第7話レイコさん

 太陽は沈み、辺りは昼の名残りを僅かに残すだけだった。

 街灯下のベンチにその女性と腰掛けた。

 僕の頭はまだ混乱していた。彼女がこの世の人で無かったなんて、

 とても受け入れ難いし、悲しい。

 その女性ひとが言った。

最初はじめ性質たちの悪い悪戯かと思ったわ」

 ああだから最初怒っていたのか。

「でも、君の話を聞いて悪戯でも、嘘をついている訳でも無くて本当にマイに会ったんだなって」

「ええ、確かにマイさんと一緒でした」

「どうしてあの子、私には姿を見せてくれないのかしら」

 僕は返答に困り、しばらく黙って考えた。 

「僕には判らないけど、会うとお母さんがいつまでもマイさんの事を気に病んでしまって、未来まえに進めなくなってしまうからでは無いでしょうか」

 と聞いた風な事を答えた。

「でも、やっぱり会えるなら会いたいわ」

 その女性ひとは言った。

「どうして僕は出会えたのだろう、もしかしてからかわれた?」

 今度はその女性が考え込んでしまった。やがて僕の顔をじっと見つめて、

「違うと思うわ、多分あなたの事が気に入ったのよ。だってあなた、あの子の父親によく似ているもの」

「似てる?僕が?」

「そう、姿形とかではなくて・・・匂いが」

「匂い・・・ですか」

  

 太陽は完全に沈んで、辺りはもう真っ暗になっていた。

「家まで送るわ」

 その女性は言って、車を取りに行った。

 軽トラの荷台に自転車を乗せて、僕が上ってきた道をゆっくりと下って行った。

 カーブミラーに差し掛かり車を停め、ミラーの元で二人手を合わせた。

 マイさんのお母さんはレイコさんと言った。

 

 帰り道の車中、レイコさんはマイさんのお父さん(つまり旦那さん)の話をしてくれた。

 戸田の漁師さんで体育会系、僕とは似ても似つかぬ人物なのだが、なにか匂いと言うか、醸し出す雰囲気が似ているのだそうだ。強いて言うなら人が良さそう?なところらしい。

 残念な事にマイさんが生まれて一年程経った頃、交通事故で亡くなられたらしい。

 旦那さんが亡くなられた後、レイコさんは早朝漁港で働き、週何回か午後からパートでだるま山のドライブインで働いているのだそうだ。

 マイさんは生前、学校が午前で終わる日にはお母さんと一緒にドライブインまで来て、付近を散歩したり、レストランのテーブルで勉強したりして時を過ごしていた。それと秋から冬にかけての夕日を見るのを楽しみにしていたそうだ。

  

 僕の家に着いた。

「ありがとうございます」

「火、木、土曜の午後はドライブインにいるから、良かったら遊びに来て、カレーがとても美味しいのよ、ご馳走するわ」

 そう明るく笑ってレイコさんは帰って行った。

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