしくしちゃって」


「「ホント、それな!」」


 恭司に対し女子ふたりは容赦ない。そしてこの分野にだけ気が合うふたり。


「いや、うん。猛省してます。いや~~まさか先客間違えてるなんて思わないだろ、普通」


「ん? 戸ヶ崎。先客ってなに?」


「あっ、瀬戸さんのくつ箱に降旗さん宛ての恋文が入ってたんだ。いや~意外にモテるんだね降旗さんって」


「私宛の恋文? 山家くんとは別に? それから意外ってなに?」


「あれ、先客の件。知らないの?」


「知らない。だって――」


 間違えて投函した先は藍華のくつ箱。だから星奈は知らない。もう一人のおっちょこちょいを知るのは――


「あっ、忘れてた。降旗さん、これ」


 ぐちゃ……


 藍華はスカートのポケットから、二つ折りにされた封筒を取り出した。見た感じどうでもいい学校プリントの扱いと変わらない。


「言いたくないけど、瀬戸さん。一応恋文なんだよね? しかも私宛の。この扱いはどうなの? なに、手紙ポッケに入れたまま洗濯した?」


「アハハ……洗濯はしてないけど、ごめん。あっ、でも中読んでないよ?」


「それ人として最低限のマナーだから、ドヤ顔で言わないでね」


「あっ、それと!」


「なに?」


、ドンマイ!」


「あなた、差出人見たの? うわッ……プライバシーとかないの?」


「うん。芸能人プライバシーないから、ははっ」


「私芸能人じゃないんだけど。ドンマイって何……うわっ……」


(柿崎~~~~っ⁉)


(マジ⁉)


(マジ……どうしよ、山上くん……)


(が、学年主任とかに相談するとか⁉)


(柿崎、あいつマジでロリコンなのな……)


(戸ヶ崎、あんた私の顔見てロリコン言ったな? 私を好きになったらロリコンなのか? タレ目だとロリなのか!)


(いや、降旗さん。恭司は年齢差のこと言ったんだよ、タレ目関係ないよ! !)


(夕市! フォローすんならちゃんとして! たぶんはいらんだろ、!)


(そうよ、山家くん。あなたも私をロリ視点で……)


(そんなリアルな震え声で言わないで降旗さん!)


(降旗さん。ひとまず、内容見ない? 場合によっちゃあ、学年主任どころか警察案件よ! 通報待ったなし!)


 ごくり……4人は周囲を見渡しながら、担任柿崎からの手紙の封を開けた。


『仔猫飼いたいので写真とかあったら見たいです』


 どてっ……


 一同食堂のテーブルに額を打ち付ける勢いでずっこけた。どうやら、星奈が生徒会に無断で貼った『里親募集』のポスターが一番気になったのは柿崎だったようだ。


 □□□おまけ□□□


 岬沢学園職員室。


「へっ、くしゅん‼」

「どうしたんです、柿崎君。バカしかひかない夏風邪ですか?」

「ははっ、高坂先生。どうやら女子生徒の噂話みたいです」

(これだから同じ歳の女は……たくっ)柿崎談。

(やっぱ真性のロリコンじゃない……)同僚女教師高坂談。


 担任柿崎。ロリコン説が拭えない件。



 

















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