第3話「花畑」
草むらまで戻り、人間になれる場所まできたが、どうにも戻る気が起きない。
いや、厳密には戻る気がない訳ではない。でも、さっきのあのもふもふの子も、その子の言葉も気になっている。しかも戻ろうとしてるのにそっちに気が行っちゃって戻ることすら出来なかった。
(もぉ〜〜〜〜…)
泣きそうで下を見ると、影が伸びていた。空を見ると、すでに夕暮れで暖かな風と共に、淡いオレンジとそれに染まった雲でできた、綺麗な夕陽が目に入った。
(綺麗だな…)
上を向いているのになぜか涙が溢れてきて仕方ない。目を瞑るのは無力とでもいうよう
に、目を瞑っても首を振っても頬を伝う想いは止まらない。
(今はこのまま泣いていよう…)
そう思ってただただ泣いた。泣きじゃくった。自分の無力さも、傷つけたこのペンダントも、今はただ感情を溢れ出させるものだった。
しばらく泣いていると、黒猫がこちらを見ているのに気がついた。
「…どうしたんだ?」
その聞き慣れた声に、もう既に見慣れた眼や顔。まっ黒だけど夕陽が差して艶やかに光っている毛。その様に思わず見惚れてしまう。と同時に、止まりかけていた感情の歯車がまた動き出した。また泣いてしまった。私が泣いてる様を見て、黒猫はぎゅっと抱きしめてくれた。その暖かさや優しさに、余計に涙が出た。
そのまま眠ってしまったのだろうか。私は元に戻る草むらのところで寝転んでいた。目を開けると同時に、煌びやかな星が視界の目一杯まで入ってくる。特別な言葉はいらなく、ただ綺麗だった。本当にただ綺麗で、ずっと見ていたかった星空。でも、そろそろ家に帰らないと親に心配される。仕方なく人間に戻り、帰り道を歩いて行った。
次の日学校が終わるとすぐに草むらへ行き、即刻で猫になり、てくてく歩き回っていつもの黒猫ちゃんを探した。でも探しても探してもどこを歩き回っても思いっきり鳴いても現れる気配はない。
(どこに言ったんだろう…?)
そう思いながらとりあえず目の前にある道を進んだ。そこは半分廃墟で半分熱帯雨林みたいになってるようなめちゃめちゃ細い道だった。猫1匹がやっと通れるような道。そんなところを見つけてしまっては、入ってしまいたくなる。
勇気を出して一歩を踏み出した。少し湿っているような気がする。大体体育館裏とかにある苔が生えてる影になる場所みたいな土の感触。いつも靴で踏んでるからかわからないけど、案外柔らかい。地味に歩き心地がいい。そのまま奥へ進んで行った。
そう、これが、新たな何かになるとも知らずに_。
そのまま道をまっすぐ進んでいくと、何やら開けた場所にでた。そこは、みんながお花畑っていうようなところ。本当に花が咲き乱れていて、背の高い花は私が埋もれてしまうような高さのものもあった。
(人間の時なら写真撮ったのに…)
そうちょっと後悔しながらも謎にひらけた道を進んでいった。そうすると、何か違う色の花があった。
ちょっと怪しかったから走って見にいく。花びらをかき分けてどんどん走っていく。
何やら黒い花が見えてきた。ひまわりのちっちゃい番の花。
(見えてきた)
そう思ってスピードを上げる。花が見えてくる。
なんとあの黒猫ちゃんだったのだ。
「え?なんで、なんでいるのー⁉︎」
思わず叫んでしまって、自分の声が当たり一面に響いてく。途端、恥ずかしくなって顔を手で押さえた。
「お前、なんでここに居るんだ?」
私は答えられなかった。まさか、あなたを探していた、なんて血走っても言えない。
「まぁ、話は聞いてやるよ。そこ座れ。」
私は、黒猫ちゃんに全てを話した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます