第4話 地球リストラ

 彼らが大きく誤っているのは、地球再生創造機構にとって、退場する人間が有能か無能など関係が無い。もっと言うと、機構にとって必要なのは、必要数削減することであり、数値目標に達成しさえすれば中身は問われないだろう。 

 すっかり冷めてしまったカフェラテを取ろうとすると、何故か手が震えていた。この状況に恐れているであろうか、いや、これから始まる変化に、気持ちが高揚している武者震いだ。社内ニートでありながら、数々のリストラ計画を生き抜いた俺であるが、これは、今までで最大の戦いになるだろう。世界の再構築、これこそがまさに、地球リストラ。


 それら半年後

 案の定、応募は募集人数を大きく下回り、目標の10分の一程度の希望者しか集まらなかった。だが、その間にも地球環境は日々悪化しており、日没以降は生活、インフラ、生命にかかわるもの以外の電気の使用は制限され、猛暑、慢性的な干ばつと局所的な豪雨等で食料は値上がり、庶民は政府からの支給で何とかやっていけるような状態であった。人々は、この状況に対する責任を互いに転嫁していがみ合っていた。

 まあ、想定の範囲内だが。他国では、議会で大統領の解任が決議されたり、小規模なクーデターや、集団自殺などあったが、何かが大きく変わるものでもなく、解任された大統領の席も、結局、誰もその重責に耐えきれず、元の大統領が再任された。また、自暴自棄なる人間は増えているが、それは治安を多少悪くした程度の影響しかなかった。

 わが国では期間ぎりぎりまで応募者を募ってそこから改めて対策を協議するといういつも通りの先延ばしを行うようだ。

 ただ、若手官僚の中では地方自治体と退場勧告に向けて私的な勉強会を開き準備は進めているようだ。大まかな枠組みは、市町村の保健課や民生委員により該当人数の候補者を選定しその地区と無関係な他府県の職員が匿名で勧誘を行う。ここまでは、採用されればいずれ公にはされるであろうが、その裏では、各市町村は勧誘応じた人数によって、また、所属職員が勧誘した人数により、次年度の以降の交付金の割合を検討するらしい。EROSによると最終的に5年以内に全人口を2割削減できれば地球環境は継続出来る。ただ、これを表に出すと5年間先延ばしとなるため、政治家には伝えられず、実務計画作成者にのみ情報が来ているとのこと。そこから逆算すると勧誘の開始は来年の10月からが現実的な日程であろう。選定はその前、6月~9月か。

 一介の民間人であるこの俺が、何故そんな情報を持っているかって。それは今まででも、情報が無ければこの厳しい社会を生き残ることは出来なかった。そう、情報収集能力こそが俺が生き残るすべである。この前の会見を見た翌日には行動を開始した。やるべきことは過去の経験から分かっている。

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